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作成: 1998/11/25 前原 直

データ番号   :140015
ミリ波帯自由電子レーザーによる核融合プラズマ加熱
目的      :ミリ波帯自由電子レーザーによる核融合プラズマ加熱
研究実施機関名 :日本原子力研究所 那珂研究所 核融合工学部、オランダFOM研究所
応用分野    :核融合加熱、高勾配加速器技術、宇宙レーダー、環境分野

概要      :
 ミリ波帯自由電子レーザーは、数10MWクラスからGWクラスの大出力発振が可能であり、周波数を容易に変えることができるために、核融合プラズマの電子サイクロトロン加熱 システムの高周波源として有望視されている。また大出力ミリ波帯自由電子レーザーは、高勾配加速器技術、惑星レーダー、誘雷、宇宙デブリレーダー、オゾン層修復、大気中 温暖化ガス微量粒子測定等の応用にも期待されている。
 

詳細説明    :
 近年のトカマク装置での核融合研究では、プラズマの閉じ込め性能を向上させるために、 電子温度分布の制御が重要であることから[1−3]、電子サイクロトロン共鳴加熱(ECRH)により局所的にプラズマ中の電子を加熱するECRHシステムの開発が進められている。また このECRHでは、急激なプラズマの崩壊現象であるディスラプションを制御できることが分かってきた[3]。
 
 磁場中の電子は、磁力線のまわりにジャイロ運動をしており、プラズマ中の磁場の強さを Bとすると、電子のジャイロ運動の周波数fは、
 


図1  (原論文1より引用)

 
で与えられる。ここで、eは電子電荷、meは電子の質量である。ωceの整数倍の周波数をもつミリ波をプラズマに入射してやると、ミリ波のエネルギーは共鳴的に電子に移行して行き、加熱が起きる。これがECRHの原理である。多くの場合、ωceないしは2ωceの周波 数を使う。
 
 トカマク装置の場合、プラズマ中の磁場はトロイダル磁場が支配的であり、その強度はプラズマ中で、図3に示すように
 


図2  (原論文1より引用)

 
に従って変化する。ここでB0はプラズマ中心でのトロイダル強度、R0はトーラスの回転中心軸からプラズマ中心までの距離、Rはトーラスの回転中心軸からプラズマ中のある位置までの距離である。プラズマ中の位置が変わると、その場所での磁場強度が変わり、その位置の電子のジャイロ運動の周波数も変わることが解る。


図3 電子共鳴加熱の原理。 周波数の異なるfA、fBのマイクロ波はプラズマ中の異なった場所に吸収される。 (原論文1より引用)

 図3に模式的に示したように、入射ミリ波の周波数を変えれば、プラズマ中での共鳴点を変えることができる。これがプラズマの局所的電子加熱ができるという意味である。実際のトカマク装置の磁場は、1〜8[T]であり、ECRHに必要な周波数は、30〜250[GHz]程度となる。従来、この周波数帯のパワーソースとして、ジャイロトロンが唯一のソースであり、これまで35〜100GHz帯において、加熱入力100kW〜1MWの範囲において、ECRH実験研究が行われてきた。しかし、ジャイロトロンは原理的に単一周波数の発振管であるために、プラズマ中の共鳴点を変える場合、幾つかの周波数の異なったジャイロトロンが必要となる。一方、自由電子レーザでは、ビームエネルギーを変えることにより、容易にその発振周波数を変えることができ、このため一つのソースで加熱の共鳴点を容易に変えることが可能である。この点が自由電子レーザーがプラズマ加熱のソースとして注目されている理由である。
 
 世界に先駆けて35GHzで、出力1GWの発振に成功した米国ローレンスリバモア国立研究所では、ETA-IIとよばれる線形誘導加速を用いて140GHz、1〜2GWの自由電子レーザー発振を行い、このマイクロ波をAlcator-Cというトカマク装置に入射してトカマクプラズマの加熱実験が行われた(MTX実験:Microwave Tokamak Experiment)。このMTX実験では、単パルスであるが、2GW程度のパワーまでは、プラズマに不安定性を引き起さずにマイクロ波を吸収させることができることが明らかになった。
 
 線形誘導加速器を用いた自由電子レーザーで、核融合プラズマ加熱に必要とされる平均出力MWクラスのパワーを得るためには、例えばパルス幅100ns、出力1GWの自由電子レーザーでは、10 kHzの動作をさせれば良い。今後、線形誘導加速器では、高繰返しの研究開発が重要となってくる。
 

コメント    :
 大出力ジャイロトロンの開発では、高周波出力窓の開発が大きな鍵であったが、最近、高周波窓材として、大口径(φ90)の人工ダイヤモンドが開発された。これにより1MW級連続発振のジャイロトロン開発が急ピッチで進められているが、単一周波数である。また、次期装置の核融合プラズマ加熱のECRHシステムとして、1MW出力クラスのジャイロトロンが数10本以上必要となる。一方、線形誘導加速器を用いた自由電子レーザーでは、平均出力を得るためには、10kHz以上の繰返し運転が必要となるが、電源や磁気スイッチの冷却を解決すれば良い。周波数可変とECRHシステムの簡素化等に、次世代のトカマク装置において、期待できそうだ。また、GWクラスのミリ波帯自由電子レーザーは、核融合分野だけでなく高勾配加速器技術、惑星レーダー、誘雷、宇宙デブリレーダー、オゾン層修復、大気中温暖化ガス微量粒子測定等の応用にも期待されており、本格的な応用研究準備がが開始されている。
 

原論文1 Data source 1:
トカマクプラズマの自由電子レーザー加熱計画
志甫 諒
日本原子力研究所 那珂研究所 核融合工学部
エネルギー・資源、Vol.10.No.6(1989)

参考資料1 Reference 1:
Regiume ofImproved Confinement and High Beta in the Neutral-Beam Heated Divertor Discharges of the ASDEX Tokamak
F.Wagner,G.Becker,K.Behringes,D.Cambell et al.,
Max-Planck-Institutre,Plasmaphysik,Munchen,Germany
Phys. Rev. Lett.49(1982)1408

参考資料2 Reference 2:
Observation of H-Mode Confinement in the DIII-D Tokamak with Electron Cyclotron Heating
J.Lohr,B.W.Stallard,R.Prater, R.T.Snider et al.,
General Atomic,San Diego, California,
Phys. Rev. Lett. 60(1988)2630

参考資料3 Reference 3:
H mode Observed in the JFT-2M Tokamak with Edge Heating by Electron Cyclotron Waves
K.Hoshino,T.Yamamoto, H.Kawashima,N.Suzuki,Y.Uesugi,M.Mori et al.,
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai Research Establishment
Phys. Rev. Lett. 69(1992)2208

キーワード:プラズマ加熱、電子サイクロトロン共鳴加熱、ミリ波、自由電子レーザー、線形誘導加速器、トカマク装置、ジャイロトロン
Plasma Heating、Electron Cyclotron Resonance Heating、mm-wave、Free Electron Laser、Induction Linac、Tokomak、Gyrotron
分類コード:140106, 140203, 140302

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