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作成: 1998/12/10 江本 隆

データ番号   :140011
大出力CW電子リニアックの開発
目的      :大電流CW電子線形加速器要素の開発
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構大洗工学センター
応用分野    :消滅処理、自由電子レーザー、単色光源

概要      :
 電子線形加速器を連続波ビームで運転することにより、大出力の電子ビームを発生することが可能である。本加速器はビームのエネルギーを高めるというこれまでの加速器開発の方向とは異なり、工業化を目指した大電流CW電子線形加速器である。
 

詳細説明    :
 最近の加速器技術の著しい進歩により、基本的には大規模な加速器建設を妨げる原理的要因はないが、工学的には解決しなくてはならない問題が予想される。そのため、現在の技術から実現可能な工学試験を目的とする加速器の建設を目指すことが現実的である。本加速器はビームエネルギーを高めるというこれまでの加速器開発の方向とは異なり、大電力・大平均電流化を目標とし、連続(CW)ビームを発生させる加速器の開発、大電流加速器技術・要素の開発を目的としている。加速器のエネルギーは10MeV、電源設備の制限から最大/平均ビーム電流は100mA / 20mA(パルス幅4ms、繰り返し50Hz)の準CW電子線形加速器である。エネルギー10MeVを超えると、機器要素、空気の放射化により加速器の試験、保守等が容易でなくなること、10MeVまで大電流が加速できる技術が確立されればエネルギーを高めることは比較的容易に達成できると考えられる。
 
 CW線形加速器では加速管に超伝導空洞を用いることにより、加速管での高周波損失を非常に少なくすることができる。しかし、MWクラスのビームを加速する加速器においてはビームの発散、不安定性等の問題を解決した上でないと超伝導空洞を加速管に使用することは難しい。本加速器は常伝導空洞で200kWのビームを安定に加速し、ビーム洩れの少ない高品質ビームを得ることを主眼としている。
 
 ビームの洩れによる構造物の劣化や放射化を防ぐことは、大電流加速器では重要な要因である。電子ビームは加速電場の歪みや空間電荷効果(電子自身の持つ電荷による反発力)の影響を特に低エネルギー部(入射部)で受けやすい。入射部はその特性が加速器全体の特性を決定する。大電流化に当っての基本的な技術課題は電子銃の大電流化、ビーム発散対策、ビームローディング(加速管に供給する高周波とビーム電流の関連)による加速管温度の制御などが挙げられる。
 
 本加速器の構成は200keVの電子銃、直流電子ビームを加速管の高周波位相に乗せるためにビームを変調する高周波チョッパー、チョッパーで高周波位相に乗ったビームを位相(進行)方向に圧縮するプリバンチャーおよびバンチャー、エネルギーを上げる加速管、これらのビームを半径方向に集束したり、位置を制御する電磁石、ビームの位置および形状を測定するビームモニタ、高周波をプリバンチャー、バンチャー、加速管に供給する高周波電源等からなる。
 
 加速器の概略構成を図1に示す。CW化するにあたり、ビームの発散防止と安定な加速を行うために、加速周波数をLバンド1249.135MHzに選び、通常の線形加速器より緩い加速勾配1.2MeV/mに選択し、高周波からビームへの変換効率を高めるために進行波還流型の加速管構成とし、さらに加速モード以外の高調波が加速管に誘起しないように各段の加速管および加速管内の各空洞の寸法を少しずつ変えて、ビームの不安定性を各段の加速管に伝搬させないようにしてある。チョッパーは高周波空洞にビームを通して偏向しスリットでビームを切り出す高周波チョッパーを使用しているが、加える高周波に基本波と2倍高調波を重ね合わせフラットトップを持つ高周波でビームを偏向することにより、より多くのビームを切り出し(1/3周期)、発散の少ない高品質のビームを作ることができる。


図1 加速器の概略構成

 1996年に入射部と加速管1本を組み上げ、ビームダンプを接続してビームエネルギー3MeV、ビーム電流100mA、パルス幅3ms、繰り返し0.1Hzを達成できた。その後、残りの加速管を設置し、現在は全装置による試験の準備中である。
 

コメント    :
 大電流CW加速技術の試験を主な目的とした加速器であり、CWクライストロン等要素開発も含めて行われており、単に大電流CW電子線形加速器のみならず他のCW加速器にも技術的貢献が大きいと思われる。高品質の大電流電子ビームは自由電子レーザー、およびその光を用いてガンマ線の発生に利用されることも期待される。
 

原論文1 Data source 1:
Design of High Power Electron Linac at PNC
Y. L. Wang, I. Sato, S. Toyama and Y. Himeno
動力炉・核燃料開発事業団(Power Reactor & Nuclear Fuel Development Corporation), 茨城県東茨城郡大洗町成田町4002
Journal of Nuclear Science and Technology, 30 (12), 1261 (1993)

原論文2 Data source 2:
Development of an electron linac at PNC for transmutation studies
T. Emoto, Y. L. Wang, S. Toyama, M. Nomura, H. Takei, K. Hirano and Y. Yamazaki
動力炉・核燃料開発事業団(Power Reactor & Nuclear Fuel Development Corporation), 茨城県東茨城郡大洗町成田町4002
Progress in Nuclear Energy, Vol. 32, No. 3/4, 477 (1998)

キーワード:電子線形加速器、大電流加速器、進行波還流型加速管、連続波
electron linac, high power accelerator, traveling-wave resonant ring accelerating tube, continuous-wave
分類コード:140102, 140103, 140202

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