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作成: 2000/03/10 羽島 良一

データ番号   :140027
SASE方式による短波長自由電子レーザー
目的      :紫外及びX線領域における波長可変レーザーの開発
研究実施機関名 :Stanford Linear Accelerator Center (SLAC), Deutsches Elektronen-Synchrotron (DESY)
応用分野    :サブピコ秒時間分解レーザー分光、光子相関X線分光、非線形X線プロセス、超高強度場科学、非線形QED

概要      :
 高反射率をもつ鏡が存在しない波長領域で自由電子レーザー発振を得る方式として SASE (Self-Amplified Spontaneous Emission)がある。この方式を用いれば、光共振器を使わずに、時間/空間コヒーレンスを持ったレーザー光の発生が可能であり、紫外/X線領域のレーザー発振を目指した研究開発が各国で行なわれている。
 

詳細説明    :
 自由電子レーザー(FEL)の波長は電子ビームエネルギーとアンジュレータ磁場で決まるので、原理的にはX線領域の短波長まで発振が可能である。しかしながら、真空紫外〜X線領域では、高い反射率をもつ鏡がないために共振器型FELを構成することは不可能である。SASE(Self-Amplified Spontaneous Emission)は、光共振器を使わずにシングルパスでFELを発振させる方式である。SASE 方式によるX線自由電子レーザーは、第4世代放射光源と呼ばれ、米国、ドイツで開発が進められている。
 
 Kwang-Je Kim により発表された SASE の理論解析(原論文1)によれば、電子ビームが作る放射ノイズは、FEL相互作用を経てコヒーレントなレーザー光に成長する。この時のレーザーの成長率は電子ビーム、アンジュレータのパラメータで決まる。シングルパスでレーザー飽和(コヒーレントな光)を得るには、ピーク電流の大きな電子ビームと、長尺のアンジュレータが必要である。
 
 SASE による短波長自由電子レーザーを実現するには、極めて高品質の電子ビームが要求される。ここで言う高品質とは、低エミッタンス、大ピーク電流の意味である。高品質電子ビームは、光陰極RF電子銃、エミッタンス補償装置、バンチ圧縮器を組み合わせて生成される。
 
 X線領域で発振させるためには、数十〜百mのアンジュレータが必要である。このような長尺アンジュレータでは、いくつかのセクションに分割し、各セクション間に電子ビームの横方向の収束を得るための磁石が設置される。
 
 1999年時点でSASE方式のFEL研究は、赤外領域における原理実証がほぼ終わり、紫外からX線領域の技術開発に移っている。X線領域のFELを目指した開発研究は、米国とドイツで大規模に行なわれている(原論文2、3参照)。米国の計画、LCLS (Linac Coherent Light Source)は、SLAC (Stanford Linear Accelerator Center)の PEP-II 加速器に光陰極RF電子銃、バンチ圧縮器を設置し、SASE に必要な電子ビームを得るものである。0.15nm の発振を目指して 2002年から建設に着手する予定である。施設のレイアウトは図1参照。ドイツの DESY(Deutsches Elektronen-Synchrotron)では、リニアコライダの開発と協調してSASE方式のX線FELの研究開発を行なっている。


図1  Component layout of the 4.5-1.5 A LCLS within SLAC's B-Factory/linac system.(原論文2より引用。 Reproduced from Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 1996; 375:274-283, Figure 1(p.275), R.Tatchyn, J.Arthur, M.Baltay, K.bane, R.Boyce, M.Crnacchia, T.Cremer, A.Fisher et al., Research and development toward a 4.5-1.5Å linac coherent light source(LCLS) at SLAC, Copyright(1996), with permission from Elsevier Science.)

 

コメント    :
 SASE 方式を用いれば、空間/時間コヒーレントを持つ波長可変な紫外/X線レーザーが実現できる、特に他のコヒーレント光源が存在しないX線領域では SASE-FEL 開発の意義は大きい。ただし、1999年時点では、施設を構成する個々の装置(光陰極電子銃、電子バンチ圧縮器など)に開発課題が残されている。また、原理実証の次段階としてユーザー利用施設を建設するためには、現在のSOR施設のように多数のユーザーが同時に利用できる形態を構築できるかどうかが鍵であろう。
 

原論文1 Data source 1:
An analysis of self-amplified spontaneous emission
Kwang-Je Kim
Lawrence Berkley Laboratory
Nulcear Instruments and Methods in Physics Research A 250 (1986) 396-403

原論文2 Data source 2:
Research and development toward a 4.5-1.5A linac coherent light source (LCLS) at SLAC
R. Tatchyn 他31名
Stanford Linear Accelerator Center (SLAC)
Nulcear Instruments and Methods in Physics Research A 375 (1996) 274-283

原論文3 Data source 3:
An X-ray FEL laboratory as a part of linear collider design
R.Brinkmann, G.Materlik, J.Rossback, J.R.Schneider, B.-H.Wiik
Deutsches Elektronen-Synchrotron (DESY)
Nulcear Instruments and Methods in Physics Research A 393 (1997) 86-92

キーワード:自由電子レーザー、SASE、第四世代放射光源、X線レーザー
free-electron laser, SASE, fourth generation light source, X-ray laser
分類コード:140201

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