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作成: 1999/11/24 三浦 俊正

データ番号   :110079
高分子系高性能遮蔽材の作成方法
目的      :中性子及びガンマ線の双方に対する遮蔽効果が高く、かつ低放射化遮蔽材料作成方法の最適化
研究実施機関名 :運輸省船舶技術研究所 東海支所 遮蔽効果研究室
応用分野    :原子炉遮蔽、再処理施設遮蔽、放射性同位元素使用施設の遮蔽、補償遮蔽設計

概要      :
 原材料として高含水素紫外線硬化モノマー、鉛化合物、硼酸を用いて紫外線硬化法により高分子系高性能遮蔽材を作成した。原材料の最適配合比率は経験的方法とファジー理論による方法を合わせて決定した。使用するモノマーにより硬度のかなり異なる遮蔽材が得られた。積層化により厚さ1 cmまでの材料が作成できたが、鉛の分散の一様性については改善の必要が認められた。
 

詳細説明    :
 原子炉、再処理施設等においては中性子およびガンマ線の双方に対する遮蔽性能が高い遮蔽材が必要とされる。ガンマ線に対しては密度の大きな物質ほど遮蔽性能がよいことは良く知られている。しかし、中性子の場合は多少複雑である。一般的に中性子減速効果が大きなものとして水素が挙げられるが、その散乱断面積は10 keVを越える辺りから減少し始め、数MeV以上では重い核の非弾性散乱の方が効果的な減速効果を示す。中性子遮蔽においては2次ガンマ線の発生を抑えることも重要である。これには、低速中性子の吸収材が効果的である。以上より、遮蔽材の原材料としては高含水素物質、鉄や鉛等の重金属化合物、硼素やカドミウム等の中性子吸収材を選択した。
 
 本研究では材料作成法として紫外線硬化法を用いたので、高含水素物質としては紫外線硬化モノマーの中から特に水素含有量の高いものを選択した。表1に実験で検討した高含水素単官能基モノマーを示す。重金属化合物としては鉛化合物を選んだ。これは材料の低放射化の観点から選んだ。鉛化合物としては鉛粉末、硝酸鉛、硼酸鉛を検討したが、硼酸鉛を使用した結果は良くなかった。中性子吸収材としては最終的に硼酸を選択した。これはカドミウムや他の硼素化合物では遮蔽材の作成上問題が生じたからである。

表1 実験で使用した高含水素単官能基紫外線硬化モノマー(原論文1より引用)
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                化 学 名       分 子 式  分子量   比重    水素密度
                                                 (g/cm3)  ( /cm3 )
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モノマーE   長鎖脂肪族アクリ   C15H28O2    239     0.87    6.13×1022
            レート
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モノマーF   イソデシルメタア   C14H26O2    226     0.87    6.02×1022
            クリレート
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モノマーG   ラウリルアクリレ   C15H28O2    240     0.87    6.10×1022
            −ト
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モノマーH  ステアリルアクリ   C21H40O2    324     0.86    6.36×1022
            レート
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モノマーI   ステアリルメタア   C22H42O2    338     0.86    6.43×1022
            クリレート
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 これらの原材料の配合割合は(1)経験的方法、(2)ファジー理論による最適遮蔽原材料決定法により定めた。経験的方法では次の2つの条件から定めた。すなわち、中性子およびガンマ線の遮蔽材中の減衰率をほぼ等しくするため密度を2.2とする、および硼素の遮蔽効果と紫外線硬化における混合物の性状から硼素の混合割合を5%とする条件である。これらより水素、鉛、硼素元素の比率は16:1:2となった。ファジー理論に基づく計算コードを作成したが、現状ではライブラリーデータの不足から全ての条件を正確に考慮できないので、計算結果は得られた材料の元素組成の評価並びにそれによる材料作成の指針に使用した。


図1 紫外線硬化法による遮蔽材の作成過程(原論文1より引用)

 紫外線硬化法による遮蔽材作成過程を図1に示す。鉛及び硼素化合物、光開始剤、モノマーを混合し、ビニールシート上に約1mmの厚さでコーティングして紫外線を照射する。照射した紫外線の波長は257〜370 nmで、その強度は照射位置で70 mW/cm2以上である。この結果、光開始剤は紫外線を吸収して励起し、ラジカルを作る。これが種となって連鎖反応によりポリマー化が起こる。鉛等の遮蔽材はポリマーの間隙に固定される。紫外線は透過距離が短いため1回の照射で作成できる遮蔽材は1〜2mm程度のものである。さらに、厚い遮蔽材は薄い層を積層化することにより作成できる。このようにして現在まで厚さ1 cm程度の遮蔽材が得られている。さらに、厚いものも作成可能と考えられる。
 
 表1の長鎖脂肪族アクリレートやラウリルアクリレートを用いると比較的柔らかい遮蔽材が、またステアリルアクリレートを用いると比較的硬い遮蔽材が得られた。表1のその他のモノマーでは良い結果は得られていない。多官能基モノマーを使用した実験も行ったが、極めて硬いが脆い遮蔽材が得られている。積層化した遮蔽材の断面を電子顕微鏡で観察すると、鉛は一様に分散せず、各層の下側に多く分布している。これは原材料を混ぜた際にモノマーの粘度が小さいため鉛が沈殿する傾向にあるためである。この点は遮蔽性能上はあまり問題とならないが、物性的に望ましい結果を与えないので、作成法の改善を検討中である。均質なものを作るには紫外線あるいは電子線の事前照射によりモノマーの粘度を上げる方法が考えられる。
 

コメント    :
 現在得られている遮蔽材は10 cm角、厚さ1 cm程度のものである。実際的な寸法のものを作成するには大型の紫外線照射装置を用いる必要がある。
 

原論文1 Data source 1:
高分子系高性能遮蔽材の開発と応用に関する研究
三浦 俊正、平尾 好弘、金井 康二、石田 紀久、小田野 直光、頼経 勉
船舶技術研究所東海支所 茨城県那珂郡東海村白方2-4 日本原子力研究所内
船舶技術研究所報告 第36巻 第3号 (1999)

原論文2 Data source 2:
Study on the Development of High-Performance Shielding Material
T. Miura, Y. Hirao, Y. Kanai
Ship Research Institute, Tokai Branch
Trans. Am. Nucl. Soc., 81, 263 (1999).

参考資料1 Reference 1:
Optimal Selection for Shielding Materials by Using Fuzzy Linear Programming Method
Y. Kanai, T. Miura, N. Odano, S. Sugasawa
Ship Research Institute, 6-38-1 Shinkawa, Mitaka-shi, Tokyo 181-0004, Japan
2nd Int. FLINS Workshop on Intelligent System and Soft Computing for Nucl. Sci. and Industry (1996).

キーワード:原材料選択方法、ファジー理論、紫外線硬化法、紫外線硬化モノマー、鉛化合物、硼素化合物
selection method of raw materials, Fuzzy theory, UV curing method, UV curing monomer, lead compound, boron compound
分類コード:110301, 110503

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