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作成: 2000/01/20 峰原 英介

データ番号   :140023
超伝導リニアック用小型冷凍機
目的      :CW(連続波)高出力超伝導リニアック駆動自由電子レーザーのための小型冷凍機の開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所東海研究所準連続波超伝導リニアック駆動自由電子レーザー、
トマス・ジェファーソン国立加速器研究所超伝導リニアック自由電子レーザー施設
応用分野    :ヘリウム冷凍機、極低温冷凍装置、超伝導リニアック、自由電子レーザー

概要      :
 原研超伝導リニアック駆動自由電子レーザーでは、液体窒素と液体ヘリウムの代わりに、小型極低温ヘリウム冷凍機を組み込んだ無蒸発の冷凍システムを開発した。高周波損失発熱をこの小型冷凍機で除熱される超伝導リニアックは、保守運転要員は不要で、故障保守を除き殆ど無故障で24時間355日連続運転される。今後、更に改良され、このような小型冷凍機が超伝導リニアックに標準的に使用されると予想される。

詳細説明    :
 原研超伝導リニアック駆動自由電子レーザーでは、今までの超伝導リニアックで必要であった循環する液冷媒である液体窒素と液体ヘリウムの代わりに、小型極低温ヘリウム冷凍機を組み込んだ無蒸発の冷凍システムを開発した。今までの超伝導リニアックの取り扱いが困難な理由は、この不安定な冷媒を大型外部冷凍機と超伝導リニアックの間で熱進入が安定しない極低温配管を遠距離経由して連続循環させる必要がある事にある。この循環する極低温液体冷媒を用いることなく、クライオスタット内部の高周波損失発熱を熱バッファーである少量の液体ヘリウム蒸発とこの小型冷凍機で冷却、再凝縮され、除熱される超伝導リニアックは、専門の保守運転要員は不要で、年1度の10日間の保守部品交換を除いて24時間355日連続運転される。既に7年間の運転実績があり、故障も含めて液体ヘリウムが途中で枯れたことは現在までない。平成8年度は完全に一年間無故障で運転が出来た。
 
 ここで使用される20冷凍トン以下の小型の極低温ヘリウム冷凍機は、圧縮機の能力が小さいため高圧ガス取締法の規制を届出のみで済ますことが可能で、通常の大型液化機では年間2回必要な安全弁等の動作確認が免除されている。このため年間1度の機器の通常保守のみで安全に連続運転が可能である。
 
 熱シールドを冷却する液体窒素の代わりに2段式ギッフォードマクマホン(GM)型冷凍機を利用しており、20K20Wまた80K140Wの能力を各段で発生することができる。1台当たりスーパーインシュレーター断熱多層膜約100層で輻射熱2kWを反射させ、残りの50W程度の残輻射、対流、伝導の進入熱をビームダクト、液体ヘリウム供給塔、断熱支持、カップラー用高周波同軸線、計測線等の各熱進入箇所でサーマルアンカーを、2重熱シールドを経由して設置することにより、このGM冷凍機により4k領域への熱進入を4.5W程度に押さえている。
 
 また、液体ヘリウムの代わりに2段式ギッフォードマクマホン型冷凍機にジュールトムソン(JT)断熱膨張部を追加した3段式小型再凝縮4K冷凍機を使用しており、約12Wの冷却能力を発生することができる。空洞共振器で発生した高周波損失熱は液体ヘリウム槽の内部で液体ヘリウムを蒸発させる。この蒸発熱は、液体ヘリウム槽内部で液面より1cm程度の高さに固定された再凝縮4K冷凍機熱交換機によって取り除かれ、液体ヘリウムの液面は冷凍機運転中は一定に保持される。図1は、この冷凍機のサーマルアンカーされた熱進入と冷凍機による熱迂回路の模式図である。図2は超伝導リニアックモジュールの断面図である。図3は加速器上に取り付けられたGM冷凍機とGM-JT冷凍機の写真である。


図1 熱進入と冷凍機による熱迂回路の模式図。 Heat Invasion, Thermal Anchoring and Heat Detouring by Helium Refrigerator.



