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作成: 1998/10/05 樋口 健二

データ番号   :120015
人間動作シミュレーション技術の研究 -人間形ロボットの2足歩行シミュレーション-
目的      :人間形2足歩行ロボットの制御技術の開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所計算科学技術推進センター
応用分野    :原子力施設の保守・点検、自律型プラント、事故時の偵察

概要      :
 人間形2足歩行ロボットの制御技術について述べる。ここでは、未知の外乱等に対処するため、ロボットの状態を検出し、これを考慮した安定化を行うリアルタイム制御法を提案する。下肢については、予め生成した歩容にしたがった歩行動作を行なわせ、歩行中に計測したデータに基づいた補償動作を上体に与えることで安定性を確保する。開発した手法の有効性をシミュレーションによって検証した。
 

詳細説明    :
 人間動作シミュレーション技術の研究の一環として行われてきた人間形2足歩行ロボットの制御技術について述べる。従来の2足歩行ロボットの制御法は、事前のシミュレーションによって安定歩行バターンを解析し、そのパターンに基いたプログラム制御によりロボットを歩行させるものである。すなわち、歩行中のロボットの状態(状況)に応じた歩行安定化制御をしているのではなく、予め生成した歩行計画(バターン)通りに歩行動作を行わせているにすぎない。このため、予期できない外乱等に対処することは難しい。そこで、ロボットの状態を検出し、これを考慮した安定化を行うリアルタイム制御法を提案する。
 
 計算モデルを図1に示す。このモデルは、上肢なし人間形2足歩行ロボット・モデルで、上体おもり、アクチュエータ等を質点とし、リンク構造部材を剛体とする準質点系モデルである。一般に、ロボットをモデル化する場合、構造部材の影響が大きいため剛体系による記述が普通であるが、質量がボディの一部に集中するような場合(例えば、アクチュエータの質量がリンクのそれと比較して非常に大きい場合)は質点系による記述も可能である。開発したシステムでは、剛体系・質点系のどちらでも記述が可能で、シミュレーションを行う設計段階では形状や重量分布(慣性モーメント)が不明確であるアクチュエータやセンシング・システム等を質点とし、構造部材を剛体とする、混合モデルを許している。このモデルは8ボディ、7関節からなり、下肢の前頭面内の動きは両脚が平行で、足は常に床面と水平であると仮定し、下肢5自由度(ピッチ軸4自由度、ロール軸1自由度)、腰2自由度(ピッチ軸・ロール軸それぞれ1自由度)の合計7自由度を持つ。ただし、直進歩行を前提とし方向転換の自由度は与えていない。


図1 人間形2足歩行ロボット・モデル(原論文3より引用)

 基本となる運動方程式を式(1)に示す。
 


図3  (1)(原論文3より引用)

 
 ここで、Δrは任意の点の位置ベクトル、MはΔrにおけるモーメント、nはボディ構成要素数、miはボディ要素iの質量、Jiはボディ要素iの慣性テンソル、ωiはボディ要素iの角速度ベクトル、riはボディ要素iの重心位置ベクトル、Gは重力加速度ベクトルである。なお、おもりやアクチュエータ等の質点もボディの一部として扱い、慣性項については慣性テンソルを零行列として定式化を行う。
 
 本研究では、歩行安定性の規範として、Zero Moment Point(ZMP)規範を用いている。ZMPとは、ロボットに作用するモーメントの総和のピッチ軸及びロール軸まわりの因子が共に零になる床面上の点である。このZMPがロボットの足底接地面の形成する多角形領域(安定領域)内に存在していれば、ロボットは安定に歩行することができる。本制御法では、歩行ロボットに任意の歩容と安定領域内に設定したZMP(基準ZMP)を与え、この歩容に従って下肢の動作を行わせる。上体に関しては、歩行中に実際のZMP(測定ZMP)を計測することで、上体の補償動作をリアルタイムで生成し、歩行安定化を行う。実際のハードウェア・ロボットヘ適用する場合のZMP計測の間題に関しては、足底に小型の1軸力センサを複数設置することで解決できる。
 
 未知の外乱を作用させた場合のシミュレーション結果の例をスティック線図として図2に示す。1歩に要する幅と時間は、それぞれ300mm、1.0秒である。ベクトルFdはロボット腰部に外乱として作用させた矩形状の外力の大きさと方向を示している。図2は、歩行開始後3.8秒経過した時に、ロボット腰部に進行方向後方へ矩形状の外力を10kgf、0.1秒間作用させた場合である。外力によるZMP変化を補償し、安定歩行を保持していることがわかる。


図2 未知の外乱に対する上体による補償動作 (a) 鳥瞰図、(b) 正面図、(c) 側面図(原論文3より引用)

 

コメント    :
 4脚あるいは6脚ロボットと比較し、2足歩行ロボットの制御は困難を極める。特に、実用レベルの歩行速度を実現するためには、安定化の難しい動歩行が不可欠であり、この場合、非線形な常微分方程式の一般解を求める難しさに加え、未知の外乱に対する上体及び下肢による補償動作の生成、方向転換のためのヨー軸回りのモーメントの補償等の問題がある。ハードウェアについては、構造部材及び動力機の重量を支える(任意の角速度で動かす)ために大きなトルクが必要であり、トルク出力を上げようとすると、アクチュエータが大きく(重く)なり、これを支えるためにより大きなトルクが必要となる、といった悪循環が存在する。
 

原論文1 Data source 1:
ZMPの動的監視に基く2足歩行ロボットの制御法
久米 悦雄
日本原子力研究所
JAERI-M 93-253、日本原子力研究所(1994).

原論文2 Data source 2:
Numerical Simulation for Design of Biped Locomotion Robots
E. Kume and *A. Takanishi
日本原子力研究所、*早稲田大学
Proceedings of Joint International Conference on Mathmatical Methods and Supercomputing in Nuclear Applications, Karlusruhe, Germany, April 19 - 23, 1993, Vol. 2, p. 356, Kernforschungszentrum Karlsruhe (1993).

原論文3 Data source 3:
原子力知能化システム技術の研究(人間動作シミュレーション・プログラム:HASP) -平成5年度作業報告-
秋元 正幸、樋口 健二、久米 悦雄、神林 奨、大谷 孝之、海老原 健一
日本原子力研究所
JAERI-Research 95-014、日本原子力研究所(1995).

キーワード:ロボティックス、計算機シミュレーション、2足歩行ロボット、動歩行、ゼロモーメントポイント、歩容
Robotics, Computer Simulation, Biped Locomotion Robot, Dynamic Walking, Zero-Moment-Point, Gait
分類コード:120201

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