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作成: 1999/02/10 樋口 健二

データ番号   :120020
人間動作シミュレーション技術の研究 -施設形状データベース-
目的      :知能ロボットの動作シミュレーションのためのモデル化・可視化手法の開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所計算科学技術推進センター
応用分野    :原子力施設の保守・点検、自律型プラント、自然言語理解、被曝線量評価

概要      :
 原子力施設のような大規模・複雑環境をモデル化する技術、大規模・複雑環境における論理/数値シミュレーション結果を可視化する技術について述べる。世界モデルについては、多様な論理/数値シミュレーションに備えて4つのモデルを使用している。可視化についても、シミュレーション結果を実時間表示するZ-バッファ、光の反射過程を忠実に表現する光線追跡法等可視化目的に合わせた3つの手法が選択可能である。
 

詳細説明    :
1. はじめに
 移動ロボットのシミュレーション・システムでは、原子力施設のような大規模・複雑環境をモデル化する技術、シミュレーション結果の評価のための可視化技術が不可欠である。ソリッド・モデルを基軸とするプラントの環境データベース、シミュレーション結果を実時間表示する映像化システム、視覚認識処理のための画像モデル・輪郭線モデル生成機能を開発した。
 
2. 環境モデルの構築
 「人間動作シミュレーション・プログラム(HASP: Human Acts Simulation Program)」においては、様々な論理/数値シミュレーションが行われる。各シミュレーションにおいては、高速処理の観点から処理内容に応じた以下の4つの環境モデルを適宜使用する(図1)。


図1 人間動作シミュレーション・プログラム(HASP)における世界モデル(原論文1より引用)

(1) CSG(Constructive Solid Geometry)モデル
 ロボット・シミュレーションにおいては、CADのように点と線からなるデータではなく、3次元情報が縮退していないCSGモデルを必要とする場合が多い。a)狭隘な空間においてロボット躯体と施設内機器との詳細な干渉チェックを行うため、b)モンテカルロ法により放射線輸送問題を解き、ロボット躯体に対する放射線損傷度を評価するため、c)下記(2)〜(4)で述べる種々の環境モデルを生成/一元管理するため、基本立体の論理演算によって3次元物体を記述するCSGモデルにより世界モデルを構築した。
 
(2) ボクセル・マップ
 各ボクセル(2次元/3次元の直方体セル)中に存在する機器IDが登録されている。大まかな行動計画を行う際、ロボットの可動空間の検索を高速実行するために利用される。
 
(3) 多面体モデル
 シミュレーション結果の高速表示には、ワークステーション上で多面体モデルを可視化する手法が有効。また、視覚認識のための輪郭線モデルを生成する際も使用される。
 
(4) 簡易モデル
 各機器を包含する球や円筒といった基本立体によって、その機器の形状を代表させるモデル。大まかな干渉チェック、あるいは、解析が困難なロボット躯体の揺れ等を考慮し、十分に安全な可動範囲を高速に決定するための干渉チェックに有効。また、光線追跡法による画像生成において光線の交差する物体を特定し処理を高速化する際有効。
 
3. シミュレーション結果の可視化手法
(1) 多面体モデルの可視化
 ロボットの動きを環境と共に可視化する場合、WS上で多面体モデルをZ-バッファにより高速表示している。WSの性能向上に伴い様々な3次元表示技術が普及してきた現在、グラフィック・アクセラレータ等を用いて、三角形の連続体をアフィン変換し、さらにGouraud またはPhongのモデルにより陰影づけする手法については、一般化したと思われるため詳細は略す。
 
(2) 光線追跡法による画像生成
 環境の一部あるいは大部分が崩壊し、原型を留めていない事故時等は、十分なエッジ情報や面情報の実画像からの抽出が極めて困難な状況が予想される。この場合、デッドレコニング等の情報から推定される大まかな自己位置から「見えるべき画像」を生成し、これを直接実画像と比較し、認識対象を特定する手段が有効である。「見えるべき画像」の生成には、光の反射過程を忠実にシミュレーションする光線追跡法を用いる。また、より現実感の豊かな画像を生成するための順方向光線追跡法による可視化機能も開発した。順方向光線追跡法と従来手法(逆方向光線追跡法)との比較を図2に示す。


図2 順方向光線追跡法(a)と従来の逆方向光線追跡法(b)との比較(原論文2より引用)

 
(3) 視覚認識用輪郭線モデルの生成
 通常の環境認識においては、CCDカメラからの実画像から、エッジ情報を抽出し、環境中の物体に対応する数学モデルと比較する手法を用いる。視覚による環境認識のために開発した2種類の輪郭線モデルの生成手法については次のとおり。
 
a) 基本立体に対する輪郭線数学モデルの生成
 3次元空間において視点と視方向を与えた時のCSGモデルに対する輪郭線数学モデルの生成は、複数の基本立体による集合演算を行った際の合成部分の取り扱いが難しいことから、画像処理における問題点の1つとなっている。この問題点に対するアプローチとして、CSGモデルに使用される各基本立体に対する輪郭線数学モデル生成機能を開発した。出力例を図3に示す。


図3 CSGモデルを構成する基本立体群に対する輪郭線モデル(原論文1より引用)

 
b) 多面体に対する輪郭線モデルの生成
 上述の機能に加え,ポリゴンの集合体(多面体)として表現される3次元物体の輪郭線を表示する機能を開発した。 CSGモデルを構成する基本立体から直接輪郭線モデルを生成するのではなく、CSGモデルを変換した多面体モデル(ポリゴンの集合体)に対する輪郭線生成機能。
 
4. おわりに
 大規模・複雑環境におけるロボット・シミュレーションのための「環境設定・映像化技術の研究」として、上記4つの手法により世界モデル(原子力施設の建屋、機器等の3次元物体)を構築するとともに、3つの可視化手法を適用し、有用性を確認した。
 

コメント    :
 計算機の性能向上にともない、映像化技術は急激な進歩を遂げた。10年程前は、予めスパコン等により作成した三次元画像をビデオ機器を用いて連続表示することでシミュレーション結果を動画化していたが、現在は、グラフィック・アクセラレータ等の専用演算器を搭載したワークステーション上で任意の視点・視方向に対し、瞬時に画像を生成・表示する機能、いわゆる仮想現実感を実現しているほどである。しかしながら、世界モデルの構築技術については、現実世界をCSGモデル等により記述する際、手作業を必要とするため依然高価である。このため、知能ロボットの技術開発においては、球、直方体等の簡単な素立体のみで構成される、「積み木の世界」が使用されている例がほとんどである。
 

原論文1 Data source 1:
知能ロボットシミュレーションのための可視化システム
樋口 健二、大谷 孝之、久米 悦雄
日本原子力研究所
第9回「原子力におけるソフトウェア開発」研究会報告集(1995年11月9-10日、日本原子力研究所東海研究所)JAERI-Conf 96-002, pp. 118-154, 日本原子力研究所 (1996).

原論文2 Data source 2:
モンテカルロ法を適用した光線追跡画像生成プログラムの開発
樋口 健二、大谷 孝之、長谷川 幸弘
日本原子力研究所
JAERI-Research 97-062, 日本原子力研究所 (1997).

キーワード:人工知能、自然言語処理、知識ベース、ロボティックス、グラフィックス、モンテカルロ法、スーパーコンピュータ、計算機シミュレーション
Artificial Intelligence, Natural Language Processing, Knowledge-base, Robotics, Graphics, Monte Carlo Method, Supercomputer, Computer Simulation
分類コード:120201, 120205, 120202

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