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作成: 1999/09/22 佐々木 忍

データ番号   :120041
仮想マニピュレータを用いた逆問題の解法
目的      :多関節形ロボット・マニピュレータに対するアーム解の効率的な誘導方法の開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所 東海研究所 中性子科学研究センター
応用分野    :ロボット・マニピュレータの位置・姿勢制御

概要      :
 実在のロボット・マニピュレータに対して、指先を起点とする幾何学的に等価な仮想マニピュレータを考え、両者の根元近くでの物理的接続条件が一致するような適当な評価関数を導入した上で、数理計画の最小化問題に置き換えて解を導き出す方法を開発した。実際の計算で定式化が必要なのは4変数のみで、残り2変数が従属的に決定できることから、演算処理の高速化につながることを明らかにした。
 

詳細説明    :
 多関節形マニプレ-タは、ベース支持機構と第1リンクとの間に作業領域を広く確保する目的から回転関節を利用することが多く、これに続くリンク間にも旋回、回転の自由度を任意に組合わせた動作形態を取り入れていることから、さまざまなハンドリング作業への適応性に優れている。本研究では、ベ-スに回転関節が結合された図1(a)のリンク構成に対して、リンク機構関係を新しい観点から見直した単純な定式化とそれに基づく各関節角の決定方法について言及する。


図1 (a)Manipulator and link co-ordinate systems. (b)Kinematic analysis with imaginary links.(原論文1より引用)

 まず、逆運動学の特徴であるマニピュレータの指先位置と方向が与えられていることに着目し、そこを起点に肩の方へと辿ってみる。すなわち、ベースから順方向にマニピュレータの指先位置と姿勢を決定する通常の場合とは逆に、マニピュレータ先端部の位置(姿勢)が与えられ肩の終端が自由な仮想マニピュレータを解析対象のマニピュレータのなかに概念的に取り入れる。そして、この仮想マニピュレータの終端位置と実際にそれがあるべき位置との偏差を最小化し,零にもっていくことで考察機構の問題解決に結びつける。
 
 特に、計算効率を考慮して、6関節のマニピュレータの先端から数えて5リンク分(4関節角)をベースにつながる第1リンク(2関節角)と分離させ、切り離した第5リンク終端とベース側第1リンク先端との間隔(ユークリッド距離)を最小(すなわち、零)にすることで、6リンク全体の連結を実現させる。この場合、各リンクの物理的連結条件を満足する定式化がポイントになる。つまり、元のリンクに重なるような接合位置と方向を考慮に入れながら、6変数体系を4変数と2変数に分け、前者については線形化を行った後、目標点と現在点との誤差二乗和の最小化を実現する連立方程式の解として関節解を導き出す。残り2変数は先に求めた解からリンク構成の条件により一意的に決定される。
 
 計算適用例として、図1(a)に示した解析対象のマニピュレータに対して、まず、指先P1を基点としてベース支持機構までの間に仮想的なリンクで構成された別の機構を導入し、その指先から固定端へ辿る計算過程を考えてみる(図1(b)の点線部参照)。この仮想リンクP1P2、P2P3、 …、P5P6は手首を共有した実際のマニピュレータ(実線部OMP2P1で示す。)の指先から第2リンクまでの体系と幾何学的にまったく同一であるが、回転・旋回方向は順方向の座標系で定めた方向と逆になる座標系を定義する。
 
 指先から仮想リンク先端P6までの位置・姿勢は同次変換行列を利用して容易に計算できるが、さらにこの結果を基準座標系Σ0からみた位置・姿勢に変換することが重要である。同じ座標空間におけるリンクの位置M(0、0、a1)と点P6に対して、現在の問題はこれら2点が一致する状況でのアーム解θ6、θ5、θ4、θ3を求める問題に帰着される。上に述べたように、この場合P6M間の隔たりを零にする姿勢のなかから、仮想マニピュレータが元の機構に完全に一致する姿勢を選択しなければならない。そのために、位置と方向についての目標値との残差を考慮に入れた誤差二乗和の評価関数を作り、制約条件無しの最小化問題に置き換える。最小二乗解は線形逐次反復法を利用することで、4つの関節解が精度よく導き出される。
 
 これら4変数が決定すると、基準座標系Σ0から第2軸のΣ1に至る座標変換と先のP6までの変換行列を比較することにより残る関節角θ1、θ2が従属的に導き出せる。一連の操作は、独立変数の減少により演算処理の高速化につながる利点をもつ。
 

コメント    :
 計算機の高速化に伴い、本研究で紹介した手法の一般化も可能と思われる。尚、当該技術は平成8年6月27日、特許登録(特許番号2532874)されている。
 

原論文1 Data source 1:
多関節形ロボット・マニピュレータの逆運動学方程式に最小化手法を適用した新しい解法
佐々木 忍
日本原子力研究所東海研究所 茨城県那珂郡東海村白方白根2-4
計測自動制御学会論文集 Vol. 23, No.3 (1987) pp. 274-280.

参考資料1 Reference 1:
Robot Manipulators; Mathematics Programming and Control
R. P. Paul
MIT Press (1981)

キーワード:多関節形ロボット・マニピュレータ,ロボット機構学,座標変換,逆問題,最適化法,
アーム解
Multi-joint robot manipulator, robot kinematics, co-ordinate transformation,
inverse problems, optimization method, arm solution
分類コード:120207

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