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作成: 2000/01/20 峰原 英介

データ番号   :140020
ダイオキシン類似環境汚染物質の波長選択された赤外レーザーによる分解
目的      :高出力超伝導リニアック駆動自由電子レーザーを用いた遠隔ダイオキシン類似環境汚染物質高感度検知及び分解処理システムの開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所東海研究所準連続波超伝導リニアック駆動自由電子レーザー
応用分野    :ダイオキシン類似環境汚染物質高感度検知、同分解、超伝導リニアック、自由電子レーザー

概要      :
 原研超伝導リニアック駆動自由電子レーザーの高繰り返し、高出力、短パルス、波長可変光によって遠隔の大気中に滞留分布するダイオキシン類似環境汚染物質を高感度検知し、分解することを計画立案した。これに沿って他の赤外レーザーを用いて基礎実験を行い、吸収帯選択励起による熱的分解により、分解された傍証を得た。原研超伝導リニアック駆動自由電子レーザーを3倍波発生に最適化して、吸収分解に最適波長である7ミクロン光発生の準備を行った。
 

詳細説明    :
 ダイオキシン類似物質とはフラン類やPCBばかりではなく、トリブチルスズを除く環境ホルモンとして問題になっているベンゼン基を持つ有機化合物を指している。図1はこれらの代表的な化合物の化学式を表示している。また、SF6やフロン類など赤外吸収帯がある地球温暖化物質や大気汚染物質も含めて考えることが出来る。


図1 環境ホルモンはベンゼンを含む比較的単純な有機化合物。 Enviornmental Holomons, relatively-simple Aromatic based Organic compounds .

 これらの化合物はそれぞれの構成する原子や基やそれらの集団要素に従って赤外吸収帯が異なる。そして多くの場合、4-5ミクロン帯から14ー16ミクロン帯までに相互に分離した赤外吸収線が分布している。とくにダイオキシン類とフラン類は、通常7ミクロンと14ミクロンの付近に顕著な吸収線が存在する。この吸収線を選択励起し、自由電子レーザーの高出力光を用いて高感度遠隔検知や遠隔分解を行うことが出来る。実験室規模では、自由電子レーザーや炭酸ガス赤外レーザーを用いて温暖化物質大気汚染物質やダイオキシン類等の環境ホルモンを分解することに成功している。超伝導リニアック駆動自由電子レーザーは、10MHz以上の高繰り返し、高出力で波長可変かつピコ秒の短パルス特性を持っている。
 
 図2のように、直接乃至は間接光源として低層大気中、対流圏や成層圏まで3次元の超伝導リニアック自由電子レーザー光のスキャンを行い、受動的や能動的FTIR信号や分光光度を計測する事によって高感度のこれら汚染物質の高感度検知を行う。さらに煙突や産廃処理施設からの飛媒や粒子状になって滞留分布するこれらの汚染物質を自由電子レーザー光によって分解し、その分解過程を連続検知確認する。これらの準備実験として、原研超伝導リニアック駆動自由電子レーザーにおいて3倍波生成が可能なようにミラーを交換して、7ミクロン生成を行う。すべてのダイオキシン、フラン類はこの波長近傍に強い吸収帯があるので、原理的にはこの周辺のみで波長選択的にすべての異性体を区別して検知、分解することが可能である。
 
 基礎的な過程は未だ明確でない点が多いが、吸収帯選択励起による熱分解が議論されている、また多光子励起はこの出力では起こりにくいと考えられているが、どの分解基礎過程を通るか?の傍証は幾つか確認されているが、明確な証拠はまだ出そろっていない。


図2 環境有害物質の遠隔モニタ及び分解処理概念図 Wavelength-selective Infrared Laser Dissociation and Remote Monitoring Dioxin-like enviornmentally-harmful compounds.

 図3はベンゼンの赤外吸収スペクトラムで他のベンゼンを含む他の化合物のスペクトラムと似通っている。ベンゼンは赤外レーザーでは分解されないとされているが、超伝導リニアック自由電子レーザーの短パルス高出力波長可変光を用いて吸収帯選択励起による熱的分解の可能性を確認する事が期待されている。これが確認されればダイオキシン類の赤外レーザー波長選択励起熱分解の有力な傍証となる。


図3 ベンゼンの赤外吸収。 Infrared Absorption lines of Aromatic compounds.

 

コメント    :
 4-5ミクロン帯から14ー16ミクロン帯までに相互に分離した赤外吸収線が分布する多くの有機化合物の選択励起による遠隔高感度検知と分解は、可能であるが他の方法と比べて、感度や効率やコストの面で絶対的に有利であるわけではない。今後の研究の進展によるところが大きい。
 

原論文1 Data source 1:
FIRST LASING JAERI QUASI-CW, AND HIGH- AVERAGE POWER FREE ELECTRON LASER DRIVEN BY A SUPERCONDUCTING RF LINAC
Eisuke J. Minehara, R.Nagai, M.Sawamura, M.Takao, N.Kikuzawa,M.Sugimoto, S.Sasaki, M.Okubo, J.Sasabe, Y.Suzuki, Y.Kawarasaki and N.Shikazono
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai Research Establishment, Free Electron Laser Laboratory, 2-4 Shirakata Shirane, Tokai, Naka, Ibaraki 319-11, JAPAN
NUCLEAR INSTRUMENTS AND METHODS A331, p182(1993)

原論文2 Data source 2:
ダイオキシンへの赤外レーザー照射実験
山内俊彦、峰原英介、菊澤信宏、早川岳人、沢村勝、永井良治、西森信行、羽島良一、静間俊行、亀井康孝、猪飼久登、伊藤伸一、古川行夫
関西研究所、光量子科学研究センター、自由電子レーザー研究グループ他
環境科学会誌, 13(3), 383-390(2000)

参考資料1 Reference 1:
環境ホルモン
筏義人
京都大学医用高分子研究センター
講談社、ブルーバックス、Y860

参考資料2 Reference 2:
分光学への招待
尾崎幸洋
関西学院大学理学部
産業図書株式会社 S Books

キーワード:ダイオキシン類似環境汚染物質、波長選択、赤外レーザー、分解、超伝導リニアック駆動
自由電子レーザー
Dioxin-like enviornmentally-harmful compounds, Wavelength-selective, Infrared Laser,
Dissociation, superconductingrf linac based free electron laser
分類コード:140302, 140305, 140801

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