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作成: 1999/01/20 峰原 英介

データ番号   :140005
FEL用SCリニアック
目的      :CW(連続波)高出力自由電子レーザーのための超伝導リニアックの開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所東海研究所準連続波超伝導リニアック駆動自由電子レーザー、
トマス・ジェファーソン国立加速器研究所超伝導リニアック自由電子レーザー施設
応用分野    :光化学、光加工、医療、生物学、パワービーミング

概要      :
 循環する液冷媒である液体窒素と液体ヘリウムの替わりに小型極低温冷凍機を組み込んだ無蒸発型クライオスタットを用いる原研高出力自由電子レーザー用超伝導リニアックは、専門の保守運転要員は不要で、年1度の10日間の保守部品交換を除いて24時間355日連続運転される。
 

詳細説明    :
 世界で最初の自由電子レーザー(FEL)はスタンフォード大学の元々核物理用の高分解能低電流の古いLバンド超伝導リニアックによって駆動された。現在、更新を進めているが完了しておらず、昔のままの1.3GHzのLバンド超伝導リニアックである。最初の発振後は、簡便で安価な常伝導リニアック等が主流で超伝導リニアック駆動FELは計画のみで建設されなかった。その後、十数年程度前にSDI計画が呼び水となって、その高い性能と高出力の可能性から多くの超伝導リニアック駆動FEL計画が立案され、一部は計画が実行に移された。大部分は計画のみで建設には至らなかった。曲がりなりにも建設が開始された主要な計画は、ドイツダルムシュタット工科大学と米国TRW社とイタリアのINFNと日本原研の超伝導リニアック駆動FELであった。
 
 ダルムシュタット工大のSバンド以外は500MHzの超伝導リニアックであった。米国TRW社の計画はSDI計画の終焉と供に計画自体が取り消された。ここで、従事していた研究者は、バージニア州の4GeV超伝導リサイクロトロンCEBAF施設のLバンドFEL計画に再度、挑戦することになる。これが原研とFELの高出力競争を展開している現在のジェファーソン国研の超伝導リニアックFELチームの経歴である。
 
 イタリアの計画は最も円滑に進んだが、冷凍機の動作圧力が高すぎてうまく行かず、さらに超伝導加速空洞の内面が汚れて、最終的に計画は取りやめになった。ダルムシュタット工大のSバンド超伝導リニアックは世界で最も高い周波数で動作している超伝導リニアックFELである。尖頭電流値が少なく、元々核物理用でFEL専用超伝導リニアックではない。現在、高出力専用超伝導リニアック駆動FELは米国ジェファーソン国研と日本原研の2台が出力を競い合っている。
 
 図1は原研FEL用超伝導リニアックモジュールの断面図である。図2はこの発振実験に用いられた超伝導リニアック及び自由電子レーザー装置の鳥瞰図である。この加速器のために新たに開発された無蒸発型(Zero-Boil-Off)と称される冷凍機を組込んだ高効率で、保守や運転が容易な使いやすい超伝導リニアックである。モジュールの上端と上部ヘリウム供給塔にヘリウム冷凍機が各1台設置されている。
 
 空洞共振器は、3ミリの厚みのNb金属製でTM010モードで動作する定在波型である。断面が楕円状で丸いのは、低い加速電圧でのマルチパクタリング現象を避けるためである。ピルボックス型の丸みの無い円筒であると内面からコンディショニング中に出た電子が反対面を衝撃した後、再度同じ場所に戻りやすく共鳴的に電子雪崩を起こすことになり、最高加速電界を実際的に低く制限してしまう。このマルチパクタリングは最初の冷却や長時間運転停止したときに起こり易く、また、カップラーの結合定数を変えてもある程度発生する、この時には主カップラー部分の水素分圧の変化が基準圧力の1桁以内でコンディショニングを進めることで、この7年間を窓材等の破損無しで安全に運転することが出来た。


図1 超伝導リニアックモジュールの断面図。 A Crossectional drawing of the superconducting rf Linac for FEL driver.(原論文1より引用)



