原子力基盤技術データベースのメインページへ

作成: 1997/10/21 吉川 信治

データ番号   :120001
人工知能技術を適用したプラント運転システムのプロトタイプ開発
目的      :人工知能を応用した診断、制御による原子力プラントの安全性・信頼性の向上
研究実施機関名 :動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センター
応用分野    :プラントの診断、制御

概要      :
 原子力プラントの安全性、信頼性を向上させるため、人工知能等の情報処理技術の応用による、運転員、保守員と同等な意思決定機能の実現と制御性能の向上を目指す研究を行っている。人工知能の適用により、緊急炉停止よりもゆるやかな熱過渡で危険を回避できることがシミュレーションにより確認されている。単一機器の診断、制御に複数の原理を適用して最適なものを動的に選ぶアルゴリズムにより、更なる信頼性の向上を目指している。
 

詳細説明    :
 このプロトタイプシステムは図1に示すような、階層型分散協調方式に基づく構成をとっている。最上位にプラント管理システムを配置し、プラント運転に関する外部からの要求に基づき運転状態を管理する。その下位に診断、制御それぞれにプラントレベル、ローカルレベルでのエージェントが配置される。


図1 人工知能技術を適用したプラント運転制御プロトタイプシステム(原論文1より引用)

 診断については、プラントレベルでは図2に示すような機能階層モデルに基づいて原因が探索される。プラントが出力運転を維持するためには、炉心出力制御、炉心除熱制御、ヒートシンク制御、熱輸送、タービン出力維持、のそれぞれが機能している必要があり、ヒートシンク制御が機能するためにはさらに蒸気温度制御等の下位の各機能が正常でなければならない。このように、プラント全体の機能を個々の機器単独の機能にまで分解して表現したものを機能階層モデルと言う。これを用いるとプラント全体に関して損なわれた機能からその原因となる最小単位での機能喪失が同定される。
 
 ローカルレベルでは図3に示すような定性因果ネットワークが用いられる。「発熱量が増加すれば出口温度が上昇する」というような、あるパラメータの変化とそれに起因する他のパラメータの関係を、どちらが原因でどちらがその結果かということと、影響の大小に関係無く変化の方向の正逆のみだけを表現したものを定性因果ネットワークと言う。これに基づいて、ある部分の温度が正常値からずれた原因として、弁の位置やポンプの回転数等の正常値からのずれがつきとめられる。


図2 プラント機能階層モデル(原論文1より引用)



図3 定性因果ネットワーク(原論文1より引用)

 図2の機能階層モデルは、診断に用いる場合と逆の見方をすれば、例えばタービン出力を上昇させるためにはどの機器をどう操作すれば良いかを説明するものとなる。このように図2の機能階層モデルに対応して運転戦略階層モデルを作ることができる。プラントレベルの制御については、このようなモデルに基づいて、プラント全体に関する目標状態からそれを実現するための各機器の操作手順を導びく。ローカルな制御においては、このプラントレベルの制御エージェントが生成した手順に従ってポンプや弁等の個別機器を実際に制御する。
 
 一方、このような診断、制御技術は統合されたシステムとしての適用性を確認しつつ研究を行う必要がある。この運転制御システムの対象となるものとして、実プラントの代わりに、広範な形式の高速炉プラントを模擬できるプラントシミュレータを開発して運用している。
 
 上に述べた運転制御システムとプラントシミュレータを接続して、給水ポンプ1台が停止した場合と2次主冷却系ポンプ1台が停止した場合に対して、人工知能による事象発生後の迅速な原因同定と柔軟な運転戦略により、故障発生後に残っている熱輸送能力に応じた安定な部分負荷運転にプラントをゆるやかに移行させる機能が達成されることを確認している。この2つの事象が現在の実プラントにもし起こった場合は、安全保護系によって制御棒が一斉挿入される。即ち、診断と制御に人工知能を応用することにより、異常発生時にプラントに与える温度変化を大幅に緩和できることが示されている。
 
 現在、様々な条件下でも更に信頼性の高い制御及び診断を可能にするために、「方式の多様化と合意形成」の適用研究に取り組んでいる。診断や制御のどのような手法も、それが高い性能を発揮できるのはある範囲の物理条件に限られる。そこで、単一の対象に原理の異なる複数の手法を並行して適用し、その中から、最適な解もしくは最適な解の組み合わせをその都度選んで最終的な解とする。この方式を「方式の多様化と合意形成」と称する。手法が多様化することにより、診断や制御において参照される情報の範囲が広がって信頼性が向上する効果も期待できる。
 
 詳細な内容は診断、制御それぞれに関する要素データに譲るが、制御においては精度の向上効果が確認され、診断においては正しい原因に関する確信度が相対的に高くなることが分かった。
 

コメント    :
 
 

原論文1 Data source 1:
知的運転制御システムの開発
小沢 健二
動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センター 311-13茨城県東茨城郡大洗町成田町4002
原子力工業 Vol. 42, No. 5 (1996) pp. 42-47.

原論文2 Data source 2:
Prototyping A Fully Autonomous Nuclear Power Plant Operation System
Kyoichi Okusa, Akira Saiki, Shinji Yoshikawa and Akira Endou
Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation
Proc. 9th Power Plant Dynamics, Control & Testing Symposium, May 24-26, 1995, Knoxville, Tennessee, USA

原論文3 Data source 3:
原子力プラント知的診断における多様性評価基準
鷲尾 隆、*佐久間 正剛、*古川 宏、*北村 正晴
三菱総合研究所、*東北大学工学部
日本原子力学会誌 Vol. 37, No. 12 (1995) pp. 1128-1136

原論文4 Data source 4:
Conceptual Design of Multiple Parallel Switching Controller
Daniele Ugolini, Shinji Yoshikawa and Kenji Ozawa
Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation
Proc. 10th Pacific Basin Nuclear Conference, October 20-25, 1996, Kobe, JAPAN, Vol. 1, pp. 201-208

原論文5 Data source 5:
Diagnostic Methodology Diversification by Annunciation Pattern Recognition
Kazunori Suda
Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation
Proc. International Symposium on Artificial Intelligence, Robotics and Intellectual Human Activity Support for Nuclear Applications, November 19-21, 1997, Wako, JAPAN

キーワード:原子力プラント、診断、制御、人工知能、nuclear plant, diagnosis, control, artificial intelligence
分類コード:120101

原子力基盤技術データベースのメインページへ