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作成: 2000/01/20 峰原 英介

データ番号   :140006
自由電子レーザー用静電型加速器
目的      :自由電子レーザーのためのエネルギー回収型静電加速器駆動源及び静電加速器入射装置の開発
研究実施機関名 :カリフォルニア大サンタバーバラ分校FEL施設、フロリダ中央大学FEL施設、理化学研究所、日本原子力研究所東海研究所
応用分野    :光化学、半導体/物性科学、生物学、テラヘルツ科学

概要      :
 自由電子レーザー駆動源として静電加速器は、エネルギーの上限があるため、直接発振させる波長が比較的長波長に限定される。しかしながら電位差による回収法によりエネルギー回収率を高くすることが比較的容易に可能であり、長いパルス長により波長分解能が通常レーザーと同じくらい高い。また FEL 用リニアック駆動源の入射装置として良く使用されている。エネルギー回収型高出力超伝導リニアック FEL の効率を高めるには回収型静電加速器入射装置が不可欠である。
 

詳細説明    :
 単一長パルス運転が可能な静電加速器を駆動源とする自由電子レーザー(FEL)は再環流する、ビーム損失がほとんど無い電子ビームにより、電位差によるエネルギー回収が可能である。これはクライストロンで既に実用化されている高効率化技術と同じ考えである。静電型加速器だけが駆動源である場合、コッククロフト型高電圧電源は 10 A 以上に電流容量を大きくできるが、バンデグラーフ型高電圧発生装置は通常 1 mA 以下で電流容量が少なく、FEL 発振に必要な大電流を得るには電子ビームを環流させるエネルギー回収型にする必要がある。


図1 An Explanation of a Van de Graaff Electrostatic Generator.(原論文3より引用)

 図 1 はバンデグラーフ型高電圧発生装置原理図である。またどの方式も、素子等の技術的特性から加速エネルギーを高くすると電流容量は低くなる。また加速電圧の精度は極めて高く、0.1% - 0.001% 程度は動作原理上、容易に得られる。又、極めて超長パルスの動作が可能であるのでこのフーリエ変換限界から予想される波長精度の良いレーザー発振が得られる。サンタバーバラでは、6 MV, 0.2 mA 容量のバンデグラフ発電器を用いて、電圧 5 MV、尖頭電流値 2 A、環流率 99.75%、数マイクロ秒のパルス長で 10-8 程度の波長幅を実現している。


図2 Van de Graaff Electrostatic Accelerator for the UCSB Free Electron Laser Facility. (原論文3より引用)

 図 2 はサンタバーバラ分校FEL用バンデグラーフ静電加速器説明図である。高圧タンク内の加速減速セラミック管は平行に設置され、アンジュレーターはタンク外にある。


図3 Schematic layout and explanation of the FOM fusion FEM. The pressure vessel measures 10 m in length and 2.5 m in diameter. The mm wave system and the 2-MV connector are drawn in the vertical plane; in reality these parts will be mounted in the horizontal plane.(原論文2より引用。 Reproduced from Nuclear Instruments and Methods 1993;A331, 235-240, Fig.1(p.236), W.H.Urbanus, R.W.B.Best, W.A.Bongers, A.M.van Ingen, P.Manintveld, A.B.Sterk, M.Caplan, V.L.Bratman, G.G.Denisov, A.A.Varfolomeev and A.S.Khlebnikov, Design of the 1 MW, 200 GHz, FOM fusion FEM, Copyright(1993), with permission from Elsevier Science. )

 図 3 は、オランダの FOM 研究所で開発されている 1 MW, 200 GHz、自由電子メーザー(FEM) 断面図と概念説明図(原論文2、p. 236 Fig. 1)でコッククロフト型電源を使用している。直線上に配置された加速及び減速用セラミック管がアンジュレーターの両端の高圧タンク内に設置されている。目的はプラズマ加熱用の連続波または長パルス 1 MW、200 GHz FEM である。
 
 FEL 用リニアック駆動源は其の入射装置に通常、高周波電子銃か静電型電子銃を用いる。このうち静電型電子銃は通常、コッククロフト高圧電源を使用する。FEL の効率は、エネルギー回収を考えなければ、入射装置の損失寄与と比較して主加速器の損失寄与の方が桁違いに大きく、いままで主要な問題ではなかった。しかしながら、エネルギー回収された超伝導リニアック駆動FELにおいては、入射装置の損失寄与がほとんどであるためこの部分を静電的な電位差エネルギーで回収しなければ効率の飛躍的な向上は望めない。
 

コメント    :
 静電加速器FELは 99% 以上のエネルギー回収と長パルス動作が現在実証された唯一の FEL である。今後、超伝導リニアック FEL の入射装置として連続動作で高いエネルギー回収率の実現を図る事、及びさらに長いmsパルス動作で他のレーザーで実現できない 10-12 以下の波長幅精度を実現する事が望まれる。
 

原論文1 Data source 1:
A Compact cw free electron laser
EL.R.Elias, I.Kimel, D.Larson, D.Anderson, M.Tecimer, and Z.Zhefu
Center for Research in Electro-Optics and Lasers(CREOL), University of Central Florida, Orlando, FL, 32816, USA
NUCLEAR INSTRUMENTS AND METHODS A 304, pp. 219-223 (1991)

原論文2 Data source 2:
Design of the 1 MW, 200 GHz, FOM fusion FEM
W.H.Urbanus, R.W.B.Best, W.A.Bongers, A.M.van Ingen, P.Manintveld, A.B.Sterk, M.Caplan, V.L.Bratman, G.G.Denisov, A.A.Varfolomeev and A.S.Khlebnikov
FOM-Institute voor Plasmafysica, "Rijnhuizen", Association EURATOM-FOM, POB 1207, 3430 BE Nieuwegein, The Netherlands
NUCLEAR INSTRUMENTS AND METHODS A331, pp235-240(1993)

原論文3 Data source 3:
4.自由電子レーザーのための加速器 4.5 静電加速器
綱脇 恵章
電気学会自由電子レーザー調査専門委員会編
自由電子レーザーとその応用、電気学会自由電子レーザー調査専門委員会編、コロナ社(1990)

参考資料1 Reference 1:


キーワード:静電型加速器、自由電子レーザーの駆動源、コッククロフト型、バンデグラーフ型、電位差エネルギー回収
Electrostatic accelerators, FEL driver, Cockcroft Walton, Van de Graaff, potential energy recovery,
分類コード:140302, 140305, 140801

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