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作成: 2000/03/01 沢村 勝

データ番号   :140007
自由電子レーザー用超伝導リニアックの入射系
目的      :大出力自由電子レーザー用超伝導リニアックの入射系の開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所自由電子レーザー研究グループ

概要      :
 電流密度の大きくない熱陰極カソードを用いてFELに必要な高いピーク電流にするための超伝導リニアック入射系の設計・製作を行った。この入射系は常伝導のサブハーモニックバンチャと2台の超伝導単セル空洞で構成されている。単セル空洞を用いたのは、β=1の超伝導空洞を使ってもうまくビーム圧縮及び加速ができるようにである。この入射系により1〜3ナノ秒のパルス幅のビームを30ピコ秒以下程度まで圧縮できた。
 

詳細説明    :
 原研FEL用超伝導リニアックは電子銃、常伝導のサブハーモニックバンチャ(SHB)、2台の超伝導単セル空洞と2台の超伝導5セル空洞で構成されている。加速周波数は超伝導空洞が499.8MHz、SHBが83.3MHzである。SHB空洞はλ/4同軸共振器型空洞である。超伝導空洞は単セル空洞及び5セル空洞がそれぞれ1つのクライオスタットモジュールに収められており、閉ループ型ヘリウム冷凍機で冷却されている。
 
 電子銃はカソードに熱陰極カソードを用いており、グリッドパルサーによりパルス化している。このときのパルス幅は1〜3ナノ秒程度であり,電流値は100〜300mAである。この電流値ではFELの利得が小さく、超伝導空洞で加速するにはパルス幅が長すぎる。そこで、電子ビームのパルス圧縮を行い、短いパルス幅で、ピーク電流が大きくなるような入射系が必要になる。
 
 原研では、SHBによるビームパルス圧縮を行った。SHBのみで最も圧縮できるようにサブハーモニック数を1/6とした。電子銃電圧は高くするほどパルス幅を短くできる。そして、電子銃電圧を200kV以上にすると、SHBのみでも50ピコ秒以下にすることができる。
 
 しかし、エネルギーの低い電子ビームをβ=1の超伝導空洞に入射した場合、1つの空洞を通過する間に加速位相からずれていき、入射時よりパルス幅が広がってしまう。このようなパルス幅の広がりは入射エネルギーが低いほど影響が大きいが、だいたい2MeVを超えるとほぼ影響を受けなくなる。そこで、超伝導単セル空洞を用いて、空洞に供給する高周波電力を独立に制御することにより、最適な位相で加速することができる。超伝導空洞の加速電界を5MV/mとすると、1空洞の長さが0.3mであるので、1空洞当りのエネルギー増加は最大1.5MeVである。よって単空洞を2台用いることにした。
 
 さらに、入射エネルギーが低い場合に加速位相からずれることから、単セル空洞への入射はSHBで最小パルス幅になったときではなく、単セル空洞通過後のドリフト空間で速度変調によりビーム圧縮がおこるような位相で加速を行う。これによりSHBでの圧縮より短いパルス幅に圧縮することができる。電子銃電圧とビーム電流を変えたときに、2台の5セル空洞通過後のパルス幅とエネルギー広がりを説明図1に示す。電子銃電圧が200kVを超えるあたりからビーム電流に関係なくほぼ30ピコ秒以下に圧縮されている。この計算の初期ビームのパルス幅はFWHMで約2ナノ秒であり、この入射系でのビーム圧縮によりパルス幅で約1/100、ピーク電流で約100倍になったことになる.


図1  Calculated 80% bunch length and energy resolution at the exit of the second five-cell cavity(原論文1より引用)

 2台の5セル空洞通過したところでのパルス幅の測定を、ストリークカメラを用いて行った。その結果を説明図2に示す。パルス幅はFWHMで約20ピコ秒である。


図2  Measured beam length at the middle of the undulator. The initial beam had 200keV with the FWHM bunch length of 4 ns at 100 mA peak current with a macropulse length of 10 μs.(原論文2より引用)

 

コメント    :
 大出力FEL用超伝導リニアックの入射系として開発された技術であり、実際の原研超伝導リニアックを用いたFEL発振において大出力を確認しており、入射系の性能が確認されている。
 

原論文1 Data source 1:
Design and performance of the JAERI superconducting linac for high-power free-electron laser
M.Sawamura, R.Nagai, N.Kikuzawa, M.Sugimoto, N.Nishimori and E.J.Minehara
Japan Atomic Energy Research Institute, Free Electron Laser Laboratory, 2-4 Shirakata Shirane, Tokai, Ibaraki 319-1195, Japan
Rev. Sci. Instrum.,Vol.70, No. 10, October 1999

キーワード:超伝導リニアック、入射系、ビーム圧縮
superconducting linac, injection system, beam compression
分類コード:140102

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