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作成: 1999/12/20 馬場 哲也

データ番号   :110089
炭素系材料の熱物性評価技術
目的      :炭素系材料の熱物性値の高温までの高精度測定、および材料のキャラクターとの相関の解明
研究実施機関名 :通商産業省工業技術院計量研究所計測システム部計測情報研究室
応用分野    :核融合炉、軽水炉、高温ガス炉、高温材料、照射効果

概要      :
 熱処理温度の異なる7種の高密度メソフェース黒鉛材について、熱拡散率を室温から1000℃まで測定した。測定された熱拡散率の温度依存性を再現する実験式を導入し、熱拡散率データの整理、解析を行なった。それらの試料に対して、X線回折法、ラマンスペクトル測定、偏光顕微鏡による集合組織観察等を行ない、熱物性との相関関係を調べた。その結果、特にX線回折のピーク幅により決定される結晶子サイズが、熱拡散率と顕著な相関を示すことが明らかになった。
 

詳細説明    :
 現在、開発が進められている核融合炉において、その炉壁等は大きな熱負荷を受けるため、使用する炉壁材料に優れた熱特性が要求される。また、熱設計を行なうためには、比熱容量や熱伝導率、放射率といった熱物性値が、広い温度範囲に渡って必要である。しかし、熱物性の高精度測定の困難やその理論の複雑さにより、実用材料の熱物性についての理解は不十分である。
 
 本研究では、熱物性のうちの特に輸送的性質である熱拡散率を中心にして、実用材料の熱物性評価を行った。熱拡散率は、粒径や欠陥、不純物など材料の構造に大きく左右されるため、構造と熱拡散率の関係を解明することにより、熱拡散率の予測や材料設計等が可能となる。
 
 各種炭素系材料は、すでに原子力用材料として多く用いられており、また、その複合材料は、核融合炉の炉壁材料としても期待されている。本研究では、炭素系材料の中の一つの材料系について系統的な熱拡散率評価を行った。対象とした試料は、メソフェースピッチを原料とした高密度人造黒鉛である。この黒鉛材料は、数多くの複雑な炭素系材料の中で、マクロにもミクロにも均質性が高く、等方的であるために、モデル材料として適しており、さらに複雑な炭素系材料を解明するための出発点となるものである。この材料について、異なる温度で熱処理した、様々な黒鉛化度を持つ試料について測定を行った。


図1 黒鉛材料の熱拡散率の熱処理温度依存性 (原論文1より引用。 Reprinted with permission from Technomic Publishing Co., Inc., copyright 1998.)

 図1に、室温から1300Kの温度範囲で測定した熱拡散率の結果を示した。熱処理温度の上昇に伴い黒鉛化度が高くなり、熱拡散率もそれぞれの温度で大きくなっている。また、測定温度に対して、それぞれの熱拡散率は単調減少となっているが、その測定温度依存性は同一ではない。したがって、これらの熱拡散率の大小を定量的に議論するには、熱輸送メカニズムを考察した比較検討が必要となる。本研究では、熱輸送を単純化したモデルを考え、4つのパラメータで実験値を再現した。図中に再現式による曲線を示した。極めて良く一致している。得られた熱拡散率を表現するパラメータは、熱物性の定量的な解析を行なう上で重要であるが、さらに少ないパラメータで温度依存性のある熱拡散率を的確に表現できたことは、熱物性値のデータベース化を行なう上でも有用である。
 
 熱物性の評価を行なう上で、材料のキャラクタリゼーションは、以下の2つのような理由で重要である。(1)熱物性値を計測する材料を規定する。すなわち、測定試料に対して十分に材料情報を付随させることにより、熱物性値データを普遍性の高いものとすることができる。(2)キャラクタリゼーションを行なうことにより、材料の熱物性のキャラクター依存性が明確になり、複雑な熱物性の解明を行なうことが可能となる。
 
 実際のキャラクタリゼーションを行なう前に、適切な評価方法の選択が重要であり、熱拡散率に影響を及ぼすと考えられるキャラクターの評価手法として、X線回折、ラマン散乱スペクトル、偏光顕微鏡観察、電気抵抗測定を選んだ。この中で、以下に示すようにX線回折が最も有効であることが分かった。
 
 先に熱拡散率の結果を示した黒鉛系材料についてのX線回折のピークの一部を、図2に示した。このピークの幅は、材料中の結晶子の大きさに反比例することが、理論的に知られている。


図2 X線回折によるキャラクタリゼーション (原論文1より引用。 Reprinted with permission from Technomic Publishing Co., Inc., copyright 1998.)

 また、熱拡散率より求めたパラメータの中の一つが結晶子に強く関係していることが予想されたので、その関係を調べたところ、明確な相関関係が得られた(図3)。このように材料のキャラクタリゼーションと熱物性評価を組み合わせて解析することを進めることにより、キャラクターによる熱物性の推算が可能となることが期待される。


図3 構造パラメータと熱拡散率パラメータの相関 (原論文1より引用。 Reprinted with permission from Technomic Publishing Co., Inc., copyright 1998.)

 

コメント    :
 本研究では、原子力用材料として重要な炭素系材料の熱物性評価を目的として、キャラクタリゼーションを含めた熱物性の総合的な計測評価を行った。本研究により、熱物性の系統的な評価方法の一例を示すことができ、複雑な熱物性の解析を一歩進めることができた。今後、熱特性向上のための材料開発や熱物性予測等への進展が期待できる。
 

原論文1 Data source 1:
Relationship between thermal diffusivity and microscopic structure in graphitic carbon I: mesophase carbon
I. Kishimoto, T. Baba and A. Ono
National Research Laboratory of Metrology, 1-1-4, Umezono, Tsukuba, Ibaraki 305-8563, Japan
Thermal Conductivity 24/Thermal Expansion 12, eds. P. S. Gaal and D. E. Apostolescu (Technomic Publishing, 1998) pp. 269-276.

原論文2 Data source 2:
レーザフラッシュ法高温熱拡散率測定装置の開発 (Development of a high temperature laser flash diffusivity apparatus)
李 昶遠 (Chang-Won Lee)、馬場 哲也
計量研究所 (National Research Laboratory of Metrology), 1-1-4, Umezono, Tsukuba, Ibaraki 305-8563, Japan
Netsu Bussei (Japan Journal of Thermophysical Properties), 12〔4〕, (1998) pp. 180-185.

キーワード:熱拡散率、黒鉛、キャラクタリゼーション、熱処理温度、相関、黒鉛化、結晶子サイズ、X線回折
thermal diffusivity, graphite, characterization, heat treatment temperature, correlation, graphitization, crystalline size, X-ray diffraction
分類コード:110303, 110503

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