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作成: 2000/01/20 峰原 英介

データ番号   :140022
多波長赤外レーザーの医療応用
目的      :虚血性心臓疾患に対する血管新生レーザー手術のための多波長赤外レーザーの開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所東海研究所準連続波超伝導リニアック駆動自由電子レーザー、
群馬大学医学部第2外科教室
応用分野    :外科用レーザーメス、歯科用レーザードリル、虚血性心臓疾患血管新生レーザー手術、超伝導リニアック、自由電子レーザー

概要      :
 米国バンデアビルト大医学部自由電子レーザー医療研究施設は赤外6.45ミクロン帯の多波長レーザーメス応用研究を進めている。また自由電子レーザー研究所、原研超伝導リニアック駆動自由電子レーザーでも医学応用を目指した6-7ミクロン帯のFEL光源の研究と応用研究や基礎的な実験を行っている。
 

詳細説明    :
 米国テネシー州バンデアビルト大医学部自由電子レーザー医療研究施設を中心とする研究チームから赤外6.45ミクロン帯にある3個の強い吸収のピークとそのあいだの谷が吸収の差が桁違いに大きなことを利用して、レーザーメスに最適な波長帯として使用する提案が、その特許と共に提出されている。最近の報告によると数ピコ秒程度の尖頭値を持つFELでは平均数十mWで、シャープな切断面と十分な切断速度をもって、かつ切断部の熱損傷が無く、縫合や接合が可能であることが確かめられた。バンデアビルト大学では、最近動物実験から人体実験へ応用研究の段階を進めており、大学や連邦政府の承認を得た。つい最近、世界で初めて人体に対するFEL手術が執行され、今後、基礎実験の段階が更に実用化に近づくものと期待される。
 
 わが国でも、大阪の自由電子レーザー研究所で歯科や眼科の応用基礎技術が開発されている。しかしながら、FELの対抗馬である、同一波長帯のOPOレーザーが波長可変で同様の機能を有すると考えられて来たが、パルスが長く、尖頭値が低すぎるせためか、切断が全く起こらなかったことが報告されている。
 
 水および人体組織の赤外吸収線分布が図1に示されている。比較的長い波長ながら22ミクロン帯で鶏の骨や豚の心臓及びセラミックの穿孔実験が行われた。図2は骨の切断実験の結果でFELできれいに切れている事がわかる。100Wから数百W程度の比較的小型で医療用机上型超伝導リニアック自由電子レーザーが必要とされており、エネルギー回収技術と高電界低電流超伝導リニアック技術で放射線が殆ど発生しない、加速器より使いやすい装置の概念設計が行われている。エネルギーを比較的低く17MeV程度に押さえるために3倍波を共振器ミラーで主に選択して作る設計となっている。
 
 図3に現在試験中の原研超伝導自由電子レーザー装置の外観と発振器部分を示す。この14.4mの共振器のミラーを3倍波のみを損失無しで反射するものに置き換えて6-7ミクロン帯の強いFEL光を得る予定である。99.9%以上の全反射ミラーは誘電体多層膜、または金ミラーに増反射多層膜を付着させたものを、99%反射/1%半透過ミラーは誘電体多層膜を利用する予定である。増反射膜以外は22ミクロン帯は殆ど透過しないので発振しない。


図1 水および人体組織の赤外吸収線分布。(Free Electron Lasers, C.A.Brau) Infrared Radiation Absorption Lines for Mammals and water vapour.(原論文3より引用)



図2 骨のレーザー照射による切断。(Vanderbilt University) FEL Cuts a Bone.(原論文4より引用)



図3 原研超伝導自由電子レーザー装置の外観と発振器。 The JAERI Superconducting rf Linac based Free-Electron Laser.

 

コメント    :
 高い尖頭値で蛋白質のゼラチンーコラーゲン変化と水の蒸発が突発的に発生する波長であるため、熱的な損傷も殆ど認められず、再度縫合や接合が可能なきれいでシャープな切断面が得られる。他の短パルスレーザーでも似た現象が散見されるが、この波長帯は特にきれいに見える。また3個の吸収ピークをうまく使い分けることが水の含水量の異なる皮膚や内組織や骨等で可能とされている。具体的な処方箋が確立されるまで多くの臨床的な実験が必要であろう。
 

原論文1 Data source 1:
FIRST LASING JAERI QUASI-CW, AND HIGH- AVERAGE POWER FREE ELECTRON LASER DRIVEN BY A SUPERCONDUCTING RF LINAC
Eisuke J. Minehara, R.Nagai, M.Sawamura, M.Takao, N.Kikuzawa,M.Sugimoto, S.Sasaki, M.Okubo, J.Sasabe, Y.Suzuki, Y.Kawarasaki and N.Shikazono
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai Research Establishment, Free Electron Laser Laboratory, 2-4 Shirakata Shirane, Tokai, Naka, Ibaraki 319-11, JAPAN
NUCLEAR INSTRUMENTS AND METHODS A331, p182(1993)

原論文2 Data source 2:
CEBAF UV/IR FEL SUBSYSTEM TESTING AND VALIDATION PROGRAM
G.R. NEIL, S.V.BENSON,H.F.DYLLA AND H.LIU
Thomas Jefferson National Accelerator Facility, 12000 Jefferson Avenue, Newport News, VA 23606 USA
NUCLEAR INSTRUMENTS AND METHODS A358, p159(1995)

原論文3 Data source 3:
Free-Electron Lasers
C.A.Brau
Vanderbilt University, Department of Physics and Astronomy 
Academic Press Inc.

原論文4 Data source 4:
Research at Vanderbilt, Fall 1996, Vanderbilt University, Vanderbilt's FEL The First Decade
 
The W.M.Keck Foundation Free-Electron Laser Center  
 

参考資料1 Reference 1:


キーワード:多波長赤外レーザー、超伝導リニアック、ヘリウム冷凍機、自由電子レーザー
Multi-wavelengths Infrared Lasers, superconducting rf linac, Helium Gas Refrigerator, free electron laser
分類コード:140302, 140305, 140801

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