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作成: 1998/12/08 北谷 文人

データ番号   :140013
自由電子レーザー用高性能鏡の開発
目的      :自由電子レーザーの実用化のために、低損失高光耐力をもった、高性能鏡の開発
研究実施機関名 :動力炉・核燃料開発事業団先端技術開発室、電気通信大学レーザー極限技術研究センター、国立天文台
応用分野    :極限レーザー、光化学、光加工

概要      :
 高効率高出力の波長可変レーザーとして原子力での利用が期待されている自由電子レーザー(FEL)の実用化のために低損失高光耐力をもった高性能鏡の開発を行う。FEL用の高性能鏡製作のために新しい膜材としてDLC膜を考え、この光破壊強度の測定を行った。また、新しい成膜法としてCVD法によるフッ化物膜の製作とイオンビームスバッタ(IBS)法による短波長域鏡の製作についての研究を実施した。
 

詳細説明    :
 レーザーシステムにおける光学系は、能動的に動作する部分ではないが、しばしばレーザーシステムそのものの動作を律する。例えば、大出力レーザーにおいて出力光強度は、共振器の光破壊強度で決められる。また、周波数超安定化レーザーにおいては、周波数の安定度は、リファレンスになる共振器のフィネスで決められる。高フィネスの共振器を構成するためには、高反射低損失のミラーが必要である。さらに、波長可変レーザーでは、波長の可変幅は、共振器鏡の周波数特性で決定される。このために、広範囲で反射率の周波数特性がフラットなミラーが必要となる。
 
 原子力用新レーザーとして、実用化が期待されている自由電子レーザー(FEL)は、低ゲイン、高エネルギー雑音光の存在のような特性により、その動作のためには、非常に高性能な光学素子が必要となる。
 
 自由電子レーザーのゲインは、発振波長が短くなるほど低くなるために、紫外域での動作では、共振器用のミラーは、反射率が極めて高く、損失が極めて低いものが必要となる(反射率99.999%損失10ppm以下)。
 
 また、自由電子レーザーは、高速で運動する電子と光の相互作用で動作するレーザーであるから、共振器内には、微弱ではあるが発振レーザー光より高エネルギーを持った光が存在する(ウィグラー光、レーザー光の高調波成分)これらの光は、強度的には微弱であるが、非常に高いエネルギーを持っているので光学素子に大きな損傷を与える。
 
 以上の特性をふまえ、自由電子レーザーの実用化のために、高光耐力低損失の高性能鏡を開発するための基礎研究を実施した。特に、現在性能の劣る短波長用の光学素子について性能向上をはかることを目的に、新しい光学膜および製膜法について研究を行った。
 
 新しい膜材として、アモルファス炭素膜(DLC膜)を考え、イオン蒸着法による製膜装置を製作した(図1)。これを用いて石英基板上にDLC膜を生成し、紫外光(308nm)での、光破壊強度を測定し、2J/cm2程度の光破壊強度をもった膜が製作できた、これは、一般に用いられる紫外用の膜材であるZrO2と同等である。


図1 Diagram of DLC film production System (原論文1より引用)

 新しい製膜法の研究としては、優秀な膜材である、フッ化物膜を、簡便に精度良く生成するための方法として、CVD法によるフッ化物膜生成装置(図2)を試作し製膜試験を実施した。予備試験として、種々の酸化物膜の生成試験を実施して、石英基板上にCe2O3,Al2O3,HfO2の単層膜を生成できた。


図2 Diagram of fluoried film production System

 また、電気通信大学、国立天文台と共同で現在工業的にもっとも優秀な膜が作成できるイオンビームスバッタ法による紫外域膜生成のためデータの収集を行った。このために、Si基板上にAl2O3単層膜の生成試験を行った。
 

コメント    :
 FEL用の光学系の開発は、その用途が非常に特殊であるために、これのみでは、開発を大きく進めることは、難しい。しかし、この技術は、FELと同等の極限的なレーザ(超高安定度レーザー、超高強度レーザーなど)に対し大いに使い得る技術であるので、このような、分野との共同を考えることによって、大きな進歩がみこめると、考えられる。
 

原論文1 Data source 1:
原子力基盤クロスオーバー研究の現状と今後の展開 ( 5 )、VI.原子力用レーザー分野 [4] 自由電子レーザー用高性能鏡に関する研究
北谷 文人
動力炉・核燃料開発事業団 先端技術開発室
原子力工業、第42巻、第9号、71(1996)

キーワード:光学薄膜、DLC、CVD、イオンビームスバッタ
optical thin film, DLC, CVD, ion-beam sputtering
分類コード:140104, 140201

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