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作成: 1998/02/06 田辺 文也

データ番号   :120003
知的活動支援研究の概要
目的      :原子力施設の想定外事故対処で必要となる知的活動を支援する方法の開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所、動力炉核燃料開発事業団、船舶技術研究所
応用分野    :原子力発電所、化学プラント、等

概要      :
 原子力発電所の運転員に求められる役割は、マニュアルに即した定型的操作の実行者から、この定型的操作を越える高度な知的活動を必要とするものへと移行しつつある。本研究の目標は、設計で想定した状況を超える事象(想定外事象)が発生した場合に、運転員に要求される知的活動を支援するとともに、その知的活動を的確に遂行するうえで要求される知的対処能力の獲得・維持を支援する方法を確立することである。
 

詳細説明    :
 原子力発電プラントがもっている最高次の目標は、電力の安定供給と、公衆の安全確保、の二つである。これらを達成するために原子力発電プラントのマンマシンシステムがもつべき機能として、プラントのいかなる事態にも対処できる能力をもつことが要求される。これまでも、多層防護の思想に基づいて、原子力発電所の設計、建設、運転、保守を行うことで、高いレベルの安全確保がなされてきた。しかしながら、今後より一層の安全性向上を目指そうとした時には、機械系や運転手順の設計において想定されていない事象、即ち想定外事象、にも対処できるようにマンマシンシステムを構築しなければならない。
 
 その場合、重要なポイントは、(1)原子力発電所プラントの安全運転に最終的に責任をもっているのは人間である。(2)想定外の事態を完全になくすることは原理的に不可能で、それらに対処できるのは人間以外にない。(3)したがって、想定外の事態をも含む異常事態に対して人間が適切な対処を行えるようにすることが安全上肝要である。そのために必要とされることは、長期的には人間の知的対処能力の獲得/維持と志気の獲得/維持を支援しつつ、短期的には、当該時点で人間が困難に遭遇したときに、それに必要な支援を行うことである。


図1 知的活動支援研究の全体構造(参考資料1より引用)

 想定外の事象の発生に際し、運転員チームがこれに的確に対処できるようにするためには、二つの側面を考慮した支援方策を開発するとともに、これに係わる概念の構築を図る必要がある。まず、第一の側面は、運転員及びそのチームが、訓練、実際の運転経験等を通じて長期的な期間で学習/適応するという側面である。こうした学習/適応過程において、知的対処能力がいかに獲得され、また維持されるかについて、その特性を解明することが重要である。こうした特性の解明を通じて、運転員あるいは運転チームが知的対処能力を獲得/維持するために必要な支援の概念が構築されなければならない。
 
 次に、想定外の事象を含む異常事態の発生に際して運転員あるいは運転チームはこうした事態に、即時的、かつ的確な対処が求められるという側面である。こうした短期的対応に特徴的な過程において、運転員あるいは運転チームが、どのような心的方略を用いるか、またそうした方略を規定する要因は何かを明らかにすることが重要である。こうした異常状態対処時の心的方略及びその規定要因を明らかにすることを通じ、知的対処に必要な支援概念が構築されなければならない。これら二つの支援概念は、具体的には、訓練のあり方及びインタフェースのあり方に集約される。


図2 人間の知的活動を規定するもの(参考資料1より引用)

 研究内容と担当機関は次の通りである。日本原子力研究所は、運転・保守における知的活動支援の方法に関する研究というテーマで、異常対処時の心的方略と規定要因の解明、知的対処能力の獲得・維持過程の解明及び支援概念の構築を行う。研究方法としては原子炉シミュレータ実験と仮想的プロセスシステムを用いた実験を実施して、発話データ等の詳細分析を行う。動力炉核燃料開発事業団は、運転員の深い理解支援方策の研究というテーマで、メンタルモデル形成過程と深い理解に望ましいメンタルモデルの特性解明、及び深い理解支援方策の構築を図る。研究方法としては、原子炉シミュレータ実験の実施とデータ分析を通してモデル化を行う。船舶技術研究所は、グループとしての人間の総合的機能の利用技術の研究というテーマで、プラント情報や操作のフィードバック情報に対して、人間の知覚・感覚機能を総合的に利用することにより、グループ内共有化技術及びグループ意志決定支援技術の開発を行う。
 

コメント    :
 
 

原論文1 Data source 1:
原子力発電プラントにおける人間中心のマンマシンシステムの構築へ向けて
田辺 文也
日本原子力研究所
計測自動制御学会誌「計測と制御」Vol. 32, No. 3 (1993) p. 193

原論文2 Data source 2:
運転・保守における知的活動支援の方法に関する研究
田辺 文也
日本原子力研究所
原子力工業 42 (1996) pp. 9-11

参考資料1 Reference 1:
原子力施設における知的活動支援の方策に関する研究
原子力基盤技術総合的研究推進委員会
科学技術庁
原子力基盤クロスオーバー研究(パンフレット) (1995) p.12

キーワード:原子力施設、安全確保、想定外事故、知的対処支援、知的対処能力、獲得・維持
nuclear facility, safety, un-anticipated accident, intellectual human activity support, capability for intellectual activity, capability acquisition and sustaining
分類コード:120401

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