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作成: 1999/12/31 淺間 一

データ番号   :120029
2台の自律移動ロボットの相互ハンドリングによる協調搬送
目的      :相互ハンドリングによって協調搬送させて段差乗り越えなどを行う手法の開発
研究実施機関名 :理化学研究所生化学システム研究室
応用分野    :ロボット工学研究, 製造業, 医療福祉, 原子力, 人工知能研究

概要      :
 群ロボットによる「相互ハンドリング」という概念について述べた。2台の自律移動ロボットが、移動ロボット単独では乗り越えられない大きな段差を、それぞれのフォークリフトを相互に動作させ、協調搬送によって乗り越える手法を提案した。相互ハンドリングためのフォークリフト機構を設計し、これを装備した2台の自律型全方向移動ロボットを用いて相互ハンドリングの実験を行い、協調搬送によって段差の乗り越えを実現した。
 

詳細説明    :
 複数台のロボットを協調させれることによって、複雑な作業や大きな力を要する作業を遂行したり、環境に存在する障害を克服することができる。本研究では、同じ形状、同じ機能を持つ自律移動ロボットどうしを、フォークリフト機構を用い通信を行いながら相互ハンドリングさせ、協調的に搬送しながら1台のロボットでは不可能な大きな段差の乗り越え行わせる手法を開発した。まず、それを実現する基本的戦略として、可搬重量、軽量化および自由度の面を考慮して、全方向移動ロボット上にフォークリフト機構を搭載して、相互ハンドリングを行わせることとした。
 
 また、必要な持ち上げ力を確保し、かつ転倒しないような安定性を考慮し、2台のロボットのフォークリフトの協調による持ち上げ動作を行うこととした。すなわち、ロボットBがロボットAを持ち上げる際、Aも自分のフォークを床面に押し付けて自分自身を押し上げることにより、Aを持ち上げる力を2台のフォークリフトに分散し、また2台のフォークリフトによる支持により安定な協調搬送を可能とした。フォークの高さを自由に変えられるので、様々な高さの段差に対応できる。
 
 図1に相互ハンドリングによって協調搬送を行い、大きな段差を乗り越える手順を示す。(a1)BがAに接近、フォークをAの下面に差し込む、(a2)AおよびBのフォークを協調させて動作、Aを段上まで持ち上げる、(a3)Bが前進し、Aを段上まで搬送、フォークの協調動作によりAを段上に下ろす。次に、A、Bともに180[deg]旋回後、(b1)Aがフォークを段下まで下ろし、BはAに接近,(b2)AおよびBのフォークを協調させて動作,Bを段上まで引き上げる,(b3)Aが後退し,Bを段上まで搬送、フォークの協調動作によりBを段上に下ろす。この逆の手順をだどることにより、段差を降りることも可能となる。以上により、1台では対処できなかった段差を相互ハンドリングによる協調搬送で、2台ともに乗り越えられることが可能となる。


図1 段差乗り越え手順(Step-climbing procedures)(原論文1より引用)

 次に、2台の移動ロボットで協調搬送する際の、相互ハンドリング用フォークリフトの機構の設計を行った。動力学的な条件、摩擦等による損失、安全係数などの余裕などを含む上下方向の駆動力条件、段差乗り越えのための可動領域条件、相互ハンドリング時に転倒しないための安定力学条件などを考慮して設計したフォークリフト機構を図2に示す。この最大の特徴は、動滑車とワイヤを用い、可動領域および駆動力を大きくしつつ、安定条件を満足するようコンパクトにした点、フォーク下面にキャスタを取り付けることによって、協調搬送中にフォークで持ち上げているロボットを他のロボットで受動的に動かせる点などである。本フォークリフト機構は、重量約8[Kg]、可搬重量約50[Kg]、可動領域は床面±約140[mm]となっている。


図2 フォークリフト機構の構成(Structure of the forklift mechanism)(原論文1より引用)

