電総研小型蓄積リングNIJI-IVにおける世界最短波長自由電子レーザー発振

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作成： 1999/02/25 山崎　鉄夫データ番号　　　：140002 電総研小型蓄積リングNIJI-IVにおける世界最短波長自由電子レーザー発振目的　　　　　　：蓄積リング、光クライストロン、及び誘電体多層膜ミラーによる自由電子レーザーの短波長・高品質化研究実施機関名　：電子技術総合研究所応用分野　　　　：光化学反応、物性研究、新材料創製、生物学、医療概要　　　　　　：　電総研では、1998年10月、小型蓄積リングNIJI-IVにおいて世界最短波長(212 nm)での自由電子レーザー(free-electron laser, FEL)の発振に成功した。最近の進歩のキー・ポイントは、6極電磁石群による電子ビーム不安定性の抑制と、Al₂O₃/SiO₂の誘電体多層膜ミラーの開発であった。この成功は、単に新記録であるというよりも、200 nm以下の真空紫外領域波の可能性を確認したという、大きな意味を持つ。　詳細説明　　　　：　1991年の国内初の自由電子レーザー(free-electron laser, FEL)発振実験を蓄積リングTERASにおいて達成して以来、レーストラック型蓄積リングNIJI-IVにおいて自由電子レーザーの短波長化・高品質化の研究を進めてきた。1992年にはNIJI-IVにおいて可視域での発振に成功、1993年からリングの改造を行い、1994年には紫外域である350 nmでの発振を達成した。アンジュレータとしては、同所で試作した世界で最大の周期数を有する6.3 mの光クライストロン(ETLOK-II)を使用した。NIJI-IV FELシステムの平面図は、要素データNo. 140004に示されているが、説明の都合上ここでも図1に示す。また、上記リングの改造については、同データを参照されたい。図1　Plan view of the NIJI-Ⅳ FEL system. 　しかしながら、当時NIJI-IVにおいては電子ビームの質と量はまだ不充分であった。バンチ間相互作用によるビーム不安定性は簡易型フィードバック・システムによって抑制することに成功したが、十分なピーク電流の電子ビームを蓄積することは不可能であった。ピーク電流に上限があるこの現象は、いわゆるhead-tail不安定性であると推測された。これを抑制するために8極電磁石を設置したが、何ら改善は見られなかった。この理由は現在も不明である。　　6極電磁石を設置してクロマティシティ(色収差、電子エネルギーの相違によるチューンの変化)を補正することも有効であることは知られていたが、NIJI-IVは小型リングであり、かつ6極電磁石を有効に使用するためにはエネルギー分散が大きい短い直線部(図1参照)に設置する必要があるため、設計が困難であった。1997年に直線部におけるエネルギー分散関数を零にするための4重極電磁石(QF2)を2個の6極電磁石(SF、SD)で挟む非常に小型のセット(SQS)を試作したが、磁石間の干渉を防ぐためにボア径を従来のものより小さくする必要が生じた。　　計算機シミュレーションによれば、それでもビームを蓄積できるはずであったが、先ずは1組のみを設置して試験運転を行った。その結果、蓄積が予測通り可能であること、及び4組のSQSを動作させれば上記クロマティシティが補正できることが確認された。そこで、全てのSQSを図1の配置で設置して、1998年からビーム試験を開始し、その結果上下、左右ともクロマティシティを殆ど完全に零にすることが可能になった。これによってhead-tail不安定性は殆ど完全に抑制され、図2に見られるように、電子密度が以前の5倍程度に増強された。現在のピーク蓄積電流は約5 Aである。従ってFELゲインも波長240 nmにおいて約3 %になった。1998年3月には300 nm付近、5月には240 nm付近でのFELの発振に成功した。図2　Peak-electron density measured before(a) and after(b) the improvement.（原論文2より引用）　上記発振実験では、光共振器においてHfO₂/SiO₂の誘電体多層膜ミラーを使用していたが、この材質は220 nm付近から短波長側に大きな吸収ピークがあり、これを使用しての短波長化は困難であった。そこで、電総研においてはAl₂O₃/SiO₂のミラーを試作し、それを用いてFEL短波長化の研究を継続した。1998年10月に、212 nmにおける発振に成功した。これは、現在もFELにおける世界最短波長である。図3に、達成された最短波長の発振スペクトルを示す。米国Duke大学では1998年8月に217 nmでの発振に成功している。波長の差は僅かに5 nmであるが、今回の成功は、Al₂O₃/SiO₂のミラーを使用することによって200 nm以下の真空紫外領域での発振も可能になると予測されることに、より大きな意味がある。図3　Typical FEL spectrum at 212 nm with Al₂O₃ mirrors.