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作成: 1999/10/29 石川 信行

データ番号   :120032
人間協調型移動ロボットシステムの開発
目的      :原子力プラント巡回点検を目的とした、作業遂行における柔軟性を有する移動ロボットシステムの開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所制御知能工学研究室
応用分野    :ヒューマンインターフェイス,ロボット工学,プラント保守・点検

概要      :
 作業遂行の迅速性・信頼性向上をめざして、作業環境の変化等により問題が発生した場合には、必要に応じて人間が積極的に介在してその動作を支援するロボットシステムとして人間協調型移動ロボットシステムを開発した。そして、原子力プラントの一部を模擬したモックアップ環境下で巡回点検作業のデモンストレーションを実施して開発したシステムの有用性を示した。
 

詳細説明    :
 本研究で開発した「人間協調型移動ロボットシステム」は、人間の動作支援により原子力プラントでの作業遂行において重要となる迅速性・信頼性の向上をめざしたものである。タスクとしては定型的な巡回点検作業を想定して、プロトタイプシステムを開発した。システムの基本的な考え方としては、与えられた定型作業はロボットが自律的に遂行し、作業中に環境の変化等が生じて自律的実行が困難になった場合には、人間の操作支援により問題解決を図るというもので、定型作業における想定外事象に迅速に対応することを目指している。ここで想定している巡回点検作業において、ロボットは与えられた点検経路上を自律走行して作業を遂行する。
 
 作業遂行中に障害物を発見する等の問題が発生した場合には、ロボットはその場所に停止して、ホストコンピュータの画面上にメッセージを出してオペレータに支援を求める。そして、オペレータはロボットの走行を支援して問題の解決を図る。人間による走行支援を伴う人間協調型走行は、巡回点検中に目視点検用画像等に異常が見られた場合に、不具合と思われるプラント機器にロボットを接近させてより詳細な点検データを得る際にも有効である。
 
 開発したシステムの性能評価のために、原子力プラントの構成機器であるポンプやタンク、配管などを模擬したモックアップ環境内に経路を設定して、原子力プラント巡回点検作業を想定したデモンストレーションを実施した。デモンストレーションの内容と結果を以下に記す。
 
1)作業に先立ち経路生成ツールの地図上で巡回点検経路を指定し、この経路を走行させるための走行コマンドを自動生成する(図1(a))。
 
2)ナビゲーション・コマンドインタプリタを起動して生成した走行コマンドをロボットへ転送する。そして、そのコマンドの実行を開始させると、点検経路上をロボットが自律走行する(図1(b))。
 
3)ロボットは点検箇所で停止してTVカメラにより目視点検のための画像をとらえる。そして、ホストコンピュータ画面上に表示する(図1(c))。点検において、ロボットを手動操作してプラント機器に接近させ、より詳細な情報を得ることもできる。また、ホストコンピュータ画面上のスライダによりカメラ画像をズームアップすると詳細な目視点検用画像が得られる(図1(d))。
 
4)経路上で障害物を検知したときは、ロボットは停止する(図1(e))。そして、ホストコンピュータの画面上に表示を出してオペレータに支援を求める(図1(f))。オペレータはロボットからの障害物情報に基づき手動操作によりこれを回避する。その後、巡回点検経路に自動復帰させ、再び点検作業を続行する。
 
 デモンストレーションにおいては、障害物回避動作及び目視点検用の画像を得るためのプラント機器への接近の際に人間の手動操作による走行支援を行っている。


図1 Result of a system performance demonstration: (a)Path assignment on the map, (b)Starting the navigation, (c)Displaying the TV image, (d)Zooming in the TV image, (e)Stopping by obstacle detection, (f)Indication of obstacle detection.

 巡回点検作業においては、定型的な走行経路から外れて、詳細な点検を行う必要性も生じ得る。デモンストレーションでは、手動操作によりロボットをプラント機器へ接近させて詳細なカメラ画像を得ている。このような操作は、プラント機器における物理量(例えば、温度、放射線量)を正確に測定する等の詳細点検をオペレータの意図に応じて実施する際にも有効である。開発したシステムでは、定型的作業の遂行中に必要に応じて人間が介在して動作支援を行うためのインタフェイスを提供している。デモンストレーションにより、詳細な点検画像を得る場面および障害物回避動作において人間協調のためのインターフェイス機能が有効であることを示した。
 

コメント    :
 人間協調型移動ロボットは、作業に柔軟に対処して信頼性・作業性向上を図るためのひとつの有効なアプローチといえる。プロトタイプシステムの開発を通して、人間協調型システム構築のための機能拡充及び統合化の方向性を示した。
 

原論文1 Data source 1:
Development of human and robot collaborative navigation technology in nuclear power plants
N. Ishikawa, Y. Furukawa, S. Sasaki and K. Suzuki
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai, Ibaraki, 319-1195 Japan
Proceedings of the International Symposium on Artificial Intelligence, Robotics and Intellectual Human Activity Support for Nuclear Applications, pp. 213-224 (1997).

原論文2 Data source 2:
人間協調型移動ロボットシステムの開発
石川 信行,古川 良男,鈴木 勝男
日本原子力研究所,〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根2-4
第4回ロボティックスシンポジア予稿集, 22C3, pp. 377-380 (1999).

キーワード:人間協調型ロボットシステム、自律走行、人間協調型走行、人間による支援、巡回点検作業デモンストレーション
human collaborative robot system, autonomous navigation, human collaborative navigation, human assistance, demonstration of inspecting patrol
分類コード:120201

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