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作成: 1998/11/16 永井 良治

データ番号   :140008
ハイブリッド型アンジュレータ
目的      :ハイブリッド型アンジュレータの設計・製作
研究実施機関名 :日本原子力研究所
応用分野    :自由電子レーザー、放射光施設

概要      :
 ハイブリッド型アンジュレータとは、永久磁石と高透磁率の磁極を組み合わせて作成されたアンジュレータである。アンジュレータをハイブリッド型化することによって得られる利点やその特徴について述べる。
 

詳細説明    :
 アンジュレータは交番する磁場等によって、その中を通過する電子を蛇行させ光(電磁波)を発生させる装置であり、自由電子レーザー(Free Electron Laser, FEL)の発光装置及び放射光施設の挿入光源として利用されている。アンジュレータは発生したい光の特性に応じて様々な形状のものが用いられてる。例えば、発生する光の偏光に着目すれば、直線偏光した光を発生するプレーナ型と、円偏向した光を発生するヘリカル型と呼ばれるものがある。また、高出力レーザーの電磁波を利用した電磁波アンジュレータ(レーザーアンジュレータ)、密度変調したプラズマの構造を利用したプラズマアンジュレータ等新しい形状のアンジュレータについても提案がなされている。
 
 ここでは、直線偏光した光を発生する一般的な磁場型のアンジュレータについて述べる。説明図1に示すアンジュレータは矢印の方向に磁化した永久磁石を周期的に並べて交番磁場を作っている。このようなアンジュレータを永久磁石だけを用いているという意味で、ピュア型アンジュレータ(あるいは提案者の名前からハルバック型)と呼ばれている。これに対して、アンジュレータのギャップが周期長に対して小さい領域においては、永久磁石だけでアンジュレータを作よりも説明図2に示すように、高透磁率磁性体の磁極と永久磁石を組み合わせて用いることで、ピュア型に比べて強い磁場を作ることができる。このように高透磁率磁性体の磁極と永久磁石を組み合わせたアンジュレータを永久磁石と磁性体の複合型という意味で、一般的にハイブリッド型アンジュレータと呼んでいる。


図1 ピュア型アンジュレータの構造(原論文1より引用)



図2 a)ハイブリッド型アンジュレータの構造及びb)磁場強度の比較(原論文1より引用)

 ハイブリッド型アンジュレータの特徴は高透磁率磁性体の磁極によって、磁束の通り道を制御することによって、より強い磁場を作れることである。また、磁性体の形状によって、アンジュレータ磁場の分布形状を制御することができるのも大きな特徴である。アンジュレータのギャップは周期長、強度から制限を受けるがハイブリッド型化することでその制限は緩やかになる。このようなことから、アンジュレータをハイブリッド型化することで、設計の自由度を大きく広げることができると言える。
 
 ハイブリッド型アンジュレータでは、磁場強度を強くするため磁極の断面形状を説明図3に示すように楔型にし、磁極を永久磁石に対しわずかに突き出す構造をにするという工夫がなされている。このような磁極形状の最適化は数値計算によって、正確にかつ容易に行うことができる。
 
 ハイブリッド型アンジュレータでは、アンジュレータの各磁極での磁場強度を均一にするために磁性体を用いて微調整がなされる。その具体的な方法として大別するとスタッドチューニングとシムチューニングとがある。スタッドチューニングとは説明図2に示すように磁極の背面に磁性体の棒(スタッド)を差し込むことによって、磁極表面への磁束を減らすことによって磁場強度を調整する方法である。シムチューニングとは説明図3に示すように永久磁石の上に磁性体の薄板(シム)をおいて磁束をバイパスして磁場強度を調整する方法である。


図3 シムによる磁場調整(原論文2より引用)

 アンジュレータ軸に対して断面方向の磁場分布は一般的には均一になるように設計製作されているが、ハイブリッド型アンジュレータでは磁極を傾ける、両端を持ち上げるなどの形状の変更によってアンジュレータ軸に対しての断面方向の磁場の分布を変更することも容易であるので、4極や6極の磁場成分を加えるなどしてアンジュレータ中を通過する電子ビームの形状に補正を加えることも可能である。
 

コメント    :
 アンジュレータをハイブリッド型化することで、アンジュレータの設計の自由度は大きく広がったと考えられる。また、ハイブリッド型アンジュレータの設計に関しても、近年では計算機技術が大きく進歩しているので、計算機シミュレーションによる磁極等の設計がより短時間で行えるので更に様々なアイディアが生まれてくることと考える。
 

原論文1 Data source 1:
Permanent Magnet Undulators
K. Halbach
Lawrence Berkeley Laboratory
Journal de Physique, C1 (1983) 211-216

原論文2 Data source 2:
Wiggler Error Reduction Through Shim Tuning
S. C. Gottschalk, D. C. Quimby, K. E. Robinson and J. M. Slater
Spectra Technology Inc.
Nucl. Instr. and Meth., A296 (1990) 579-587

キーワード:ハイブリッド型アンジュレータ、自由電子レーザー、高磁場
Hybrid Undulator, Free-Electron Laser, High Maginetic Feild
分類コード:140101, 140106, 140201

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