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作成: 1998/09/08 永井 良治

データ番号   :140009
アンジュレータの磁場測定
目的      :アンジュレータの開発、製作、及び評価
研究実施機関名 :日本原子力研究所、スタンフォード大学
応用分野    :自由電子レーザー、大型放射光

概要      :
 アンジュレータは、自由電子レーザー(Free Electron Laser, FEL)の発光装置及び放射光施設の挿入光源として利用されている。その磁場分布がFELや放射光の光の特性を大きく左右するので、アンジュレータの磁場分布を高精度で計測することはFELや放射光施設建設の上で必要不可欠なことである。ここでは、アンジュレータの磁場分布の代表的な2通りの計測方法を紹介する。
 

詳細説明    :
 アンジュレータは交番する磁場等(磁場型、電場型のものがあるが、ここでは磁場型のみを扱う)によって、その中を通過する電子を蛇行させ光(電磁波)を発生させる装置であり、自由電子レーザー(Free Electron Laser, FEL)の発光装置及び放射光施設の挿入光源として利用されている。FELや放射光では電子が蛇行運動することにより発生する光を利用しているので、アンジュレータ中での電子の運動により、FEL及び放射光の特性が決定される。アンジュレータ中を通過する電子の運動はアンジュレータの磁場分布によって決定されるので、その磁場分布がFELや放射光の光の特性を大きく左右する。従って、アンジュレータの磁場分布を高精度で計測することは、FELや放射光施設建設の上で必要不可欠なことである。
 
 アンジュレータの磁場分布について、一般的には、磁場分布は全長約2m、周期数約50、最大磁場強度約0.6Tの交番磁場分布であり、振幅誤差、周期誤差とも少なくとも1%以下であることが求められる。この様な磁場分布を計測により確認するために、その計測装置には磁場計測精度0.1%(0.6Tに対して)程度、位置計測精度0.1%(周期長4cmに対して)程度が求められる。この様な計測として、現在のところ次にあげる2通りの方法での磁場分布計測が知られている。
 
 まず、説明図1に示すような、ホールプローブで直接磁場強度を計測する方法が知られている。


図1 ホールプローブによるアンジュレータ磁場分布計測(原論文1より引用)

 この方法そのものは極めて一般的な磁場分布の計測方法であるが、重要なことはアンジュレータの長さ約2mにわたりどのようにして充分なホールプローブ位置精度を確保するかである。ここでは、約2mにわたって位置精度を確保したいアンジュレータの長手方向については、充分に面精度のとれた大理石のレールの上をホールプローブが載った台車を移動させ、その位置を光学式リニアエンコーダを用いて計測している。比較的移動距離の短い断面方向についてはリニアアクチュエータによって2方向に移動可能になっている。リニアアクチュエータによってアンジュレータの中心軸上にホールプローブをセットして、長手方向に台車を走らせることにより長手方向の磁場分布を計測するものである。
 
 次に、説明図2に示すような、パルスワイヤ法と呼ばれる方法がある。


図2 パルスワイヤ法によるアンジュレータ磁場分布計測(原論文2より引用)

 この方法はアンジュレータ中に張ったワイヤにパルス状の電流を流し、そのワイヤの振動から磁場分布を計測するものである。アンジュレータ中に張ったワイヤに電流を流すと、そこを電子が通った時と同じようにワイヤに力が働き振動する。この振動を計測して磁場分布を求める方法である。この方法ではホールプローブでの計測に比べて、計測精度がやや劣るが、説明図2を見ても分かるように、この方法では容易にしかも安価にアンジュレータの磁場分布の計測が可能である。さらに、この方法ではアンジュレータの中心にワイヤを1本張れば計測が可能なので、ヘリカル型アンジュレータと呼ばれる螺旋磁場を持つ円筒形のアンジュレータでは磁場分布の計測には良くこの方法が用いられる。
 

コメント    :
 現在、試みられている放射光や自由電子レーザーの実験に用いられているアンジュレータの性能の評価には、ここで紹介した様な既存の技術での計測で充分である。しかし、今後行われるであろう紫外からX線領域のSASE(Self Amplified Spontaneous Emission)と呼ばれるシングルパスのFELの実験では、より高い質の電子ビームが要求されている。これと同じ理由からアンジュレータに対しても、これまで以上の質が求められる。よって、SASEに持ちいられるアンジュレータの製作、評価のためには更に高精度の計測、評価のための技術の開発が望まれる。
 

原論文1 Data source 1:
Detailed Magnetic Field Measurement on a Hybrid Undulator for the JAERI FEL
R.Nagai, E.Minehara, S.Sasaki, M.Sawamura, M.Sugimoto, M.Takao, R.Kato, M.Ohkubo, Y.Suzuki, T.Ikehata and H.Mase
Free Electron Laser Laboratory, Japan Atomic Energy Research Institute, 2-4 Shirakata-Shirane, Tokai, Ibaraki 319-1195, JAPAN
J. Nucl. Sic. Technol., 32, 715 (1995).

原論文2 Data source 2:
Pulsed Wire Magnetic Field Measurements on a 4.3M Long Wiggler
O.Shahal and R.Rohatgi
HEPL, Stanford University, Stanford, CA 94305-4085, USA
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A285 (1989) 299.

キーワード:アンジュレータ、磁場、磁場誤差
undulator, magnetic field, field error
分類コード:140101, 140106, 140203

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