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作成: 1999/11/15 北垣 高成

データ番号   :120045
力感覚を利用した疑似接触点モニタリング手法の開発
目的      :器用なマニピュレーション実現のためのセンシング手法の開発
研究実施機関名 :通商産業省工業技術院電子技術総合研究所知能システム部
応用分野    :知能ロボット、人工技能、組立作業

概要      :
 接触を伴う作業において必要となる接触状態の検出を、力情報を用いた疑似接触点モニタリングにより実現する手法を開発した。本手法は、力情報を位置情報に投影することで、単に力やモーメントの値そのものの観測データと比較し、より直感的に接触状態を人間に提示することができる点で有効であると考えられる。作業スキルの獲得、遠隔操作も含めたオペレータへの力情報の教示など幅広い応用が考えられる。
 

詳細説明    :
 ロボットを用いた接触動作を伴う器用な作業の実現には接触状態の検出が必要不可欠である。とくに接触点位置を検出することができれば、作業遂行上極めて有用である。接触点で発生する力が検出可能であれば接触力を含む直線を得ることができる。しかし、それだけでは接触点位置を一意に決定することはできないため、幾何条件などの拘束条件が必要となる。従来より、厳密な接触点位置を検出するための手法がいくつか提案されているがセンシングコストが高い。そこで、本研究では一組の力・モーメントデータから疑似的な接触点位置を推定する手法を提案している。疑似接触点モニタリングは、疑似接触点の軌跡をモニタリングすることにより接触状態またはその遷移を検出する手法である。
 
 疑似接触点の定義は以下の通りである。
 
 「1組の力・モーメントデータより得られる、接触点および外力ベクトルを含む直線L上の、与えられた参照物体(点、線、または面)への最近点を疑似接触点と定義する。すなわち、参照物体A、直線Lに対して、点PA∈A, PL∈Lが、
 
 ∀x∈A, ∀y∈L; |PA-PL|≦|x-y|
 
と定義されるとき、PLが疑似接触点である。」
 
 図1に様々な参照物体に対する疑似接触点位置を示す。この図からわかるように、同じ直線Lであっても参照物体Aの与え方により疑似接触点は同じ位置を示すとは限らない。疑似接触点位置と実際の接触点位置との誤差を小さくしたい場合、接触点位置より接触状態遷移を検出したい場合など目的に応じて、参照点、線、または面を適切に与える必要がある。


図1 Typical types of pseudo contact point concerned with reference objects. (原論文1より引用。 Copyright 1999 IEEE)

 疑似接触点モニタリング手法の有用性を示すため押印実験を行った。グリッパで把持させた印鑑(つげ材)をマニピュレータで硬質ゴム表面の作業台上の紙に押印し、そのときの疑似接触点位置をモニタリングした。本実験は、電子技術総合研究所で開発された並列処理型センサーベーストマニピュレーションシステム匠を用いて行われた。
 
 図2に押印結果を示す。それぞれ(a)は押印結果、(b)は疑似接触点の軌跡を示す。なお、本データにおいては、印鑑の押印面中央に参照点を与えている。図2-1は成功例である。図2-1(b)より印鑑の丸い縁が観測されていることがわかる。図2-2(a)はx軸回りに2deg傾けて押印したときの失敗例である。図2-2(b)の軌跡は失敗結果とほぼ一致していることがわかる。このように押印作業の成否は疑似接触点軌跡から判断することが可能である。


図2 Stamping results. (原論文1より引用。 Copyright 1999 IEEE)

 疑似接触点モニタリング手法には以下のような特徴がある。
 
・接触状態を位置情報として表現するため、直感的に状態を認識することができる。一般に、力・モーメントの値そのものから判断することはむずかしい。
 
・疑似接触点は1組の力・モーメント計測データから獲得される。したがって、計測時間が短く、作業目的動作を阻害することなく状態を検出することも可能である。
 
・力とモーメントの関係を用いているため、接触点にかかる外力の大きさには影響されない。すなわち力ノイズにロバストである。
 
・参照物体からの最近点を求めるだけなので計算が単純である。
 
・様々な接触状態を点接触状態と仮定しているため、厳密な意味での接触状態の検出はできない。しかしながら、センシング動作を付加することにより、接触状態を検出することができる場合もある。
 
・参照物体の設定方法とセンシング動作の設定方法にはそれぞれ依存関係がある。これらの優れた組み合わせはセンシングスキルといえる。
 
・接触状態やその遷移の定性的な検出に、エンドエフェクタや外部環境の精度の高い幾何モデルは必ずしも必要としない。
 

コメント    :
 ロボットを用いて原子力施設の点検修理作業を遂行するためには、複雑な部品を適切に操るためのスキルをロボットが有していなければならない。そのスキル実現のためには、様々なセンサデータをどのように解釈するかが重要なポイントとなる。当該技術は、部品の組立等で避けることのできない接触作業において必要不可欠の力覚情報を、オペレータに対して直感的に与えることのできる手法である。
 

原論文1 Data source 1:
Pseudo Contact Point Monitoring for Contact State Estimation
Kosei Kitagaki, Motoyoshi Fujiwara*, Takashi Suehiro, and Tsukasa Ogasawara**
Electrotechnical Laboratory, 1-1-4 Umezono, Tsukuba, 305-8568 Japan, *Mie Prefectural Industrial Research Institute, 5-5-45 Takachaya, Tsu-city, 514-0819 Japan, **Nara Institute of Science and Technology, 8916-5 Takayama-cho, Ikoma-city, 630-0101 Japan
Proc. of the 1999 IEEE/RSJ Int. Conf. on Intelligent Robots and Systems, Vol. 2, pp. 832-837, 1999.

原論文2 Data source 2:
疑似接触点モニタリングによる接触状態検出手法
北垣 高成、藤原 基芳*、末廣 尚士、小笠原 司**
電子技術総合研究所、305-8568 つくば市梅園1-1-4、*三重県工業技術総合研究所、514-0819 津市高茶屋5-5-45、**奈良先端科学技術大学院大学、630-0101 生駒市高山町8916-5
第4回ロボティクス・シンポジア予稿集, pp. 323-328, 1999.

参考資料1 Reference 1:
疑似接触点位置情報のベアリング組立作業への応用
藤原 基芳、北垣 高成*、小笠原 司**
三重県工業技術総合研究所、*電子技術総合研究所、**奈良先端科学技術大学院大
日本機械学会誌C編, Vol. 65, No. 638, pp. 4107-4113, 1999.

キーワード:センサ情報処理、力覚情報、接触状態検出、マニピュレーション、スキル、ロボット、組立作業
sensor data processing, force information, contact state detection, manipulation, artificial skill, robot, assembly task
分類コード:120205, 120403, 120402

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