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作成: 1999/10/27 小澤 則光

データ番号   :110090
管内検査装置用空圧式非接触保持機構
目的      :管内壁の表面状態を計測するシステムを非接触保持・案内する機構の開発
研究実施機関名 :通産省工業技術院機械技術研究所生産機械研究室
応用分野    :原子力プラント建設時の配管内面検査システムの非接触保持、非原子力プラントの配管内面検査システムの非接触保持

概要      :
 原子力プラントの低放射化のためには、大量に使用される管状部材内面の平滑化が非常に重要で、そのためには平滑加工面の健全性の確認が必須である。そこで、鏡面加工した小径管内面の計測と評価を行うため管内挿入型光学ヘッドを保持・案内する空圧式非接触保持機構を開発した。これはノズルから管壁に空気噴流を噴出させて自己を保持するもので、保持剛性、保持姿勢など保持性能の高いものを実験的に探索した。その結果、保持剛性:2N/μm、保持姿勢は管内での傾き角:1分以内という性能に達した。
 

詳細説明    :
 原子力プラントにおける部材の放射化の原因として、部材表面からの微細な金属粒子の脱落→放射化→部材表面への沈着現象があり、部材の表面が粗い場合には、この現象が著しく助長されることが明らかにされ、このことから、部材表面を平滑加工すると放射化の低減にきわめて効果的であることが実証実験によって確認されている。これまでに筆者らは小径管材の内面を電解砥粒研磨加工法によって鏡面研磨する技術を開発した。
 
 本研究では、鏡面加工された管材を実際のプラントに使用するに際して平滑加工された表面の健全性を確認するため、加工面を損傷せずに表面状態を計測・評価する光学式管内面検査システムを非接触保持・案内する機構の開発を行った。原子力プラントで通常に使用されるステンレス鋼管は、JIS規格で外径と厚さのみが緩やかに規定され、内径公差や円筒度などは規定されていない。従って、管内表面を光学的鏡面程度の高精度に仕上げたとしても、管内に挿入する機構と管壁とは十分な間隙を持たせる必要がある。このような機構を空気の力によって保持する場合、隙間内全域にわたり常に安定した高圧の空気膜を形成させることは困難である。このため本研究では保持機構自身が有する3カ所のノズルから高速空気噴流を噴出させ、噴流が管内壁に衝突して発生する力によって支える方式を採用した。開発した空圧式非接触保持機構(以下AHという)を図1に示す。計測するステンレス鋼管は垂直に固定し、光学ヘッドと保持機構は鋼管の上部から挿入して計測を行う。


図1 Non-contact air holder.(原論文1より引用)

 管内で光学ヘッドを保持する場合に必要な性能として、外力に対して保持剛性が大きいこと及び姿勢変化が少ないことが最も重要である。管内におけるAHの保持剛性はノズルから噴出する空気の噴流力に左右される。そして、この噴流力は噴出速度の2乗に比例し、噴出速度は供給空気圧に依存する。結局、保持剛性を高めるには供給空気圧を高くすることが実際的に極めて有効である。そこで、汎用の圧縮空気源に増圧装置を付加して最大1.4MPaまでの空気が供給できるようにして実験を行った。その結果、供給空気圧を高くするとノズルと管内壁間の空気膜の剛性は確実に増大すること、また空気膜の厚さが小さい(すなわち間隙が狭い)ほど給気圧力の効果が顕著になった。
 
 次いで、長手方向の中央部で周方向の3カ所(120度毎)に設けたノズルの内径や個数が異なる多数のAHを製作し、ノズルの異なる2個のAHを様々に組み合わせて、ノズルの大きさ(内径)や配置数と保持剛性・保持姿勢との関連を調べた。そして保持剛性が最大で、同時に管内での傾き角が最小(保持姿勢最良)となるAHの組み合わせを実験的に探索した。図2は組み合わせを変えた場合の空気膜の剛性を示す。AH32(内径1mmのノズルが周方向120度毎に3個合計9個ついたAH及び2個づつ合計6個のノズルがついたAHを組み合わせたもの)の場合に、空気膜の剛性は最大となり、その値は2N/μm(空気膜厚さ100μm)になった。


図2 Combination of AH vs. air film stiffness. G:試験用の管とAHとの隙間、dn:ノズルの内径、L:試験用の管の長さ、Ps:供給空気の圧力(原論文1より引用)



図3 Combination of AH vs. floating stability.(原論文1より引用)

 また、保持姿勢(管内での傾き角)に関する実験結果を図3に示す。組み合わせた2個のAHに負荷をかけた場合の管内での傾き角を計測した結果である。この場合にも、AH32の組み合わせが傾き角最小となっただけでなく、負荷の変動に対する影響も少ないことから保持精度が最も良いことが明らかになった。
 
 本研究によって、管壁との隙間が大きくしかも長手方向で隙間が変動するステンレス鋼管を対象に検査装置を空気圧で支える場合には、供給空気を高圧にすると共に空気ノズルの配置数が異なる2つのAHを適切に組み合わせることによって、保持機構の剛性が高く姿勢も安定したものとすることができることが確認された。
 

コメント    :
 近年、原子力プラントの構造部材表面を平滑加工(Surface pretreatment)した場合の放射化の低減効果(Radiation reduction)に関する実プラントでの実証的な研究結果が非常に多く発表されるようになった(例えば、Proc. of 1998 JAIF Int. Conf.)。しかし平滑加工面の評価法、特に小径管内面の平滑加工と管内挿入型計測システムによる評価法で実用に近づいた研究は、ほんのわずかしか無いと言って良い。小径管で複雑に曲がったものの内面の直接的な検査になるとマイクロロボット的なアプロ-チは幾つかあるが、実用には程遠い状況である。この中で直管については、本文で示した空気圧を使う方法は機構が極めてシンプルなため安価に製作でき、空気膜を形成することで平滑面を損傷しないだけでなく、測定面を清浄にする効果も持っている。一番の弱点である保持力は給気圧力を上げれば確実に大きく出来る。したがって、被測定管内径に見合った保持機構を揃えておけば、様々な寸法の管内検査装置の非接触保持機構として実際に用いることが可能である。
 

原論文1 Data source 1:
管内検査装置用空圧式非接触保持機構
小澤 則光、水原 清司、明渡 純、清宮 紘一
通産省工業技術院機械技術研究所
日本原子力学会誌、Vol. 40, No. 9, pp. 709-712 (1998)

原論文2 Data source 2:
Non-contact Air Holding Mechanism for Inspection of Pipe Inner Walls
Norimitsu OZAWA, Kiyoshi MIZUHARA, Jun AKEDO, Koichi SEIMIYA
Mechanical Engineering Laboratory, AIST, MITI
Journal of Nuclear Science and Technology, Vol. 35, No. 12, pp. 952-957 (1998)

参考資料1 Reference 1:
Ahmed, S. M., et al.
JSME Int. J., Ser. B, 36 (4), p. 517 (1993)

参考資料2 Reference 2:
Price, S. G., et al.
Proc. JAIF Int. Water Chemistry '91 (1991)

参考資料3 Reference 3:
Umeda, K., et al.
Proc. of 1998 JAIF Int. Conf., p. 243 (1998)

参考資料4 Reference 4:
清宮 他
電気加工技術, 4(44), p. 6 (1990)

キーワード:管内壁検査、非接触保持、空気圧式保持機構、保持剛性、保持姿勢
inspection of pipe inner wall, non-contact holding, pneumatic holding mechanism, holding stiffness, holding stability
分類コード:110101, 110201, 110402

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