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作成: 2000/01/20 峰原 英介

データ番号   :140019
超伝導リニアック駆動自由電子レーザーにおけるエネルギー回収
目的      :高いウォールプラグ効率を持つCW(連続波)超伝導リニアック駆動高出力自由電子レーザーの開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所東海研究所準連続波超伝導リニアック駆動自由電子レーザー、
トマス・ジェファーソン国立加速器研究所超伝導リニアック自由電子レーザー施設
応用分野    :原子炉廃炉除染、光化学、光加工、舶用鋼板溶断溶接、パワービーミング
環境問題、地球温暖化対策、溶接溶断機、同位体分離、原子分離、パワービーミング、宇宙デフリ対策

概要      :
 高いウォールプラグ効率で高出力連続波自由電子レーザー(FEL)を実現するには、エネルギー回収が可能な超伝導リニアックを駆動源とする必要がある。これを実現するために、駆動源の損失を出来るだけ減らす事が不可欠で、入射器と主加速器での減速と加速ビームの重心速度の差を厳密に一致させるために減速と加速ビーム方向を反転させる事が必要となる。又、入射器の電源容量を出来るだけ小さくするために静電型減速器の熱損失を小さくする必要がある。このような超伝導リニアックFELは、冷凍機の容量以外は、例えば高周波増幅器の大幅な負荷容量減により、製造費の大幅な節約や部品簡略化が可能となる。

詳細説明    :
 超伝導リニアック自由電子レーザーは、極低温冷凍機及び其の運転電力を必要とするが、高周波からビームへのエネルギー変換に損失がないため、高出力高効率なレーザー発振を実現できる。この冷凍機電力がシステムの最大の電力損失である。超伝導リニアックの高周波電力は、加速位相で電子ビームのエネルギーに100%変換されるがこれがすべて発振後に減速位相で回収されるので、基本的には仕事をせず、波長を短くするために電子ビームエネルギーをあげるのに使用される。
 
 レーザーエネルギーは、通常ビームエネルギーの通常1%程度の引き出し効率であるが、これは静電型入射器から供給されるので、超伝導リニアックでは加速で与えるエネルギーと減速で回収されるエネルギーは同一である。このとき主加速器に必要な高周波電力は、エネルギー回収によって得られるので、純粋に表面抵抗損失を単に補償する超伝導リニアックの空洞内で電界を発生するに最低限必要な量、例えば、回収無しの千分の1程度以下で十分である。
 
 しかしながら、振幅位相の制御を十分な速度と精度で行うために結合係数を百分の1程度に留めておく必要があるため、必要な高周波電力は数百w以下となり、ダミーロード、主カップラー、伝送線路も同軸ケーブルの簡単で安価な小電力容量の物で十分となる。入射器はこれと異なり、レーザー発振によるビーム電力の損失を総て負担するために大きな高圧乃至高周波電源の電力が必要となる。ここで、入射器でエネルギー回収を行うことが出来れば、入射器で必要な電力は入射器の全ビームエネルギーではなく、光に変換された電力分のみで良くなり、大きな効率の向上が得られる。完全回収であるので、ビーム電流が大きく、つまりビーム電力が大きければ大きいほどウォールプラグ効率が改善していく。また、このときの冷凍機負荷はビーム電流がいくら増えても同一である。
 
 減速ビームと加速ビームが反転せずに同方向であるとき、電子ビームの重心速度は、10MeV以上でないと加速と減速で時間差が出来て同じ位相に乗らずにエネルギー回収率が減少する。入射装置と主加速器での減速と加速ビームの重心速度の差を厳密に一致させるために、減速と加速のビーム方向を反転させる事が必要となる。反対方向に加速と減速の方向を取ると、回収系の部品点数も設置面積も大きく減らすことが可能となる。
 
 この様な臨界に近い結合係数の小さな形状の小電力主カップラーを持ち、高い負荷Q値を持つ超伝導リニアックは、他励式の共振回路を持つ大電力超伝導リニアックと言うよりは、nA程度の加速電流で動作している重イオン超伝導リニアックに動作やその自励式共振器回路構成が似ている。エネルギー回収によって、高価な大電力で大型の高周波源、伝送線路、ダミーロード等の高周波部品、主カップラーを使用する必要はなくなり、入射器の高圧電源も光の変換分に近い負荷電流容量まで節約することが出来る。さらに、放射線の発生は殆ど無視できる水準まで減少し、高価な放射線遮蔽壁を設置する必要もなくなる。


図1 超伝導リニアックにおけるエネルギー回収の概念説明図。 A Conceptual Explanation of Beam Energy Recovery in a Superconducting rf Linac.



図2 原研で現在開発中のエネルギー回収型超伝導リニアック自由電子レーザー。 JAERI Superconducting rf Linac-based Free-Electron Laser with Beam Energy Recovery



図3 反転配位のエネルギー回収型超伝導リニアック自由電子レーザー Superconducting rf Linac basedFree-Electon Laser with Beam Energy Recovery and Reflextron geometry.



コメント    :
 大電流のエネルギー回収型の入射器と超伝導リニアックを用いて、自由電子レーザーを駆動させると冷凍機の大きな電力が完全な損失として効率を下げることになる。また、入射器の光変換分以外の電力損失が2番目に大きい。その他の高周波源、ビーム輸送系、真空ポンプ類や制御システムは非常に小さいので、損失への大きな寄与はしない。40kW光出力で10%程度のウォールプラグ効率が期待できる。これより大きな光出力はより大きなウォールプラグ効率を実現できる。

原論文1 Data source 1:
FIRST LASING JAERI QUASI-CW, AND HIGH- AVERAGE POWER FREE ELECTRON LASER DRIVEN BY A SUPERCONDUCTING RF LINAC
Eisuke J. Minehara, R.Nagai, M.Sawamura, M.Takao, N.Kikuzawa,M.Sugimoto, S.Sasaki, M.Okubo, J.Sasabe, Y.Suzuki, Y.Kawarasaki and N.Shikazono
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai Research Establishment, Free Electron Laser Laboratory, 2-4 Shirakata Shirane, Tokai, Naka, Ibaraki 319-11, JAPAN
NUCLEAR INSTRUMENTS AND METHODS A331, p182(1993)

原論文2 Data source 2:
CEBAF UV/IR FEL SUBSYSTEM TESTING AND VALIDATION PROGRAM
G.R. NEIL, S.V.BENSON,H.F.DYLLA AND H.LIU
Thomas Jefferson National Accelerator Facility, 12000 Jefferson Avenue, Newport News, VA 23606 USA
NUCLEAR INSTRUMENTS AND METHODS A358, p159(1995)

キーワード:高出力、自由電子レーザー、超伝導リニアック、連続波、ビームエネルギー回収
high power, free electron laser, superconducting rf linac, continuous-wave(CW), beam energy recovery
分類コード:140302, 140305, 140801

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