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作成: 1998/11/11 吉川 信治

データ番号   :120006
制御方式を自動的に切り替える制御装置
目的      :非線形な特性を有するプラントを広い条件範囲下で安定に制御する技術の開発
研究実施機関名 :動力炉・核燃料開発事業団(現:核燃料サイクル開発機構)大洗工学センター
応用分野    :原子力プラントの制御、ボイラ等の非線形な特性を有する機器の高安定制御

概要      :
 互いに方式の異なる複数の制御モジュールが出力する制御信号の中から最適なものを毎ステップ選択して制御対象に加える手法を検討した結果を報告する。計算機上に模擬した高速炉用蒸気発生器を対象に、各ステップ毎に、PID制御、モデル適応制御、線形化ロバスト制御の3モジュールの出力から、制御対象の挙動予測が最適なものを加えた結果、3種それぞれを単独に使用したどの結果よりも安定で精度の高い制御性能が確認された。
 

詳細説明    :
 原子力プラントの機器の制御に求められる精度、安定性をさらに向上させるために、急速に向上した計算機の性能を活用して様々な高度な制御手法が開発されてきた。しかし、プラントのライフサイクルを通して機器が遭遇する広い物理条件全体に対して単独の手法で安定性と精度を両立させることは現在でも困難である。また、単独の手法による制御では、参照する計測データが限られており、センサー故障に対して脆弱なシステムになるという問題点もある。
 
 本研究では、このような問題を解決するために、単一の機器に対して原理の異なる複数の制御モジュールを並行に動作させ、複数の操作量の中から最適なものを動的に選択して対象に印加する手法の有効性を評価した。
 
 この評価に当たっては、制御対象として高速炉の蒸気発生器を選択した。高速炉の蒸気発生器は、液体ナトリウムと水/蒸気の対向流型熱交換器で、低温側流体の相変化による非線形性を有し、また構造健全性やプラントの熱出力制御の点から出口蒸気温度を正確に目標値に保つ必要があることから、最も高性能な制御システムが求められる機器の一つである。本研究では、ナトリウム、伝熱管、水/蒸気それぞれの部分を、水/蒸気の状態によって、過熱領域、飽和領域及び未飽和領域に移動境界で3分割する動特性モデルを開発し、経済的な計算量で蒸発器特有の非線形性を計算機上で模擬している。
 
 制御システムは、PID制御モジュール、LQG制御モジュール、MRACnn制御モジュールの3種の制御モジュールと信号選択モジュールから構成される。各制御モジュールの詳細については、参考資料に譲る。
 
1、信号選択モジュール
 このモジュールには、MRACnn制御モジュールに含まれるニューラルネットワークと同様な、対象機器の挙動予測を行うニューラルネットワークが含まれる。ただし、制御モジュールのものとは独立に挙動予測対象時間を設定することができ、制御の適切さの尺度の変化に対応することができる。
 
2、シミュレーション試験
 この制御システムの有効性を評価するために行った試験のうち、1)ナトリウムの入口温度と流量のステップ状変化、2)蒸気出口温度目標値変化、及び3)ナトリウム流量60%ランプ状減少、の3ケースの試験結果を図1,2及び3に示す。
 
 試験1)により、システムで使用されている3個の制御モジュールそれぞれ単独でのいずれの制御よりも蒸気出口温度を目標値に近く保つことが示された。また、蒸気出口温度目標値を変化させた試験2)についても、3個の制御モジュール中最も性能の高いMRACnnよりも本システムが高い性能を示すことが示された。最後に、制御対象が正常状態から大きく離れる試験3)では、信号選択モジュールは、単純ではあるが最低限の性能が保証できるPIDモジュールを選ぶことが確認できた。


図1 多様化制御システムのステップ状外乱に対する動作(原論文1より引用)



図2 多様化制御システムの目標値変化に対する動作(原論文1より引用)



図3 多様化制御システムのプラント異常時に対する動作(原論文1より引用)

 
3、結論
 本研究によって、最新の研究成果を反映した高度な制御手法と、長年の使用経験が蓄積された従来型の制御手法が有効に組み合わされて小さな外乱に対する精度と大きな外乱に対する頑健性が同時に達成されることが示された。今後の課題としては、制御モジュールをより多様化することと、信号選択における評価尺度の整理が挙げられる。
 

コメント    :
 
 

原論文1 Data source 1:
Conceptual Design of Multiple Parallel Switching Controller
D. Ugolini, S. Yoshikawa and K. Ozawa
Power Reactor & Nuclear Fuel Development Corp.
10th Pacific Basin Nuclear Conference, Kobe, Japan (1996) pp. 201-208.

参考資料1 Reference 1:
A Regulator's Viewpoint on the Use of AI in the Nuclear Industry
N. Wainwright
Nuclear Engineering 34 (2) (1995) 93.

参考資料2 Reference 2:
Implementation of a Model Reference Adaptive Control System Using Neural Network to Control a Fast Breeder Reactor Evaporator
D. Ugolini, S. Yoshikawa and A. Endou
Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation
Proc. of 2nd Meeting on Application of AI and Robotics to Nuclear Power Plants, AIR'94, JAERI, Tokai-mura (1994) pp. 157-168.

参考資料3 Reference 3:
Design of Feedback Control Systems
R.T.Stefani, et al.
p. 677, Saunders College Publishing, Boston (1994).

参考資料4 Reference 4:
Comparison of Four Neural Net Learning Methods for Dynamic System Identification
S. Z. Qin, et al.
IEEE Transactions on Neural Networks, 3 (1) (1993) 122.

参考資料5 Reference 5:
Neural Networks for Control
W. T. Miller, et al.
p. 116, The MIT Press, Cambridge, Massachusetts (1990).

キーワード:方式の多様化、プラント制御、頑健性
methodology diversification, plant control, robustness
分類コード:120103

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