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作成: 1999/01/15 江本 隆

データ番号   :140012
電子銃と入射器の開発
目的      :高品質ビーム用入射器の開発
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構大洗工学センター
応用分野    :大電流加速器、自由電子レーザー

概要      :
 大電流のCW(連続波)電子線形加速器では、入射部からの電子ビームは後段においてビームの発散やハローにより、ビームが加速管壁にあたることを避けるために、高品質のビームを入射部で発生させる必要がある。大電流加速器(エネルギー:10MeV、平均電流:20mA、パルス幅:4ms、繰り返し:50Hz)に適用した電子銃と高周波チョッパーの特徴について述べる。
 

詳細説明    :
 ビームの洩れによる構造物の劣化や放射化を防ぐことは、大電流加速器においては重要な要因である。電子ビームは加速電場の歪みや空間電荷効果(電子自身の持つ電荷による反発力)の影響を特に低エネルギー部(入射部)で受けやすい。入射部は、加速器全体のエミッタンス(ビームの質を示す量)を左右するため、入射部から出ていくビームのエミッタンスをできるだけ小さくすることが大電流の安定な加速を後段で保つために必要である。
 
 本加速器の平均ビーム電流は、多くの電子線形加速器がマイクロアンペア程度であるのに比べ2、3桁高く、通常電子銃の電流制御に用いるメッシュグリッド方式 (被制御電子ビームが制御用グリッドを通過する方式)ではグリッドに流れる電流が大きく熱的な限界に達するため採用できない。このため、本電子銃ではダブルアパーチャーグリッドを用いた熱陰極型を採用し、図1に示すように、カソードから出たビームが直接グリッドに当たらないアパーチャーを設け、電位面の変位の影響は第二グリッドにより補償し、エミッタンスの増加を抑えている。ダブルアパーチャーグリッドを採用したことにより、第一、第二グリッド各々に5kV、20kVのカットオフ電圧が必要となり、100V以下を使用するメッシュグリッドと比べるとその制御用電源は複雑なものを採用せざるを得ない。
 
 波形整形方式はグリッドパルス幅が数μs以下であれば、種々の波形整形回路やパルス変圧器などが採用できるが、パルス幅4ms、5kVおよび20kVの電圧波形に対しては多数の電界効果素子 (FET) を重ねた回路を用ている。構造は図1に示すように通常の電子銃と異なり縦型で、カソードの部分が回転できる構造となっている。電子銃を他の出口に向け電子ビームを引き出し、種々の測定が真空を破らずに行うことができる。


図1 Cross section through the vertical plane of the gun system showing the rotatable gun mechanism

 チョッパーは電子銃からの直流ビームを加速高周波の加速位相に乗せるために切り取り、プリバンチャーおよびバンチャーによって進行方向に圧縮する。本加速器に採用した高周波型チョッパーは、高周波空洞にビームを通して空洞内に形成される磁界により偏向し、スリットでビーム切り出している。加える高周波は基本波と2倍高調波を重ね合わせフラットトップを持つ高周波でビームを偏向することにより、図2(b)に示すようにフラットトップの部分をスリットで切り取り、ビームの発散成分の少ない高品質のビームを作り出す工夫がされている。
 
 高周波空洞に2波を同調させる条件はクリティカルであるため、シュミレーションコードで概略を決め、試作空洞により試験を行い製作された。空洞には4台のスタブチューナを取り付け2波の同調を取っている。スリットは電子銃からビーム電力12kWの2/3を吸収するため、水冷された無酸素銅平板をビームに対して約7度傾け、広い面積でビームを受けるようにしてある。本入射器ではビームの品質を高める光学的工夫の他に、チョッパースリットの冷却構造に工夫が必要であった。


図2 (a)Schematic view of the RF chopper showing the beam chopping, (b)Magnetic field in the center of the cavity (原論文2より引用)

 

コメント    :
 電子銃、入射部ともに平均電力が大きいため、従来の電子線形加速器と比べ大型のものになっている。大電流CW加速技術の試験を主な目的とした入射部および電子銃であり、特に電子銃は真空を破らずに測定が可能であるためカソード寿命など大電流CW電子銃に係わる試験を行うことができる。また、高品質の大電流電子ビームはFEL、およびその光を用いてガンマ線の発生に利用されることも期待される。
 

原論文1 Data source 1:
The Electron Gun for the PNC High Power CW Linac
Y. Yamazaki and M. Nomura
動力炉・核燃料開発事業団(Power Reactor & Nuclear Fuel Development Corporation),茨城県東茨城郡大洗町成田町4002
Proc. of the 1994 Linac Accelerator Conf., Vol. 1, pp.219-222 (1994).

原論文2 Data source 2:
A Novel Chopper System for High Power CW Linac
Y. L. Wang, T. Emoto, M. Nomura, S. Toyama and I. Sato
動力炉・核燃料開発事業団(Power Reactor & Nuclear Fuel Development Corporation),茨城県東茨城郡大洗町成田町4002
Proc. of the 1994 Linac Accelerator Conf., Vol. 1, pp. 205-207(1994).

原論文3 Data source 3:
Design of High Power Electron Linac at PNC
Y.L.Wang, et al
動力炉・核燃料開発事業団(Power Reactor & Nuclear Fuel Development Corporation),茨城県東茨城郡大洗町成田町4002
Journal of Nuclear Science and Technology, 30 (12), 1261 (1993).

キーワード:電子銃、入射器、高品質電子ビーム、CW電子銃
分類コード:140103, 140202, 140203

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