図2 日本原子力研究所東海研究所プロトタイプ超伝導リニアック駆動自由電子レーザー全体の鳥瞰図。 Bird-eye's View of the JAERI Free Electron Laser Facility at Tokai site, (原論文1より引用)

 ビームによって空洞内に誘起される高次高調波がビームを偏向するので、ビーム輸送に有害なこれらを除去するのが3個の高次高調波カップラーである。これと高周波の伝送用に主カップラー1個をモジュールの両端部内側に配置している。大電力用を用いているので大型で高価かつ輻射及び熱伝導の侵入が大きい。主カップラーは臨界状態から結合係数5000まで連続可変で電流に合わせて結合定数を最適に出来る。
 
 エネルギー回収しない状態ではこの結合定数はほぼ最奥まで突っ込んでいる。エネルギー回収時にはこれを制御が出来る最低の結合定数まで引き抜く。結合定数分でダミーロードに流失する高周波電力がエネルギー回収時の高周波のスタンドバイロスとなり、これを最小にするためには制御精度の許す限り、結合定数を小さくする必要がある。
 
 周波数の同調は、共振周波数を決めている空洞共振器の形状をモジュールのフランジ面から自動同調ピエゾ素子や手動ステッピングモーターで変形させて行っている。高周波は3ms10Hz運転、ビームは1ms10Hz運転で行われているので、ピエゾ素子の同調はミキサーからの信号をピークホールド回路で処理して行われている。
 
 7年間の連続運転時に数回の真空事故があった。そのなかの2回は超伝導リニアックモジュールに空気或いは窒素ガスがリークしたがごみの侵入は防げたらしく、直後に運転再開して特に問題無しに運転を継続できている。特に、空気が侵入した加速中の真空事故はモジュール1と2の間のベローに1センチ直径の穴があいており、低速自動弁が自立閉鎖をやったとはいえ、故障修理を全く必要としなかったのは超伝導リニアックの意外な頑丈さを実証した。
 
 通常、真空を破るときはクラス100のクリーンブースをその場所に配置して完全にクリーン環境下に真空を破る場所を置き、ごみの侵入を防ぐ。また、パーティクルカウンターでブース内のごみを管理する。機器接続のため、いままで真空破壊作業は数回行っているが、毎回電界はむしろ高くなっており、特に問題はない。
 
 図3は、4台の超伝導リニアックモジュールのQ値と加速電界の計測値である。


図3 4台の超伝導リニアックモジュールのQ値と加速電界の計測値。 A Cross-sectional drawing of the JAERI Superconducting RF Linac Cryostat

 

コメント    :
 超伝導リニアックFELは、1998年2月、約1桁最高出力記録を更新した。超伝導FELにおいては、空洞損失がないので、発振後のビームエネルギーを回収すれば、更に2〜3桁以上大きな発振が可能であると期待される。原理的には高周波電源の出力を殆ど全部を光に変えることが可能である。
 

原論文1 Data source 1:
First Lasing and Future Program of the JAERI High Power FEL Driven by the Superconducting rf Linac
E.J.Minehara, M.Sugimoto, M.Sawamura, R.Nagai, N.Kikuzawa, N.Nishimori and T.Yamanouchi
Free Electron Laser Laboratory, Advanced Photon Research Center, Kansai Research Establishment, Japan Atomic Energy Research Institute
Proc. 23rd Linear Accelerator Meeting in Japan, 1998, p.82 (September 16-18, Tsukuba, Japan)

原論文2 Data source 2:
Path towards a 100kW class FEL using the JAERI superconducting rf linac driver
E.J.Minehara, M.Sawamura, R.Nagai, N.Kikuzawa, M.Sugimoto, T.Yamanouchi and N.Nishimori
Free Electron Laser Laboratory, Advanced Photon Research Center, Kansai Research Establishment, Japan Atomic Energy Research Institute
Part of the SPIE Conference on Free-Electron Laser Challenges, San Jose, California, January, 1999, SPIE Vol.3614, pp.62-71

キーワード:高出力、自由電子レーザー、超伝導リニアック、クライオスタット、ヘリウム冷凍機
high power, free electron laser, superconducting rf linac, Cryostat, Helium Gas Refrigerator
分類コード:140302, 140305, 140801

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