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作成: 1999/11/16 清宮 紘一

データ番号   :110091
ステンレス鋼細管内面の電解砥粒鏡面仕上げ
目的      :ステンレス鋼細管内面の高能率、高品位鏡面仕上げ方法の開発
研究実施機関名 :工業技術院機械技術研究所生産システム部
応用分野    :原子力工業用細管およびバルブ類、半導体工業用細管およびバルブ類、医療機器用細管、科学機器用細管、食品工業用細管、

概要      :
 SUS316L引抜きBA細管内面に電解砥粒研磨法を適用し、3S前後の下地面粗さを粗、中、鏡面仕あげの3段階の研磨工程により0.05Sの粗さレベル(電解研磨法の1/10)にまで低減した。次ぎに、引抜きBA管と切削加工管の加工特性比較実験を行い、BA(光輝焼鈍)処理で生じる硬化層の影響のため、切削管よりBA管の加工特性が悪くなることを見出した。
 

詳細説明    :
 電解砥粒研磨は、バフ研磨の代替を当初の目的として研究開発された鏡面仕上げ用の研磨方法である。通常20wt%硝酸ナトリウム水溶液(中性で作業者に無害)を電解液として使用し、ナイロン不織布やウレタンなどの粘弾性研磨材を用いた砥粒研磨と同時に100mA/cm2オーダーの電流密度での電解を行う。


図1 Principle of electroabrasive polishing.

 図1は電解砥粒研磨の原理を示す。電解に伴い加工面のミクロ凸部に形成された不働態酸化皮膜が砥粒の擦過により除去されると、その部分において金属の電解溶出現象が起きる。一方、砥粒の通過しないミクロ凹部では皮膜により電解溶出が防止される。このようにして、ミクロ凸部が砥粒研磨と電解溶出の複合効果により選択的に除去される効果、表面粗さが急速に改善される。
 
 本研究ではSUS316Lステンレス鋼小径管内面に電解砥粒研磨法を適用し、従来の電解研磨法の1/10の表面粗さレベルにまで超平滑化する鏡面研磨技術を開発した。回転工具を用いた小径管内面の研磨では、粒径の大きい砥粒が同一の場所を通過することによるリング状の条痕発生を避けるため、工具と工作物間に軸方向の相対運動を付加して砥粒の運動軌跡がら線状になるような装置構成をとる。


図2 Equipment used for electroabrasive polishing of the inner surface of a small pipe.(原論文1より引用)

 図2は本研究の実験に使用した研磨装置を示す。装置は小型卓上ボール盤を改造して加工槽を付加したものである。電極工具は主軸に取付けられ、23rpsの回転と同時に7Hz振幅8mmの軸方向往復運動(モーターの回転をリンク機構により変換)が付加される。この運動により大きな砥粒交差角が生じ、リング状の条痕発生が防止されるとともに工具作製の局所的バラツキに起因する加工ムラも低減される。
 
 工具は外径2mmのSUS管を芯電極とし、まず芯電極との密着性が良いウレタン材を巻いて滑り止めした上にナイロン不織布(砥粒を樹脂で分散接着してある市販品)をら線状に巻き、両端を接着剤で固定して構成する。最終鏡面仕上げ用の工具は、ナイロン不織布の代わりにウレタン材をさらに巻いて作製する。小径管内面の研磨では工具が工作物に挿入されてその外径が工作物内径にまで圧縮されることにより研磨圧が生じ、これが重要な影響因子となる。工具外径は工作物内径よりも約1mm大きく製作するのが目安になる。


図3 Change of surface roughness in rough and intermediate polishing stages with electrolysis.(原論文1より引用)

 図3は#500、#3000ナイロン不織布を用いた加工時間各2分間の粗および中仕上げ工程における表面粗さ改善特性を示す。電極工具は各実験ごとに新品を使用しているが、試験片は同一であり、#500による仕上げ面が次の#3000工程の下地面になる。#3000の中仕上げの後、ウレタン工具による最終鏡面仕上げ工程(4分間)により50nmRmaxの仕上げ面が得られる。電解液には硝酸ソーダ20wt%水溶液を使用し、鏡面仕上げ工程では平均粒径700nmのアルミナ砥粒1wt%を混入している。上記の実験ではSUS316L BA仕上げ引抜き管を対象としたが、ドリル加工穴では除去速度がこれより大きくなるので、粗さ改善特性も良くなる。BA管における電解砥粒研磨速度が切削管の場合より小さいのは、BA(Bright Annealing 光沢焼鈍)処理工程で表面に生じる硬化層に起因すると推測される。
 
 以上述べた方法により、100mm程度までの短い管を鏡面仕上げできる。つぎに、mオーダーの長尺管に適用する目的で、1m用の長尺管内面研磨装置を試作した。長尺管では、工具に回転と定速抜き送りを与える一方、工作物に軸方向の往復動を付加する。1m管を20分で加工する実験を行って問題点を把握し、これを4m管用装置を試作する際に検討事項とした。
 

コメント    :
 ステンレス鋼細管内面の研磨は、(放射性)微粒子、細菌やバクテリアなどの付着抑制、繰り返し応力に対する耐久性の向上、流動抵抗の低減、耐食性の向上などの目的で行われる。、本加工法は、従来の電解研磨法よりも汎用性があり幅広いニーズに対応でき、仕上げ面粗さも電解研磨法の1/10の0.05Sまで到達可能である。
 

原論文1 Data source 1:
小径ステンレス鋼管内面の電解砥粒鏡面仕上げ
清宮 紘一
機械技術研究所 複合加工研究室, 〒305-8564 つくば市並木1-2
真空 40巻 6号 (1997) pp. 523-528.

キーワード:ステンレス鋼細管、内面研磨、電解砥粒研磨、鏡面仕上げ、表面粗さ
stainless steel pipe of small diameter, polishing of inner surface, electroabrasive polishing, mirror finishing, surface roughness
分類コード:110104, 110201

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