 フォークリフト機構を、すでに開発したホロノミックな自律型全方向移動ロボットに搭載し、このロボット2台を用いて相互ハンドリングによる協調搬送動作を実現した。本ロボットの移動機構およびフォークリフトは、エンコーダに基づく位置制御が可能であり、また無線のイーサネットを用いた通信によって、ロボット間で必要なメッセージ交換をしたり、同期動作を行わせることが可能である。
 
 以上の手法を具体的に全方向移動ロボット上に構築し、協調搬送実験を行った。実験で用いた段差は120[mm]である。移動ロボットの車輪径は200[mm]であり、理論的にもロボット単独ではこの段差を乗り越えることは不可能だが、動作実験を行った結果、高い成功率で協調搬送が実現できた。そのときの様子を図3に示す。機構、センサ、制御系の改良によって、さらに成功率を高めることが可能であろう。今後、3台以上の相互ハンドリング、より複雑な環境での対処方法などの検討を行う予定である。


図3 段差乗り越え動作実験(Experiment of pushing-up motion)(原論文1より引用)

 

コメント    :
 移動ロボット、特に全方向移動ロボットの最大の欠点である。不整地や段差の乗り越えについて、複数ロボットの相互ハンドリングによって協調搬送させることにより、ある程度解決することが可能であることが示された。本技術は、複数ロボットの相互ハンドリングという考え方をうまく用いれば、原子力プラント内の保全作業において、環境が完全には予測できなくても、高度に適応できる可能性があることを示唆している。
 

原論文1 Data source 1:
2台の自律移動ロボットの相互ハンドリングによる協調搬送
淺間 一, 佐藤 雅俊*, 後藤 伸之**, 嘉悦 早人, 松元 明弘***, 遠藤 勲
理化学研究所, *鐘紡株式会社, **NECCO株式会社, ***東洋大学工学部
日本ロボット学会誌 Vol. 15, No. 7 (1997) pp. 1043-1049

原論文2 Data source 2:
Mutual Transportation of Cooperative Mobile Robots Using Forklift Mechanisms
H. Asama, M. Sato*, N. Goto**, H. Kaetsu, A. Matsumoto* and I. Endo
The Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN), *Toyo Univ., **NECCO Co., Ltd.
Proc. of the 1996 IEEE Int. Conf. on Robotics and Automation (1996) pp. 1754-1759

参考資料1 Reference 1:
3自由度独立駆動型全方向移動ロボットの開発
淺間 一, 佐藤 雅俊, 嘉悦 早人, 尾崎 功一, 松元 明弘, 遠藤 勲
理化学研究所, 鐘紡株式会社, 宇都宮大学工学部, 東洋大学工学部
日本ロボット学会誌 Vol. 14, No. 2 (1996) pp. 249-254

参考資料2 Reference 2:
Development of an Omni-Directional Mobile Robot with 3 DOF Decoupling Drive Mechanism
H. Asama, M. Sato, L. Bogoni, H. Kaetsu, A. Matsumoto, I. Endo
The Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN), Kanebo Ltd., Utsunomiya Univ., Toyo Univ.
Proc. of 1995 IEEE Int. Conf. on Robotics and Automation (1995) pp. 1925-1930

参考資料3 Reference 3:
複数移動ロボットの相互協調搬送のためのフォークリフト機構の開発
佐藤 雅俊, 松元 明弘, 後藤 伸之, 淺間 一, 嘉悦 早人, 遠藤 勲
東洋大学工学部, 理化学研究所
第13回日本ロボット学会学術講演会予稿集

参考資料4 Reference 4:
3自由度独立駆動型全方向移動ロボットの自立化
佐藤 雅俊, 淺間 一, 松元 明弘, 嘉悦 早人, 尾崎 功一, 遠藤 勲
東洋大学工学部, 理化学研究所, 宇都宮大学工学部
1995年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集 (1995) pp. 485-486

キーワード:相互ハンドリング,協調搬送,フォークリフト,全方向移動ロボット,通信
Mutual Handling, Cooperative Transportation, Forklift, Omni-directional Mobile Robot, Comminication
分類コード:120203, 120201

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