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作成: 1999/11/24 三浦 俊正

データ番号   :110080
高分子系高性能遮蔽材の性能評価
目的      :中性子及びガンマ線の双方に対する遮蔽効果が高く、かつ低放射化遮蔽材料の使用条件を明らかとする。
研究実施機関名 :運輸省船舶技術研究所東海支所遮蔽効果研究室
応用分野    :原子炉遮蔽、再処理施設遮蔽、放射性同位元素使用施設の遮蔽、補償遮蔽設計

概要      :
 高分子系高性能遮蔽材の温度特性、遮蔽性能、放射化を評価した。温度特性については100℃以下では相対的な重量変化及び発生ガスが認められず、少なくとも100℃以下では使用できることが明らかとなった。遮蔽性能は中性子のみを考えてもポリエチレン並の性能があり、ガンマ線を含めても極めて良い性能であった。放射化はコンクリートに比べると極めて少ないことが明らかとなった。
 

詳細説明    :
 当所においては紫外線硬化法により高分子系の高性能遮蔽材を開発してきたが、実際の適用にに際しては幾つかの点について評価を行っておく必要がある。それらは、温度特性、耐放射線性、遮蔽性能、放射化等である。ここでは耐放射線性を除く諸特性について調べた結果を示す。
 
 温度特性については、熱重量法により遮蔽材の温度を室温から600℃まで変化させ、その相対的な重量変化を測定した。ステアリルアクリレート、鉛粉末、硼酸の組合せで作成したこれまで最も性状の良いと考えられる試料では相対重量は約100℃まで変化しない。100℃以上になると相対重量は緩やかに減少し、約350℃までで2〜3%減少する。それ以上の温度では相対重量は急速に減少する。350℃付近で高分子が崩壊すると考えられる。
 
 次に温度変化に伴って試料から発生するガスの分析をガスクロマトグラフィーと質量分析により行った。結果の一例を図1に示す。熱重量法の結果と同様に100℃以下ではガスの発生は認められない。しかし、100℃以上になると水、モノマーの断片、光開始剤がガスとして離脱するのが認められる。水は100℃以上で発生しているので自由水ではなく結合水または温度上昇時に化学反応により生じたものと考えられる。比色分析法で水素発生量を測定したが100℃以下では測定できない程の量であった。


図1 温度変化に伴い発生するガスの分析結果. (原論文2より引用。 Copyright 1999 by the American Nuclear Society, La Grange Park, Illinois.)

 遮蔽性能等の評価のために、密度測定、組成の化学分析を実施した。密度測定は浮沈法と空気置換体積測定法で行った。測定の結果は試料の原材料構成により異なるが、最大密度で2.75、平均的には2.2〜2.3であった。これまで得られた最良のものは長鎖脂肪族アクリレートを使用した場合で密度2.31、水素密度が水の75%、ステアリルアクリレートを使用した場合で密度2.62、水素密度が水の80%である。後者の場合ファジー理論による最適水素密度の92%である。
 
 前者について遮蔽性能を1次元輸送計算コードANISNで計算した結果を図2に示す。線源は核分裂中性子及びガンマ線である。同図にはコンクリートとポリエチレンについての計算結果も示す。同図でHS、CONC、PEはそれぞれ高性能遮蔽材、コンクリート、ポリエチレンを示す。また、n+gammaは中性子と1次、2次ガンマ線線量を加えた結果を示す。ポリエチレンは最も良い中性子遮蔽材と考えられているが、ガンマ線線量を加えるとその遮蔽性能は大きく変化する。一方、高性能遮蔽材とコンクリートの場合はガンマ線線量を加えても変化は少ない。ステアリルアクリレートを用いた遮蔽材はさらに良い遮蔽性能を示すことが予想される。この場合、水素の含有量のみを考慮してもポリエチレンの中性子に対する遮蔽効果より良くなると予想される。


図2 高性能遮蔽材(HS)、コンクリート(CONC)、ポリエチレン(PE)の遮蔽性能計算結果. (原論文2より引用。 Copyright 1999 by the American Nuclear Society, La Grange Park, Illinois.)

 次に放射化の評価であるが、ここで重要なのは原子炉停止後等の作業の際の被曝の線源としての強度であり、また、遮蔽材の処理処分の際の全放射能である。放射化の解析はTHIDA-11コードシステムに組み込まれているACT-4コードで行った。対象は長鎖脂肪族アクリレートを使用した遮蔽材である。結果を図3に示す。放射能として寄与する主なものは209Pb、203Pb、203Hg、10Be、14Cであるが、ガンマ線を放出し被曝に係わるものは203Pbと203Hgである。これらは0.28MeVと低いエネルギーのガンマ線を放出する。これに対して例えばコンクリートでは照射後1日位までは2.75と1.37MeVのガンマ線を放出する24Naが放射能量でも105倍以上強く存在する。1年後の放射能では107倍以上強い。このように、高性能遮蔽材が低放射化特性を持つことがわかる。今後は耐放射線性を調べる必要がある。


図3 高性能遮蔽材の放射化特性計算結果.(原論文1より引用)

 

コメント    :
 現在、各種の放射線施設においてポリエチレンで遮蔽を行っている部分は本高性能遮蔽材で置き換えることができる。
 

原論文1 Data source 1:
高分子系高性能遮蔽材の開発と応用に関する研究
三浦 俊正、平尾 好弘、金井 康二、石田 紀久、小田野 直光、頼経 勉
船舶技術研究所東海支所 茨城県那珂郡東海村白方2-4日本原子力研究所内
船舶技術研究所報告 第36巻 第3号 (1999).

原論文2 Data source 2:
Study on the Development of High-Performance Shielding Material
T. Miura, Y. Hirao, Y. Kanai
Ship Research Institute, Tokai Branch, Ibaraki-ken 319-1106
Trans. Am. Nucl. Soc., 81, 263 (1999).

キーワード:温度特性、遮蔽性能、放射化、熱重量法、ガスクロマトグラフィー、質量分析
temperature property, shielding performance, activation, thermogravimetry, gas chromatography, mass spectrometry
分類コード:110301, 110503

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