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作成: 1999/02/15 松岡 猛

データ番号   :120007
エキスパートシステムG2によるPWR自律型プラントシミュレータの開発
目的      :将来型プラントである自律型プラントにおけるマンマシンインターフェース技術研究のためのプラントシミュレータの開発
研究実施機関名 :運輸省船舶技術研究所システム技術部
応用分野    :原子力用人工知能、マンマシンインターフェース、自律型プラント

概要      :
 自律型プラントに対応したマン・マシン・インターフェースの研究を進めるにあたり、自律型プラントが必要となる。そこで、自律型プラントの概念に基づいて、エキスパートシステムG2によりオブジェクト指向のモデル方法を用いてPWR自律型プラントシミュレータの開発を行った。本シミュレータの利用目的から、シミュレーションにおける定量的精度はそれほど重要でなく、プラントの過渡応答が定性的に妥当な挙動を示す様に開発した。各種制御系の動作はルールの形式で記述してあり、更に、プラント状態保存機能、シナリオイベントの起動機能、及び自律機能を整備した。このエキスパートシステムでは各種の自律機能を容易にシミュレータ中に組み込み、その作動状態を表示できる。
 

詳細説明    :
 自律型プラントに対応したマン・マシン・インターフェースの研究を進めるにあたり、自律型プラントが必要となる。そこで、自律型プラントの概念に基づいて、リアルタイム・エキスパートシステム構築用ツールであるG2(米国Gensym社製)を用いて加圧水型原子力プラント(PWR)を基として図1の系統図に示す自律型プラントシミュレータの開発を行った。
 
 G2ではプラントの構成機器など現実世界のオブジェクトを個々に定義し、それらの接続関係を図を使って表現・編集できる。各オブジェクトはアイコンと属性を持っており、アイコン上でウインドウを開き、そのオブジェクトに関する知識をフレームで表現する事ができる。本シミュレータの利用目的から、シミュレーションにおける定量的精度はそれほど重要でなく、プラントの過渡応答が定性的に妥当な挙動を示すことを念頭に置いて開発した。
 
 PWRシミュレータのモデル化にあたっては最新4ループPWRを想定し、Aループに1ループ、Bループに残る3ループを受け持たせ、表示する計測値はA,B両ループ共1ループ分の値としている。モデル化した範囲は原子炉炉心部を中心に発電機までとし、例えば、原子炉圧力容器については主要パラメータとして次の様な項目を模擬した。発熱量(崩壊熱成分を含む)、反応度、伝熱量、制御棒位置、ほう素濃度、比熱、出入口温度、平均温度、出入口温度遅延係数、燃料平均温度、燃料被覆管温度、燃料比重、燃料比熱、圧力、流量、流動圧力損失係数、自然循環ヘッド。これらパラメータのシミュレーション時の値は、系統図中の対象機器のアイコン表示をクリックするとすオブジェクトの属性テーブルが現われ時々刻々表示される。


図1 自律型プラントシミュレータ系統図

 各種制御系の動作はルールの形式で記述してある。使用性を高めるため、入力インターフェース部を図1上部に示す様に作成した。各制御モードの自動/手動切り替え、機器の起動/停止がマウス・クリックにより操作できる。シミュレーション結果を提示するためのインターフェースとしては数値データの表示と図2に示すグラフ表示の2通りを用意した。数値データは機器の傍らに表示する方法と属性テーブル内に示す方法を用意した。"グラフ表示"メニューをクリックすることにより主要プラント情報の時間経過に伴う変化の様子がグラフで表示される。


図2 主要状態量のグラフ表示

 本シミュレータにはプラント状態保存機能、シナリオイベントの起動機能、自律機能の作成機能を整備した。図3は自律機能を作成し動作させている様子を示している。


図3 自律機能の作成、表示

 現在までシミュレータに与えられた自律機能には、一次冷却材ポンプ1台故障時の対応、蒸気発生器二次側主蒸気安全弁開固着時の対応、蒸気発生器二次側主給水制御弁閉固着時の対応、二次側給水ポンプ1台の故障時の対応がある。これらの自律機能は自律のための規範から見ると、基本機能維持(発電機出力を可能なレベルで維持する。)と自己組織化(適時系統を分離する。)に属すると考えられる。当該故障が修理完了した場合は、故障機器を再起動(復帰)し、原子炉は自律的に定格運転状態まで復帰させられる。自律機能が作動中に、更に他の機器故障が発生した場合は自律機能を解除し自動的に炉停止するものとしている。また、自律機能はオペレータが手動で解除できる様にもなっている。図3に示す自律機能の作成用画面はそのまま自律機能の作動状態を表示するインターフェースにもなっている。
 

コメント    :
 エキスパートシステムを用いて作成した自律型プラントシミュレータは定性的な挙動を正しく再現しているとともに特殊機能・自律機能も整備されており、原子力用人工知能研究において自律型プラントにおけるマンマシンインターフェース機能の検証、評価に有効に活用できた。本シミュレータの構成、細部の挙動は柔軟に変更可能な枠組みとなっており、今後共種々の有効な活用が期待できる。
 

原論文1 Data source 1:
マン・マシン・インターフェイス・システムの自律型プラントへの適応性評価の研究
松岡 猛、沼野 正義、染谷 実、福戸 淳司、三友 信夫、宮崎 恵子、菅澤 忍
船舶技術研究所システム技術部
船舶技術研究所報告 第33巻 第5号 pp. 245-281 (1996)

原論文2 Data source 2:
"G2"によるPWR簡易シミュレータの開発(2)
井田 俊雄、福戸 淳司、宮崎 恵子、菅澤 忍、松岡 猛、沼野 正義
船舶技術研究所システム技術部
日本原子力学会秋季講演会講演集 (1993年10月) F12

参考資料1 Reference 1:
Toward a New Man-Machine Interface for Autonomous Power Plant Systems - Observation System for Autonomous, Diverse and Cooperative Functions -
松岡 猛、沼野 正義、染谷 実、福戸 淳司、三友 信夫、宮崎 恵子
船舶技術研究所システム技術部
Proceedings of the International Symposium on Artificial Intelligence, Robotics and Intellectual Human Activity Support for Nuclear Applications (November 1997)

キーワード:自律型プラント、簡易シミュレータ、PWRシミュレータ、エキスパートシステムG2、マンマシンインターフェース、オブジェクト指向
Autonomous plant, simplified simulator, PWR simulator, Expert system G2, Man-machine interface, Object oriented
分類コード:120301, 120102

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