（原論文1より引用）　以上の成果により、FELの短波長化においては、いよいよ真空紫外域の幕が開こうとしており、通常のレーザーでは到達できない領域に入ろうとしている。　コメント　　　　：　蓄積リングFELは、電子ビームの質が高いので、FELの短波長化に適している。Al₂O₃/SiO₂のミラーを使用することによって、200 nm以下での発振は近いであろうが、より短波長用のミラーの研究・開発も急ぐ必要がある。その後、１９９９年８月に米国Duke大学において194nmのFEL発振が達成された。　原論文１ Data source 1： Development of the Deep UV and VUV FELs on the Compact Storage Ring NIJIⅣ K. Yamada, N. Sei, T. Yamazaki*, H. Ohgaki, T. Mikado, and S. Sugiyama Electrotechnical Laboratory, 1-1-4 Umezono, Tsukuba-shi, Ibaraki 305-8568, *Institute of Advanced Energy, Kyoto University, Gokasho, Uji-shi, Kyoto 611-0011 Proc. Intern. Symp. on Environment-Conscious Innovative Materials Processing with Advanced Energy Sources (ECOMAP-98), Kyoto Univ. and Osaka Univ. (High Temperature Society of Japan), pp.277-285(1998). 原論文２ Data source 2： Improved Performance of the Storage Ring NIJI-IV for the Deep UV N. Sei, K. Yamada, T. Yamazaki, H. Ohgaki, T. Mikado, and S. Sugiyama Electrotechnical Laboratory, 1-1-4 Umezono, Tsukuba-shi, Ibaraki 305-8568, *Institute of Advanced Energy, Kyoto University, Gokasho, Uji-shi, Kyoto 611-0011 Proc. Intern. Symp. on Environment-Conscious Innovative Materials Processing with Advanced Energy Sources (ECOMAP-98), Kyoto Univ. and Osaka Univ. (High Temperature Society of Japan), pp.521-526(1998). 原論文３ Data source 3： Free Electron Laser Oscillation down to the Deep UV Range Using a Small-Scale Storage Ring K. Yamada, N. Sei, T. Yamazaki, H. Ohgaki, T. Mikado, S. Sugiyama, M. Kawai, and M. Yokoyama Electrotechnical Laboratory, 1-1-4 Umezono, Tsukuba-shi, Ibaraki 305-8568, *Institute of Advanced Energy, Kyoto University, Gokasho, Uji-shi, Kyoto 611-0011, **Kawasaki Heavy Industries Ltd., 118 Futatsuzuka, Noda, Chiba 278 Japan Jpn. J. Appl. Phys., 37, pp.L1151-L1153(1998). 参考資料１ Reference 1：自由電子レーザーの現状と将来山崎　鉄夫電子技術総合研究所、305-8568　つくば市梅園1-1-4 放射光, 2(3), pp.19-39(1989). 参考資料２ Reference 2：自由電子レーザー山崎　鉄夫電子技術総合研究所、305-8568　つくば市梅園1-1-4 京都大学原子エネルギー研究所彙報, 87, pp.12-23(1995). キーワード：自由電子レーザー、電子蓄積リング、アンジュレータ、光クライストロン、光共振器、誘電体多層膜ミラー、高品質電子ビーム free-electron laser, electron storage ring, undulator, optical klystron, optical cavity, dielectric-coated mutilayer mirror, high-quality electron beam 分類コード：140106, 140103, 140104
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