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作成: 1999/02/16 喜多 伸之

データ番号   :120010
仮想ホロプタを用いた実時間両眼追跡
目的      :能動視覚システムにより移動物体を追跡視する手法の開発
研究実施機関名 :電子技術総合研究所知能システム部自律システム研究室
応用分野    :監視システム、屋内移動ロボット、巡回点検、ヒューマンインタフェース

概要      :
 能動視覚システムを有効に利用するには、その視線方向を適切に制御する必要がある。この視線制御の基本は、大きく視点固持(gaze holding)と視点移動(gaze change)に分けることができる。前者は、特定の観測対象に視点を保持するための視線制御で、後者は空間中の離れた点間で視点を切替える視線制御である。前者のためには、いかに画像から対象の位置を高速に正確に抽出するかが課題であり、ここではそのために両眼視差を利用した方法を示す。
 

詳細説明    :
 両眼システムにおいて対象像を常に画像中心で捕らえるよう、左右カメラの光軸を常に追跡対象の方向に制御するには、左右カメラ画像上での対象の位置を検出する必要がある。それにはまず、背景や他の物体から対象像を分離せねばならない。色、角点など画像から実時間で抽出できる画像特徴を使って対象候補を絞る手法があるが、環境が複雑になると似た画像特徴が頻出するのでこれだけでは対象の分離が困難である。これに対して、両眼視差を利用すればさらに対象候補を絞ることができる。
 
 図1(a)に視軸を同一平面に持つステレオシステム(輻輳システム)における、注視点と視差の関係を示す。ここで左右両カメラのレンズ中心と注視点の3点を通る円(図中実線で示す円)はホロプタと呼ばれ、この円上に存在する物体の両眼視差は零となる。一方、ホロプタ上以外の点はホロプタからの距離に応じた視差を持つ。よって零視差の特徴だけを抽出するフィルタ(以降ZDFと呼ぶ)は奥行き方向のウィンドウとして機能する。零視差である特徴の抽出は、例えば画像特徴として垂直エッジを対象とした場合は、左右各々での垂直エッジを検出し、それをボカした結果の論理積をとればよいように、非常に簡単に実現できる。論理積をとる前にエッジをボカしているので、対象物体がホロプタ付近にあれば、ZDFにより容易に実時間で対象物体の位置を検出できる。


図1 (a)ホロプタと、(b)ZDF出力画像(原論文1より引用)

 ただし、ZDFからはホロプタに垂直な方向への移動成分を知ることができない。ここでは、仮想ホロプタの概念を導入することにより、ZDFを奥行き方向の追跡にも同時に対処できるよう拡張した。
 
 仮想ホロプタとは、一方(ここでは右)の画像を水平方向にシフトしたときの左右の視差がゼロとなる点を空間上にプロットしたものであり、シフト量が小さく、注視点に近い範囲では、実際にカメラを回転して得られるホロプタを近似できる(図2)。画像のシフトは物理的なカメラの回転に比べて格段に高速に行なえるので、シフト量を変えて奥行きの異なる仮想ホロプタを生成しZDF出力を検証することにより、奥行き方向に高速に物体を探索できる。


図2 Virtual horopters (solid lines) and the corresponding real horopters (dotted lines).(原論文2より引用)

 図3に仮想ホロプタを用いて対象物体の奥行き方向への移動にも対処できる手法を示している。ボカしたエッジのZDF出力において、どの程度の幅が検出されているかにより奥行き方向のずれ量をおおまかに推定できるので、実際のホロプタから遠近両方にそれだけずれた仮想ホロプタにおいて、ZDFの出力画素数を最大にするホロプタ位置を対象の奥行き位置とするものである。これにより輻輳角の制御に必要な奥行き方向への変位もZDF により抽出でき、単一の画像処理モジュールによって物体の追跡が可能となった。


図3 ZDF outputs from three horopters.(原論文2より引用)

 仮想ホロプタが持つ、空間の奥行き方向への探索機能は、様々な応用に適用できる。提案した追跡手法は非常に簡便にも関わらず安定した動作を示し、実際に移動ロボットの視覚に応用し、有効性を確認している。また、ZDFをベースとして、他の特徴を並列に抽出することにより、さらに頑健に追跡を行うことができる。
 

コメント    :
 
 

原論文1 Data source 1:
能動的な視線制御を利用した物体の探索と追跡
喜多 伸之、Sebastien Rougeaux、國吉 康夫、坂根 茂幸、三上 芳夫
電子技術総合研究所知能システム部、茨城県つくば市梅園1-1-4、305-8568
情報処理学会研究会報告, 93-CV-82, pp. 25-32 (1994).

原論文2 Data source 2:
仮想ホロプタを用いた実時間両眼追跡
喜多 伸之、Sebastien Rougeaux、國吉 康夫、坂根 茂幸
電子技術総合研究所知能システム部、茨城県つくば市梅園1-1-4、305-8568
日本ロボット学会誌, vol. 13, no. 5, pp. 101-108 (1995).

参考資料1 Reference 1:
ステレオトラッキング視覚を搭載した小型移動ロボット
國吉 康夫
電子技術総合研究所知能システム部、茨城県つくば市梅園1-1-4、305-8568
日本ロボット学会誌, vol. 13, no. 3, pp. 343-346 (1995).

キーワード:ロボット視覚、能動視覚、視線制御、視覚追跡、両眼視差、画像処理
robot vision, active vision, camera pose control, visual tracking, stereo disparity, image processing
分類コード:120202, 120205

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