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作成: 1998/10/29 熊谷 寛

データ番号   :140010
高強度超短パルスレーザーによる固体内部プロセスの研究
目的      :高性能自由電子レーザーモード光による材料プロセシング手法の開発
研究実施機関名 :理化学研究所レーザー物理工学研究室
応用分野    :材料加工分野、光学素子分野

概要      :
 自由電子レーザー光の特徴であるマクロパルス中に見られるミクロパルスのパルス幅はサブピコ秒から10ピコ秒程度であり、その短パルスの特徴を活かした新たな材料プロセス技術が求められている。高い光強度の短パルスレーザーによるカー効果による自己収束化、多光子イオン化、アバランシェイオン化によるプラズマ生成、プラズマによる自己発散化、プラズマの急速なクエンチングに基づく新しい材料プロセシング研究を行った。
 

詳細説明    :
 自由電子レーザーでマイクロ波電力を利用して電子を加速する場合、加速後の電子のエネルギー幅を小さくする必要があり、そのためには狭い位相幅で電子を加速しなければならない。バンチャによる小さな位相幅への集群化の結果、ミクロ・マクロパルスが発生する。このミクロパルスはサブピコ秒から10ピコ秒であり、チタンサファイヤレーザーシステムからなる模擬光源を利用して、そのプロセシング応用について研究した。
 
 研究に用いた実験装置の模式図を図1に示す。


図1 Schematic of the experimental setup.(原論文2より引用)

 チタンサファイヤレーザーシステムは、発振器、再生増幅器から成り、パルス幅110fs、繰り返し周波数1 kHz、最大1 mJ/pulseのチタンサファイヤレーザー光(790nm)を発する。この光を発散気味にコア/クラッドの直径が100/110 mm等のマルチモードシリカファイバー内に導入し、プラズマチャネリング、バルク改質を行った。特に、光ファイバーの利用は、断面方向からの顕微鏡観察が容易で、チャネリング、バルク改質のその場観察を行える利点がある。
 
 図2に異なった入力レーザー強度に対するプラズマチャネリング生成の断面方向顕微鏡写真を示す。


図2 Microscopic side views during plasma formation at various input intensities. (a)3x1011 W/cm2, (b) 8x1011W/cm2, (c)1.0x1012W/cm2, (d)1.5x1012W/cm2.(原論文2より引用)

 高い光強度の短パルスレーザーがマルチモードシリカファイバーに入射されると、カー効果による自己収束化が起こり、光強度の増大により多光子イオン化、アバランシェイオン化によるプラズマ生成が行われる。プラズマができると屈折率の低下により自己発散化が生じ、自己収束化と自己発散化が交互に起こることでプラズマチャネリングが形成される。図2から、入力強度が8x1011W/cm2を超えると、ファイバー端面から約50mmの位置に自己収束のスポットが現われ、さらにファイバーの軸に沿っていくつかのプラズマが形成されているのが見える。入力強度が1.5x1012 W/cm2を超えると、光ファイバーの入力端から9〜10 mmの長さのプラズマチャネリングの形成が生じた。
 
 図3に改質後の顕微鏡写真を示す。


図3 Microscopic side views of modified region in optical fibers with different core sizes:(a) 100/110 mm and (b) 200/220mm core cladding diameter.(原論文2より引用)

 入力レーザー光を遮光し、側面から照明用光源で照らした。まず、長さ9〜10 mm、直径5 mm程度の改質が行われていることがわかる。コア/クラッドの直径が100/110mmの場合も、200/220mmの場合でも改質部の直径は5 mm程度と変わらず、ファイバー径によらないことが判明した。石英ガラスのバルクに対しても同様な結果を得ている。改質部の電子スピン共鳴(ESR)スペクトルを調べたところ、シリコンのE'中心が認められた。これはプラズマのフェムト秒時間領域の急速なクエンチングにより、生じたものと思われる。特に、改質が進行していくにつれてE'中心シグナルが強くなった。しかし、800℃程度の熱処理を加えると、E'中心シグナルが消失することがわかった。
 
 一方、入力強度を増大させていくと、3.5x1012 W/cm2を境にファイバー内に損傷が生じた。これは前述のE'中心とは全く異なり、光学顕微鏡観察からもファイバー内にクラックが存在していることがわかり、ファイバーの透過率も損傷により40%に大きく低下した。また、ESRスペクトルにおいてもE'中心シグナルが弱くなっていた。入力強度の損傷しきい値を明らかにすることで、上述の改質を再現性良く実施できる条件を見いだした。クラックがなく改質された領域では、屈折率の上昇と光導波効果があることを見いだした。
 

コメント    :
 本研究はチタンサファイヤレーザーシステムを自由電子レーザーの模擬光源として利用し、新しい材料プロセシング手法の開拓を行ったものであるが、自由電子レーザーのミクロパルスはマクロパルス中でMHz以上の繰り返しで発生できるため、自由電子レーザーの平均出力増大により実用的な応用になりうると思われる。
 

原論文1 Data source 1:
フェムト秒レーザー加工
熊谷 寛
理化学研究所
応用物理 第67巻 第9号 (1998年)

原論文2 Data source 2:
Observation of Self-Channeled Plasma Formation and Bulk Modification in Optical Fibers Using High-Intensity Femtosecond Laser
Sung-Hak Cho, Hiroshi Kumagai, Isao Yokota, Katsumi Midorikawa and Minoru Obara
RIKEN
Jpn. J. Appl. Phys. 37, L737 (1998)

キーワード:高強度超短パルスレーザー、自由電子レーザー、固体内部プロセス、ファイバー、カー効果、多光子イオン化、アバランシェイオン化、プラズマ、色中心
high-intensity ultrashort-pulse laser、free electron laser、bulk process、fiber、Kerr effect、multiphoton ionization、avalanshe ionization、plasma、color center
分類コード:140301

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