原子力基盤技術データベースのメインページへ

作成: 2000/01/07 淺間 一

データ番号   :120030
環境埋め込み情報に基づく自律移動ロボットの自己位置同定
目的      :知的データキャリアをランドマークとした移動ロボットの自己位置同定手法の開発
研究実施機関名 :理化学研究所生化学システム研究室
応用分野    :ロボット工学研究、移動ロボット応用一般、製造業、医療福祉、原子力

概要      :
 知的データキャリアに位置情報を書き込んで環境に設置し、移動ロボットがこれをランドマークとして自己位置同定を行う戦略を提案した。また、移動ロボットが局所的通信によりこの情報を取得しながら、画像処理に基づきランドマークとの相対位置を計測し、他のセンサデバイスから得られた情報と統合して自己位置同定を行う手法を開発した。さらに、実際の全方向移動ロボットを用いた自己位置同定実験によってその有効性を示した。
 

詳細説明    :
 移動ロボットを制御する上で、自己位置同定は必要不可欠な機能である。本研究では、環境の地図の管理が不要で、かつ複数の移動ロボットが動作する環境で有用な新しい自己位置同定手法を開発した。
 
 まず、ランドマークとして知的データキャリア(Intelligent Data Carrier: IDC)を用いる。IDCとは、CPU、メモリ、バッテリー、局所的通信機構を有するポータブルなデータキャリアである。データの読み出し/書き込みができる点、内部で情報の蓄積・処理を行える点、比較的通信距離が大きく取れる点などが特徴である。基本的戦略としては、環境の様々な場所にこのIDCを設置すると同時に、その内部にIDC自身の位置情報を管理させる。ロボットはIDCに近づくとそれを認識し、局所的通信によってIDCの位置情報を獲得すると同時に、ロボットに搭載したセンサを用いて、IDCとの相対位置関係の計測、自己位置の推定を行う。
 
 具体的にはまず、地磁気方位センサなどによって、ロボットが絶対姿勢角(a)を計測する。次に、ランドマークであるIDCを視覚によって認識できれば、画像処理によってロボットとIDCとの相対位置関係(b)を求めることができる。そして、IDC内にその絶対位置を記憶させておけば、ロボットはIDCとの局所的通信によって、IDCの絶対位置(c)を知ることができる。以上で得られたa、b、cを統合することによって、ロボットの絶対位置を推定することが可能になる。
 
 自己位置同定の具体的手順を図1に示す。ロボットは(1)IDCの通信の試行、(2)通信を用いたIDCの検出および(3)IDCの絶対位置の取得を行う。次に、IDCの位置情報に基づいて移動し、カメラのアングルを変化させ、IDCをカメラアングル内に捕え、(4)IDCの画像処認識を行う。さらに、(5)画像処理によってIDCとの相対位置の算出を行い、(6)上述の情報統合によってロボットは自己位置を同定する。


図1 自己位置同定の手順(Procedure of self-localization)(原論文1より引用)

 次に、具体的な実現方法については、IDCをロボットによって可搬でき、かつ床に置けるようにケースを施したもの(IDCユニットと呼ぶ)を用い、この円形の上部を画像認識しやすいように黒色に塗って、これをマーカとして床上に置くこととした。円形のマーカをロボット上のカメラから見ると、画像平面上ではだ円となる。ロボット上に搭載されたカメラとIDCとの関係を図2に示す。マーカの認識は、注目領域の抽出およびだ円の精細推定の2段階の処理で行う。推定しただ円の中心位置、長軸系、短軸系から相対位置を算出することが可能である。


図2 カメラとIDCの位置関係(Relationship between camera and IDC)(原論文1より引用)

 以上述べた手法を実験によって検証した。すでに、我々が開発した全方向移動ロボット(各アクチュエータ軸にエンコーダを装備)を用い、これにセンサデバイスとしてCCDカメラと地磁気方位センサを、またIDCとの通信のためのReader/Writerを搭載した。実験は、5[m]×3.5[m]の矩形軌道を走行させることとし、各矩形軌道の頂点付近にIDCユニットを配置し、(a)IDCユニットを用いずにエンコーダによるデッドレコニングのみによって行った走行軌道と、(b)各頂点でIDCをランドマークとした本自己位置同定手法によって位置情報を補正しながら走行した軌道を比較した。その実験結果を図3に示す。図から明らかなように、aでは大きなずれが生じたのに対し、本手法を用いた方法では誤差は蓄積せず、最終位置でのずれを約96[mm]に押さえることができた。


図3 実験結果(Experimental results)(原論文1より引用)

 以上から、IDCに位置情報を埋め込んで環境に設置し、これをランドマークとした自己位置同定が有効であることが確認された。本手法は、複数ロボット環境での大局的通信量を低減、位置情報の整合性の考慮が不要、環境の変化に応じてランドマークの再構築が可能、低コストで実現可能などの利点がある。
 

コメント    :
 本研究は、移動ロボットが環境内で自律的に動く上で必要となる基本的機能である自己位置同定の一手法を提案したものであるが、環境の地図の管理が不要で、かつ環境の変化などにも対応できる柔軟性の高い手法である。特に、複数の移動ロボットが動作する環境で有用であり、原子力プラント内をはじめとする様々な環境で自律的に移動するロボット技術に応用が可能であると考える。
 

原論文1 Data source 1:
環境埋め込み情報に基づく自律移動ロボットの自己位置同定
新井 義和, 藤井 輝夫*, 淺間 一*, 藤田 隆則**, 嘉悦 早人*, 遠藤 勲*
埼玉大学大学院, *理化学研究所, **東洋大学大学院
日本機械学会論文集(C編) 64巻 619号 pp. 945-950 (1998-3) 論文 No. 97-0461

原論文2 Data source 2:
Self-Localization of Autonomous Mobile Robots Using Intelligent Data Carriers
Y. Arai, T. Fujii*, H. Asama*, T. Fujita**, H. Kaetsu*, I. Endo*
Saitama Univ., *The Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN), **Toyo Univ.
Distributed Autonomous Robotic Systems 2 (H. Asama, T. Fukuda, T. Arai and I. Endo, Eds.), Springer-Verlag, Tokyo (1996) pp. 401-410.

参考資料1 Reference 1:
群ロボットのための知的データキャリアの開発(第 1 報)・データキャリアの設計と試作・
藤田 隆則, 淺間 一, Thomas von Numers, 琴坂 信哉, 宮尾 栄, 嘉悦 早人, 遠藤 勲
東洋大学大学院, 理化学研究所, 埼玉大学大学院, (株)シグマシステム
1995年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集 (1995) pp. 491-492

参考資料2 Reference 2:
知的データキャリアを用いた自律移動ロボットの自己位置同定
新井 義和, 藤田 隆則, 藤井 輝夫, 嘉悦 早人, 淺間 一, 遠藤 勲
埼玉大学大学院, 東洋大学大学院, 理化学研究所
第5回ロボットセンサシンポジウム論文集

参考資料3 Reference 3:
Realization of Autonomous Navigation in Multirobot Environment
Y. Arai, T. Fujii, H. Asama, H. Kaetsu, I. Endo
Saitama Univ., The Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN)
Proc. of 1998 IEEE/RSJ Int. Conf. on Intelligent Robots and Systems

キーワード:自己位置同定, 知的データキャリア, ランドマーク, 環境地図, センサ統合, 移動ロボットシステム
Self-localization, Intelligent Data Carrier, Landmark, Environment Map, Sensor Integration, Mobile Robot Systems
分類コード:120201, 120202, 120203

原子力基盤技術データベースのメインページへ