図2 超伝導リニアックモジュールの断面図。 A crossectional drawing of the superconducting rf Linac Module.



図3 加速器上に取り付けられたGM冷凍機(左)とGM-JT冷凍機(右)の写真。 Photos of GM Helium Refrigerator(upper) and GM-JT Helium Refrigerator(lower).

 超伝導リニアッククライオスタットに小型冷凍機を組み込んで、超伝導リニアックを冷却する場合の利点と注意すべき点を現状でまとめると次のようになる。
 
 注意すべき点は1)現状で小型冷凍機の効率と能力に限界があり、それぞれ大型機(4Kで1Wに1kW電力)の8割程度(同等の実験例もある)と4Kで20W程度である。動作温度は現在1.64Kまで可能であるので温度の問題はない。2)振動が高精度な加速高周波位相振幅の制御及び自由電子レーザーに用いる場合にはレーザー共振器等の光学系制御に制限を与えている。産業応用上は、実際的な解決を図れているが、特に将来のx線FELや超高出力FEL等の高精度な応用、装置開発で問題となってくると考えられる。
 
 解決方法は、1)熱シールド冷凍機に関しては無振動パルスチューブ冷凍機を導入する。2)2種の冷凍機の振動方向を共振周波数の制御機器固定面や高周波伝送系の振動に弱いアンテナの振動方向等に直交させてこれらの結合実際的にゼロにする。(図4参照。)3)能動的振動相殺を行う。もちろんこれらの前に振動に伴う寄生振動が一番影響が大きいので、これを振動絶縁された剛性の高い支持体でのぞくことが肝要である。
 
 利点は、1)直運転が不要で、小型大型システム共に連続的な運転を安全に安価に継続できることで、大型施設のような大規模破損事故や高価な部品の破損は考えられない。2)システムの独立性が高く、小型の要素を分散しているの、故障修理が容易で、大型機で不可能な要素交換が可能である。さらに拡張性が高い。リニアモーターカーやNMR-CTの様に移動使用が可能である。


図4 可変結合主カップラー断面図。 A crossectional drawing of Main Coupler.



コメント    :
 GM、GM-JT形式の小型冷凍機は、日本原子力研究所に置いて、超伝導リニアックに初めて応用された。この冷凍機は原理的には、原始的な往復運動による断熱膨張により冷却を行うため、運転の安全性確実性はともかくも、発展の可能性が少ないように考えられがちであるが磁性蓄冷材等の材料の導入による効率の改善とさらに機械運動のないパルスチューブ冷凍機の発展を考えるとむしろ大型冷凍機の利用の方に発展の余地を狭くする要素が大きいと考えられる。

原論文1 Data source 1:
FIRST LASING JAERI QUASI-CW, AND HIGH- AVERAGE POWER FREE ELECTRON LASER DRIVEN BY A SUPERCONDUCTING RF LINAC
Eisuke J. Minehara, R.Nagai, M.Sawamura, M.Takao, N.Kikuzawa,M.Sugimoto, S.Sasaki, M.Okubo, J.Sasabe, Y.Suzuki, Y.Kawarasaki and N.Shikazono
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai Research Establishment, Free Electron Laser Laboratory, 2-4 Shirakata Shirane, Tokai, Naka, Ibaraki 319-11, JAPAN
NUCLEAR INSTRUMENTS AND METHODS A331, p182(1993)

原論文2 Data source 2:
CEBAF UV/IR FEL SUBSYSTEM TESTING AND VALIDATION PROGRAM
G.R. NEIL, S.V.BENSON,H.F.DYLLA AND H.LIU
Thomas Jefferson National Accelerator Facility, 12000 Jefferson Avenue, Newport News, VA 23606 USA
NUCLEAR INSTRUMENTS AND METHODS A358, p159(1995)

キーワード:超伝導リニアック、ヘリウム冷凍機、自由電子レーザー
superconducting rf linac, Helium Gas Refrigerator, free electron laser
分類コード:140302, 140305, 140801

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