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作成: 1998/10/29 淺間 一

データ番号   :120011
3自由度独立駆動型全方向移動ロボットの開発
目的      :ホロノミックな全方向移動メカニズムの開発
研究実施機関名 :理化学研究所生化学システム研究室
応用分野    :ロボット工学、計算機科学、製造業、原子力、宇宙

概要      :
 ホロノミックな全方向移動ロボットのための3自由度独立駆動伝達機構を開発した。本機構は、フリーローラで構成される4車輪を3アクチュエータによって駆動し、各移動自由度方向独立に動作させることが可能であり、4輪による安定した並進走行と非冗長性による制御の容易性を両立させている。本機構の運動学的解析を示すとともに、全方向移動ロボットを実際に試作し、走行実験によりその機能を実証し、走行特性を明らかにした。
 

詳細説明    :
 群ロボット環境下での高い移動性、複数ロボットによる協調搬送などを実現するために不可欠な移動メカニズムとして、3個のアクチュエータによって4輪を駆動し、各移動自由度(並進2、旋回1)方向の運動を独立に制御できる駆動伝達機構を考案し、これを組み込んだホロノミックな全方向移動ロボットを開発した。
 
 まず、基本設計に関しては、4輪接地の安定性を重視し、移動ロボットは4輪で走行することとし、とくに車輪は、全方向性を考慮し、その回転軸は90[deg]ごとに、1点で交差するように点対称に配置することとした。ただし、各車輪は、車輪軸と垂直な方向だけに駆動力を発生できなければならないので、各車輪にはフリーローラを有する特殊な車輪を用いることとした。図1および図2に、4個の車輪で構成された全方向移動ロボットの構成と、ここで用いた車輪の機構を示す。対向している各2輪の車軸を、各速度成分だけ同速度で駆動すれば、任意の方向に並進させることが可能であり、また対向する2輪に速度差を与えれば、その差分だけ旋回させることが可能である。さらに、ある程度の床面の凹凸にも対応できるように、各車輪に平行リンクによって支持されるサスペンション機構を設けた。


図1 移動ロボットの車輪配置(原論文1より引用)



図2 車輪の構造(原論文1より引用)



図3 全方向移動ロボットの3自由度独立駆動伝達機構(原論文1より引用)

 次に、本研究で設計した3自由度独立駆動伝達機構を図3に示す。3個のアクチュエータによって4輪を駆動するだけでなく、各移動自由度方向への運動を独立に制御できる非冗長な機構となっている点が最大の特徴である。アクチュエータ1の駆動力は、ウォームギア1、平歯車2、4、ディファレンシャルギア2、4を介して車輪2、4に伝達され、車輪2、4が同方向に回転させ、Xr方向の並進走行が実現される。同様に、アクチュエータ2の駆動力は、ウォームギア2、平歯車1、3、ディファレンシャルギア1、3を介して車輪1、3に伝達され、車輪1、3が同方向に回転させ、Yr方向の並進走行が実現される。さらに、アクチュエータ3の駆動力は、中央の傘歯車から全ディファレンシャルギアに差分として伝達され、各対向する2輪を逆方向に回転させ、Zr回りの旋回走行が実現される。
 
 本ロボットの機構の運動学解析を行った結果、各アクチュエータの速度とロボットの各移動自由度方向の速度との関係を表わすヤコビ行列が対角行列となり、これによって、各自由度方向の走行に対し、各アクチュエータが独立に作用していることが証明された。 本機構は、非冗長でホロノミックな全方向移動を可能にするのみならず、並進運動が平行な2輪を単一のアクチュエータで同時に駆動することによって実現できるので、並進走行の安定性が高いという特徴を持つ。また、3個のアクチュエータを駆動することによって、各自由度方向の走行を独立に駆動できるので、制御が容易で、制御プログラム作成も容易となる。
 
 本研究で設計した車輪および伝達駆動機構を装備する全方向移動ロボットの試作を行なった。試作機の仕様は、車幅:410[mm]×410[mm]、車高:176[mm]、重量:11.6[kg]となっている。次に、各軸方向および45[deg]方向の並進走行、重心回りの旋回走行について、オープンループPTP位置制御実験を行ない、目標値における位置および姿勢の誤差を計測した。各走行実験の結果、3自由度独立駆動伝達機構が設計通り機能することが実証された。走行特性に関しては、各軸方向の並進走行の位置決め誤差は0.6%、45[deg]方向の並進走行の位置決め誤差は1.4%となり、各軸方向に比べ、斜め方向の走行誤差が大きいことが明らかになった。また、旋回走行の位置決め誤差は、1.4%となった。オープンループでの制御実験であったことを考慮すると、この誤差は十分許容できると考えられ、今後、機構的改良やフィードバック制御系の適用などによって、誤差の低減を図ることが可能であると考えられる。
 

コメント    :
 原子力プラント内や工場内などの屋内環境で移動する機構とて非常に有用であり、実用化も容易であると考えられる。
 

原論文1 Data source 1:
3自由度独立駆動型全方向移動ロボットの開発
淺間 一、佐藤 雅俊、嘉悦 早人、尾崎 功一、松元 明弘、遠藤 勲
理化学研究所、東洋大学工学部
日本ロボット学会誌 14 (1996) pp. 249-254.

原論文2 Data source 2:
Development of an Omni-Directional Mobile Robot with 3 DOF Decoupling Drive Mechanism
H. Asama, M. Sato, L. Bogoni, H. Kaetsu, A. Matsumoto and I. Endo
The Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN), Toyo Univ.
Proceedings of 1995 IEEE International Conference on Robotics and Automation (1995) pp. 1925-1930.

参考資料1 Reference 1:
3自由度独立駆動型全方向移動ロボットの設計開発
佐藤 雅俊、嘉悦 早人、尾崎 功一、淺間 一、松元 明弘、遠藤 勲
理化学研究所、東洋大学工学部
ロボティクス・メカトロニクス講演会'94講演論文集

参考資料2 Reference 2:
3自由度独立駆動型全方向移動ロボットの運動学
淺間 一、ルカ・ボゴーニ、佐藤 雅俊、嘉悦 早人、遠藤 勲
理化学研究所、東洋大学工学部
第12回日本ロボット学会学術講演会予稿集

参考資料3 Reference 3:
3 自由度独立駆動型方向移動ロボットの自立化
佐藤 雅俊、淺間 一、松元 明弘、嘉悦 早人、尾崎 功一、遠藤 勲
理化学研究所、東洋大学工学部
1995年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集

キーワード:全方向移動ロボット、3自由度独立駆動メカニズム、ホロノミック・ロボット、移動、運動学、平行リンク・サスペンション
Omni-directional mobile robot, 3 DoF decoupling drive mechanism, Holonomic robot, Locomotion, Kinematics, Parallel link suspension
分類コード:120201, 120203

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