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作成: 1999/10/28 藤井 義雄

データ番号   :120040
センサベース自律的ロボットシステムを用いた障害物回避実験
目的      :原子力用遠隔ロボット技術の開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所 東海研究所 エネルギーシステム研究部
応用分野    :原子力用遠隔ロボット、一般産業用ロボット

概要      :
 原子力施設の高放射線区域における作業員の放射線被曝を低減する観点から、種々の不定型作業を能率的に遂行するための遠隔ロボット技術の開発が求められている。このため、不定型環境下で複雑な作業に適用可能なロボットシステムを開発した。本システムを用いて狭隘な壁穴を通して壁の裏側にあるバルブハンドルを回転させる実験を行い、本システムの自律的障害物回避機能を確認した。
 

詳細説明    :
 原子力施設の高放射線区域における作業員の放射線被曝を低減する観点から、種々の不定型作業を能率的に遂行するための原子力用遠隔ロボット技術の開発が求められ、自律的知能ロボットの開発が原子力開発・利用における重要な研究課題の一つになっている。このため、高度な作業機能を有する遠隔ロボットを開発するための基盤技術の研究開発を進め、周辺環境を知覚するセンサ類を搭載した7関節の冗長マニピュレータを中心とする遠隔ロボットシステムを開発した。
 
 本システムを用いて狭隘な壁穴を通して壁の裏側にあるバルブハンドルを回転させる実験を行った。図1に本システムのハードウエア構成図を示す。マニピュレータは、複雑な遠隔作業を可能とするために7自由度の軸構成にしている。


図1 ハードウエア・システムの構成図(原論文1より引用)

 図2にアーム関節の構成図を示す。冗長マニピュレータの自重は35kg、アウトリーチは1,200mm(2軸中心〜把持部中心)で、可搬重量10kgの機能を有している。アーム先端の把持部は、2本指であり100mmの開閉ストロークがある。第1〜第7軸までの駆動にはACサーボモータを、把持部には超音波駆動モータを使用している。アーム先端部における合成最大動作速度は、約 2m/secである。冗長マニピュレータを一次元移動機能を有するX軸駆動装置に搭載し、壁への接近動作を可能とした。アームには超音波センサ2個、レーザセンサ1個、接触センサ8個及びITVカメラ1台のセンサ類を取り付けた。
 
 超音波センサは、対象物までの距離測定用で、距離レンジの異なるものをマニピュレータ先端方向と逆向き方向に各1個取り付けた。レーザセンサは、障害物となる壁までの距離及びX軸に対する壁の傾きを測定する目的で取り付けた。ITVカメラは、マニピュレータを挿入する壁穴の位置検出や作業対象物であるバルブハンドルまでの距離や把握するハンドルの回転角度検出用に取り付けた。接触センサは、アームの肘部が障害物に接触したことを検知し、冗長軸機能を活用して障害物回避動作を実行させる目的で取り付けた。
 
 それらのセンサ情報を基に壁穴やバルブハンドル等の位置検出や障害物の検知及び回避動作を行った。自律制御用計算機には、7軸の高速制御を行うマニピュレータ運動制御用ボード及び各種I/Oボードを挿入した。インターフェースユニットには、環境知覚センサ用の各種アンプを配置した。プラント機器モックアップは、プラントの配管やバルブ、レバー、ネジ等の構造を模擬したものであり本実験用に製作した。


図2 アーム関節の構成図(原論文1より引用)

 実験においては、各種センサ情報を基に周辺環境状況を確認しながら次の(1)〜(6)までの作業を実施した。
 
(1)壁穴の中心位置認識と奥壁との距離計測、マニピュレータの壁穴挿入,
(2)バルブハンドルの位置検出,
(3)奥壁及び手前壁穴との接触を回避しつつバルブハンドル正面へ移動,
(4)バルブハンドルの回転角度検出、把持位置へ移動,
(5)バルブハンドルの把持・回転,
(6)作業終了位置から基準姿勢まで移動。
 
 障害物回避動作は、アーム先端部に取り付けたセンサ情報によって、マニピュレータの軌道を変更したり、アーム肘の部分に取り付けた接触センサが障害物と干渉した場合、冗長性を利用して障害物を回避させる方法をとった。障害物や作業対象物を明確に判別するために、ITV信号の画像処理は、色彩によって物体の識別を行う方法を採用するとともに認識精度を向上させるためテンプレートマッチング法を実施した。アーム先端部における位置検出精度は、±5mm以内であった。図3にバルブハンドルに接近中の冗長マニピュレータを示す。


図3 バルブハンドルに接近中の冗長マニピュレータ(原論文1より引用)

 この実験の結果、本システムが非冗長マニピュレータ(関節構成6軸以下のもの)では操作不可能な狭い空間における作業を自律的に障害物を回避しながら遂行できることを確認した。これらの試験を積み重ねることにより、原子力プラントのような複雑な環境において、放射線被曝の低減や異常時のプラント状態の計測などに有効に活用できる更に高度で、より実用的な知能ロボットが開発できるものと考える。
 

コメント    :
 原子力施設の複雑な環境、かつ高放射線区域における作業を人間に代わって現実的環境で遂行する知能ロボットを開発するためには、さらに環境状況を正確に知覚するためのセンサシステムや、知的情報処理システム、移動ロボットシステム等の研究開発が必要である。
 

原論文1 Data source 1:
センサベース自律的ロボットシステムを用いた障害物回避実験
藤井 義雄、鈴木 勝男
日本原子力研究所東海研究所 〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方2-4
日本原子力研究所レポート JAERI-Tech 98-054 (1998)

キーワード:マニピュレータ、冗長マニピュレータ、ロボット・アーム、知能ロボット、遠隔ロボット、障害物回避、自律制御、環境知覚システム
manipulator, redundant manipulator, robot arm, intelligent robot, remote control robot, obstacle avoidance, autonomous control, environment-sensing system
分類コード:120201, 120202, 120207

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