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作成: 2000/03/15 菊澤 信宏

データ番号   :140029
赤外自由電子レーザー用赤外検出器
目的      :高感度、高速な赤外検出器の開発とその応用
研究実施機関名 :日本原子力研究所自由電子レーザー研究グループ
応用分野    :自由電子レーザー、赤外線、

概要      :
 赤外自由電子レーザーは今までにない光源である。自由電子レーザーに要求される赤外検出器の特徴について述べる。 
 

詳細説明    :
 光を測定する観点から見た場合、自由電子レーザーの特徴として、
 
・ミリ波から軟X線まで波長が選択でき、可変である、
・出力が数百ミリワットからメガワットまで変化する
・マクロパルスの中にミクロパルス列があるといった複雑なパルス構造をしている
 
などがあげられる。レーザー発振前の自発放射光を計測することによって電子ビームのパラメータを知ることができ、光共振器ミラーの調整にも重要な情報を与えてくれる。
 
 赤外線は可視光より長い波長の光であり、すべての物質から放射されている。その反面、光のエネルギーが小さいために検出が困難であり、バックグラウンドノイズが大きいという欠点も持つ。遠赤外自由電子レーザー用には高感度で応答速度の速い検出器が必要など、光検出器には厳しい要求が多い。
 
 遠赤外の検出器の種類には大きく分けて光のエネルギーを熱にして測定する熱型と、光と物質との量子論的効果によって測定する量子型とがある。熱型は検出する光の波長に依存しないという特徴があるが、応答速度が遅く、速い光のパルスの計測には適さないという欠点がある。一方、量子型はさらに大別して光起電型と光伝導型に分けられる。これらは光が半導体内部でつくる電子・正孔対の変化を検出するものであるが、光起電型は電流値の変化として、光伝導型は電気伝導度の変化として検出する。量子型検出器は検出感度が高く、応答速度も速いためにパルス計測には適しているが、感度は波長依存性を持ち、測定する光の波長に適した素子を選ぶ必要がある。また、一般的には液体窒素や液体ヘリウム温度まで冷却しなければ使えないという欠点がある。
 
 赤外線検出器を選ぶさいの評価基準としては以下のようなものがある。
 
・感度
 単位入射強度に対する出力信号をあらわす。黒体光源の温度やチョッピング周波数に依存するので、測定条件を示して表記されることが多い。
・分光感度
 感度の波長依存性で、一定量の入射光強度に対する出力であらわされる。特に量子型検出器は波長依存性を持つために、波長にあわせて素子を選ぶ必要がある。
・比検出能(D*)
 検出器の比較を行うために感度を受講面積の影響を除いた形であらわしたもので、値が大きいほど検出器の感度が良いことを示す。


図1 主な検出器の比検出能(D*)(原論文2より引用)

・時定数
 どれだけ速い時間変化の現象に応答できるかをあらわす量で、チョッピング周波数を決める場合や、光パルスの測定などの場合に重要である。自由電子レーザーの場合には光パルスの測定になるので検出器を選ぶときの重要なパラメータとなる。
 
 以下に主な検出器の種類をあげ、説明図1に主な検出器の比検出能(D*)を示す。
 
・光伝導型検出器
 単体の光伝導度変化を利用した検出器で、PbS、PbSe、MCT(HgCdTe)光伝導型素子などがある。
・光起電力型検出器
 半導体のn型とp型を接合部で光が吸収されて生じる電子と正孔による光起電電流を利用した検出器である。Ge、InAs、InSbなどを利用したものがある。
・焦電型検出器
 LiTaO3のような素子に光があたると温度が変化し誘電率が変化するが、その変化をとらえる。素子の配列を自由に変えることができ、1次元、2次元に配列させられる。室温で利用できるというメリットを持つ。
・ボロメータ
 金属、半導体、超伝導体などの薄片に光をあてると光を吸収して温度が上昇する。そのときの電気抵抗の変化から光の強度を計測する。
・フォトンドラッグ検出器
 p型Geに強い赤外光を照射するとGe結晶中の正孔は光の運動量を受け取って光の進行方向に起電力を誘起するが、この効果を利用した検出器である。この検出器は室温で動作し、1ナノ秒以下の速い応答をする検出器である。
 
 赤外検出器を選ぶときには、測定したい波長、赤外光の強度、光パルスの幅などに合わせて最適な種類の検出器を選ばなければならない。
 

コメント    :
 赤外自由電子レーザーの開発には高感度で応答速度の速い検出器が必要である。一方では赤外自由電子レーザー光を利用して、赤外光の検出過程の研究が進むことも期待できる。赤外光源、赤外検出器が開発がすすめば、赤外光を使った研究分野が広がると考えられる。
 

原論文1 Data source 1:
DETECTORS FOR INFRARED FREE ELECTRON LASERS
M. F. KIMMITT
Department of Physics, University of Essex
Infrared Phys. Vol.32, pp. 213-224, 1991

原論文2 Data source 2:
分光の基礎と方法
工藤恵栄
オーム社

キーワード:自由電子レーザー Free Electron Laser、赤外検出器 Infrared Detector、検出能 Detectivity
分類コード:140106, 140301

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