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作成: 1998/10/05 樋口 健二

データ番号   :120014
人間動作シミュレーション技術の研究 −概要−
目的      :高放射線下で人間作業を代替する知能ロボットの要素技術開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所計算科学技術推進センター
応用分野    :原子力施設の保守・点検、自律型プラント、自然言語理解、被曝線量評価

概要      :
 高放射線下において人間作業を代替する知能ロボット及びプラントの知能化・自動化の基盤技術開発を目的として、人間型2足歩行ロボットに関わる要素技術を開発する。すなわち、人間型知能ロボットの統合シミュレーション・システムの構築を通して、原子力施設における巡回・点検作業に必要な知的ソフト、センサ・システムを搭載した2足歩行ロボットの制御技術、及びシミュレーションを高速化するための専用計算機の開発を行う。
 

詳細説明    :
 「人間動作シミュレーション・プログラム(HASP: Human Acts Simulation Program)」では、図1に示すように、計算機上に設定された人間型の知能ロボットが日本語で記述された命令文を理解し、環境データを用いて自己の行動を計画し、プラント保守作業を遂行する過程が論理/数値シミュレーションされる。また、動力学的に計算されたロボット動作は、高速計算機上で3次元環境と共に可視化される。
 
 HASPを構成する要素技術のうち、論理シミュレーションに関する技術開発を行う「原子力知識ベースの研究」では、a)日本語で与えられる命令文の構文・意味解析からロボットの行動を高速・自動生成するための「命令理解・行動計画の研究」、b)ロボットの動作空間を定義し、シミュレーション結果を可視化するための「環境設定・映像化技術の研究」、及びc)ロボットが知覚情報に基づいて行動したり、環境の異常を検出するための「環境認識技術の研究」を行った。
 
 数値シミュレーションに関する技術開発を行う「高速シミュレーション技術の研究」では、a)人間型ロボットの動きを動力学的に計算・評価する技術を開発し、人間型ロボットの設計基準を与えることを目的とした「ロボット動作・ハードウェアの研究」、b)ロボット躯体に対する放射線損傷度の評価手法を開発する「被曝線量計算の研究」、及びc)HASPにおける論理/数値シミュレーションの高速化を目的とした「高速モンテカルロ装置の開発」を行った。


図1 人間動作シミュレーション・プログラム(HASP)の概念図(原論文1より引用)

 「命令理解・行動計画の研究」では、日本語で書かれた作業指示文の構文意味解析を行い、結果をフレーム構造で表現し、これを基に行動目標(ゴール)を生成するシステムを開発した。自然言語解析では、高木・伊藤の構文・意味的係り受け構造の表現手法に基く構文解析ソフトウェアを利用しており、動作系列の決定を行う行動計画では、R. C. Shankらの提唱する概念依存性理論に基くゴール・プランの理論を用いている。
 
 「環境設定・映像化技術の研究」では、知能ロボットの動作空間として原研の研究炉JRR-3Mを選択し、CSG(Constructive So1id Geometry)手法によってデータベース化した。可視化機能については、ポリゴン・データをWS上で実時間表示するシステムとレイ・トレーシング法により環境認識用の画像モデルを生成する、二つのシステムが開発された。
 
 「環境認識技術の研究」では、マーク検出によるロボットの自己位置認識算定プログラムを開発した他、カラー画像から物体の稜線を抽出し、さらに頂点を検出することで自己位置を認識するシステムを開発した。
  
 「ロボット動作・ハードウェアの研究」では、M.Vukobratovicによる人間型2足歩行ロボット・モデルを拡張し、ロボットの発進・定常歩行・停止の完全歩行をシミュレーションするシステムを開発した。このシステムでは、与えられた歩容に対する安定化のために要求される補償動作の計算、逆に、与えられた可能な補償動作に対する安定性のために実現すべき歩容の計算が可能である。
 
 「被曝線量計算の研究」では、2足歩行ロボットに要求される耐放射性評価の準備研究として、米国オークリッジ研究所において開発された人体モデルを基に、モンテカルロ・コードMCNPを用いて、ガンマ線の被曝線量計算を行い、国際放射線防護委員会(ICRP)の基準データと比較し良好な結果を得た。
 
 「高速モンテカルロ装置の開発」では、3次元空間における粒子追跡に多用される論理計算等を高速化するモンテカルロ・パイプラインを搭載した専用計算機Monte-4(図2)を開発し、完成した装置上で性能評価を行い、設計基準(臨界安全性粒子輸送モンテカルロ・コードKENO-IVの速度向上率が逐次計算時の10倍以上)を達成した。上記以外の関連コードMCNP、MORSE等に対しても、本装置の有用性を評価した。


図2 Monte-4のアーキテクチャ(原論文3より引用)

 

コメント    :
 人工知能技術を開発する場合、知能ロボットが既知環境で動作することを前提としたmodel basedなアプローチと知能ロボットが環境モデルを行動中に生成するbehavior basedなアプローチがある。本研究は前者に対応し、後者については、 R. A. Brooksらの包括原理が有名である。原子力施設のような大規模・複雑環境の場合、動作空間に関する幾何学的情報等の環境モデルの定義には限界があるため、近年、後者のアプローチが注目されているが、まだ、どちらも実用レベルの知能ロボット技術を開発するに至っていない。
 

原論文1 Data source 1:
原子力知能化システム技術の研究(人間動作シミュレーション・プログラム:HASP) -平成5年度作業報告-
秋元 正幸、樋口 健二、久米 悦雄、神林 奨、大谷 孝之、海老原 健一
日本原子力研究所
JAERI-Research 95-014、日本原子力研究所(1995).

原論文2 Data source 2:
Position localization for mobile robots using a colour image of equipment at nuclear plants
Kenichi Ebihara, Takayuki Otani and Etsuo Kume
日本原子力研究所
Robotica, Vol. 14, pp 677-685 (1996).

原論文3 Data source 3:
Development of Monte Carlo Machine for Particle Transport Problem
Kenji Higuchi, Kiyoshi Asai and Masayuki Akimoto
日本原子力研究所
Journal of Nuclear Science and Technology, 32, 10(1995).

キーワード:人工知能、自然言語処理、知識ベース、ロボティックス、グラフィックス、モンテカルロ法、スーパーコンピュータ、計算機シミュレーション
Artificial Intelligence, Natural Language Processing, Knowledge-base, Robotics, Graphics, Monte Carlo Method, Supercomputer, Computer Simulation
分類コード:120201, 120205, 120202

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