原子力基盤技術データベースのメインページへ

作成: 1997/10/17 峰原 英介

データ番号   :140001
連続波超伝導リニアックを駆動源とする高出力自由電子レーザーの開発研究
目的      :連続波(CW)超伝導リニアックを駆動源とする高出力自由電子レーザーの設計と利用
研究実施機関名 :日本原子力研究所東海研究所、ジェファーソン国立加速器研究所
応用分野    :同位体分離、光化学、光加工、医療、生物学

概要      :
 超伝導高周波空洞は高周波損失がほとんど無いため、連続波運転が可能である。これを用いた超電導線型加速器(リニアック)を自由電子レーザーの駆動源とすることにより、原理的に大出力、高効率、波長可変、かつ波長限界がないと言う自由電子レーザー本来の特徴の実現が可能となる。また、その特長を活かして、光化学、材料物性やバイオの研究、同位体分離等に強力な研究手段を提供し、新しい原子力研究を推進する事が期待される。
 

詳細説明    :
 アンジュレーターの交番磁界を通過する電子ビームは、蛇行、かつ集群させられることにより、共振条件を満たす波長の光を前方に強く発生する。自由電子レーザー(Free Electron Laser, FEL)は、この光を共振器鏡を用いて閉じこめ、繰り返し、電子ビームと相互作用させることによって、飽和強度まで増幅させ、強いレーザー発振を起こさせるものである。
 
 このFELが高効率、高出力であることは次の説明図1を見ていただくと分かり易い。ここには、従来型レーザー、常伝導リニアックを用いたFEL及び超伝導リニアックを用いたFELについて比較し、説明した。


図1 A Comparison and Explanation for a Conventional Laser, a Normal-conducting RF Linac-based FEL, and a Super-conducting RF Linac-based FEL.

 従来型のレーザーは利得媒質を励起するためのフラッシュランプ等のドライバーにしても、固体、液体、気体等の利得媒質そのものにしても発熱等の損失が大きい。もともとランプの光への変換効率が低い、そして電気から変換された光は非常に広い10桁近い波長領域に分散している。この波長領域の線状の一部分しか利得媒質に吸収されず、他は全て利得媒質を熱するか乱反射する。このため、膨大な熱がレーザードライバー及び利得媒質に発生し、この両方により平均出力を増加させることが出来ない。
 
 FELは磁場中の電子が利得媒質であるので、発熱による上限は無く、損失もこの部分には無い。したがって、多くの人がFELが高効率、高出力であると考えているわけであるが、現実のFEL装置は非常に平均出力が低い。これはドライバーである電子リニアックにおいて非常に損失が大きいからである。あまりに損失が大きいために、通常の金属では熱を取り切れず、このためパルス(間欠的に短時間、十万〜百万分の1秒程度だけ加速して)動作させて発熱損の総量を押えている。このため、常伝導リニアックを用いるFELは高効率、高平均出力が非常に困難となる。
 
 超伝導空洞(Nb)と常伝導空洞(Cu)を500MHzで比較すると、NbはCuの約10万分の1の表面抵抗になる。少し不正確だが、言い替えるとNbはCuに比べて10万倍程度の高い出力を容易に取り出せる事になる。この差は冷凍機の効率があまり高くない事で少し割り引かねばならないが、出力の制限にはならない。図1では一番下の説明で、超伝導リニアックをドライバーとして用いることにより初めてFELの高効率、高出力という長所が現実のものとなる可能性が出てきた。このような超伝導リニアックFELは、まだ実現されておらず、米国ジェファーソン国立加速器研究所等のいくつかの研究施設において準備されているか、計画中である。
 
 日本原子力研究所東海研究所・自由電子レーザー研究室においても、この超伝導リニアックFELの建設が進んでいる。これらは赤外線領域のFELで、本格的な利用施設のプロトタイプとして開発されたものである。高エネルギー物理の超伝導リニアックと比較して小型で、扱い易く、高平均出力を可能とする連続波加速可能な超伝導リニアックの実現及びその高平均出力赤外FELへの応用を目標としている。
 
 図2は日本原子力研究所東海研究所プロトタイプ自由電子レーザー全体の鳥瞰図、また入射系、超伝導リニアック系、ヘリウム冷凍機、全固体素子高周波電源、制御系、電子ビーム輸送系、アンジュレーター系、光共振器系等の関連設備の簡単な説明である。


図2 Bird-eye's View of the JAERI Free Electron Laser Facility at Tokai site, Simple Explanation for the All FEL-Related Instrumentations such as Injection System, Super-conducting RF Linac, Helium Compressors, All-solid State RF Amplifiers, Control System, Electron Beam Transport System, Undulator, Opticals and so on.

 

コメント    :
 超伝導リニアックFELは、その優れた性能から期待は大きいが、現在のところ既存の超伝導FELにおいてはクロパルスの電荷量は極めて少ない。このため、実際の潜在的な性能限界は建設中の施設の実際に発生できた性能によって判断する事になるが、現在高平均出力の超伝導リニアックFELが未完成であるので、早期の性能確認が望まれる。
 

原論文1 Data source 1:
JAERI QUASI-CW, AND HIGH-AVERAGE POWER FREE ELECTRON LASER DRIVEN BY A SUPERCONDUCTING RF LINAC
Eisuke J. Minehara, R.Nagai, M.Sawamura, M.Takao, N.Kikuzawa,M.Sugimoto, S.Sasaki, M.Okubo, J.Sasabe, Y.Suzuki, Y.Kawarasaki, and N.Shikazono
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai Research Establishment, Free Electron Laser Laboratory, 2-4 Shirakata Shirane, Tokai, Naka, Ibaraki 319-11, JAPAN
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A331, 182(1993)

原論文2 Data source 2:
CEBAF UV/IR FEL SUBSYSTEM TESTING AND VALIDATION PROGRAM
G.R.Neil, S.V.Benson, H.F.Dylla, and H.Lie
Thomas Jefferson National Accelerator Facility, 12000 Jefferson Avenue, Newport News, VA 23606 USA
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A358, 159(1995)

キーワード:超伝導リニアック、超伝導高周波空洞、ニオブ、連続波
superconductivity, linear accelerator, radio frequency cavity, Niobium, continuous-wave
分類コード:140102, 140103, 140202

原子力基盤技術データベースのメインページへ