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作成: 1999/02/23 田辺 文也

データ番号   :120017
知的対処能力獲得のための訓練方法
目的      :原子炉異常に対する知的対処能力獲得のための訓練方法
研究実施機関名 :日本原子力研究所人的因子研究室
応用分野    :原子力発電プラント運転員訓練

概要      :
 知的活動支援研究の一環として、マンマシンインタフェース設計・評価を行うための原子炉シミュレータ実験施設を開発整備し、この施設を用いた教育訓練方式の設計を行い、実験を実施し、そのデータの詳細分析により、この教育・訓練方式の有効性を確認した。
 

詳細説明    :
 原子力発電所における想定外の事態をも含む異常状態に対して人間が適切な対処を行えるようにすることが安全上肝要である。そのために必要なことは、短期的には当該時点で人間が困難に遭遇したときに必要な支援を提供することと、長期的には人間の知的対処能力の獲得・維持を支援することである。その研究の一環として教育・訓練方式に関する研究を実施した。
 
 原子力発電プラントの運転を行うために要求される能力は以下のようにまとめることができる。
 
(1)プラントシステム構造に対する基本的理解
  1)プラントシステムによって達成されるべき目的と機能
  2)それぞれのサブシステムや機器の役割とそれらの間の相互関係と動的結合性
 
(2)システム挙動の背後にあるダイナミックスやメカニズムの基本的理解
  1)状態変数とシステム変数の間の機能的関係
  2)プラントシステムのダイナミックスを規定する自然法則
 
(3)プラント運転に要求される操作スキル
  1)インタフェースの物理的配置に対する適応
    ・制御器操作とシステムパラメータとの間の関連
    ・インタフェース上の図形表現の解釈と理解
    ・ナビゲーションスキル
  2)異常発生の診断・対処スキル。
 
 原子力発電プラントの通常操作タスク、とくに冷態停止状態からの起動タスクは、機器やサブシステムを選択、結合、併列して、定格出力状態などの目標状態へとプラントシステムを導く。その際、プラントシステムの設計プロセスで考慮された前提条件や制約を勘定に入れる必要がある。このような、冷態停止状態からの起動タスクの特性を考えると、この起動タスクを運転手順に沿って各タスクステップを実行する時にそれぞれの意味が説明されれば、上述した能力の発達が助長されると考えられる。
 
 原子炉異常対処においては、システム挙動の背後にあるシステムダイナミックスやメカニズムに関する知識を、リアルタイムで利用するという非常に特殊なスキルを持つ必要がある。そのような特殊なスキルを獲得するためには、通常操作に基づく訓練を通じて得られた知識を活性化させるのに使えるような慣れ親しんだラベル付きのシステム状態パターンのレパートリーを持つ必要がある。このためには、訓練は通常操作に加えて異常状態対処も含む必要がある。
 
 このような考察をもとに、次のように教育・訓練方式を設計した。
 
(1)シミュレータ上で通常運転操作手順に基づいた訓練
  1)インストラクターの直接教示による通常操作実行
    各要素タスクの実行にあたって、インストラクターが当該要素タスクの意味(制御要求など)を、陽に説明する。
  2)インストラクターの直接教示なしでの通常操作実行
 
(2)シミュレータ上で異常状態診断と対処操作
  1)インストラクターによるシミュレータを用いた異常状態説明
    システム挙動の特性、物理的メカニズム、診断方法、対処方法などの説明をうける。
  2)インストラクターの教示に基づく異常診断・対処操作の実行
  3)インストラクターの教示なしでの異常診断・対処操作の実行
    各セッションの後にインストラクタによるインタビューを行い、システム構造・機能や物理的メカニズムなどに対する誤解などを正す。
 
 この訓練方法の有効性・妥当性を評価するために、シミュレータ実験施設を活用した実験を行い、有効性を確認できた。
 

コメント    :
 この訓練方法は原子力施設のみならず、複雑システムの運転にかかわる要員訓練に共通するものと考えられる。
 

原論文1 Data source 1:
Design of Subjects Training on Reactor Simulator and Feasibility Study -Toward the Empirical Evaluation of Interface Design Concept-
Y. Yamaguchi, H. Furukawa and F. Tanabe
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai-mura, Naka-gun, Ibaraki-ken, 319-1195 Japan
Proc. Enlarged Halden Programme Group Meeting ( March, 1998, Norway) Session C1, Paper No. 1.

原論文2 Data source 2:
Simulator Study on Supporting Operators' Intellectual Activities in NPP
Y. Yamaguchi, H. Furukawa and F. Tanabe
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai-mura, Naka-gun, Ibaraki-ken, 319-1195 Japan
Proc. International Symposium on Artificial Intelligence, Robotics and Intellectual Human Activity Support for Nuclear Applications ( November, 1997, Saitam, Japan) pp. 67-79.

キーワード:原子炉、異常状態、想定外事象、知的対処、知的対処能力、訓練、シミュレータ
nuclear reactor, abnormal situation, unanticipated situation, intellectual activity, intellectual competence, training, simulator
分類コード:120403

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