原子力基盤技術データベースのメインページへ

作成: 1999/10/28 宋 明暉

データ番号   :110074
室温で15 keV Heイオン照射したγ-TiAlの高分解能電子顕微鏡観察
目的      :イオン照射下でTiAl合金の照射損傷と構造変化の評価とそのメカニズムの解明
研究実施機関名 :科学技術庁金属材料技術研究所精密励起場ステーション
応用分野    :融合炉材料、原子炉材料、宇宙機器材料、放射線環境用材料の開発、金属の照射効果メカニズムの解明

概要      :
 室温でγ-TiAl合金試料を15 keV Heイオンで高圧透過電子顕微鏡(TEM)内にて照射し、試料中の欠陥生成と構造変化をTEMで調べた。照射量は2.4x10-1 dpa以上の試料には、数nmサイズの転向ドメイン(RD)、板状欠陥及びHeバブルなどが観察された。RDは母相γ-TiAlと等しい構造で母相に対し90度回転した部分である。RDや板状欠陥などがγ-TiAl結晶中の照射損傷の回復に伴う点欠陥の移動によって起こると考えられた。
 

詳細説明    :
 (n,α)反応で生成したHeの照射による原子炉第一壁材料の脆化は核融合炉材料の開発上重大な問題である。ステンレススチールは従来から構造材料として利用されているが、数appmのHeを含むと、機械性質が著く低下することが明らかになっている。一方、TiAl合金は、高温でも優れた機械性質を示し、航空、宇宙船用材料に応用され、融合炉構造材料への利用にも研究がなされている。
 
 本研究はγ-TiAl合金を15 keV Heイオンで照射し、合金中照射によって生成した照射欠陥及び構造変化を高分解能電顕観察などの方法で評価、解析を行った。
 
 実験に用いた材料は49at.%Ti Alの組成で、γ単相合金であり、255 Kでtwin jet electropolishなどの方法で透過電顕用試料を作製した。イオン照射と電顕観察は金属材料技術研究所に設置してある200 keVと30 keVイオン源を連結したその場照射損傷原子レベル構造解析評価装置の超高圧透過電子顕微鏡JEOL-ARM1000で行った。イオンflux及び最大flunceはそれぞれ7.9x1016 ions m-2 s-1(4.0x10-4 dpa s-1)と8.6x1020 ions m-2 (4.4 dpa)であった。


図1  Irradiation defect clusters inγ-TiAl crystal irradiated with 15 keV He ions to a dose of 8.6x1020 ions m-2 (4.4 dpa) at room temperature. (a) A diffraction contrast (DIFC) micrograph, showing domain-like defects by arrows. (b) An HRTEM micrograph of domain-like defects. (c) An SAD pattern. (原論文1より引用。 Reprinted with permission from Elsevier Science, copyright1999.)

 図1は照射した試料のDIFC像である。典型的な照射欠陥は幅数nmの板状のように見える。板状欠陥は{111)に平行して成長し、SADパターンにある<111]方向のストリークに対応していると考えられる。図1bの高分解能(HRTEM)像には矢印で示したバンド構造が図1aの中の板状欠陥の拡大したものである。矢印で示した境界の両側の格子構造は異なるように見え、結晶構造的に不連続であることを示唆している。
 
 図1cのSADパターンの中に、000と200スポットの間及びその等しい位置に弱い回折スポットが見られる。γ-TiAlは有序結晶構造であり、完整結晶の[011]方向で観察する場合に、これらのスポットが見えない。[110]方向であれば、超格子反射による[001]スポットが見える。図1cの[100]などの余分スポットが実は[110]方向での[001]反射である。これらの結果によると、基板結晶の一部は方向を回転し、[011]方向から[110]方向に変更したと推定できる。このような転向部分は文献にも報告されたことがあり、転向ドメイン(rotated domain (RD))と呼ばれ、基板に対し90度の方向関係を持っている。


図2 Defect structure inγ-TiAl crystal irradiated with 15 keV He ions to a dose of 8.6x1020 ions m-2 (4.4 dpa) at room temperature. (a) An HRTEM image of the RD indicated by ABCD observed in [110]; super-lattice fringes are seen outside of the RD. (b) An SAD pattern. (c and d) Calculated images of γ-TiAl crystals in [110] and [011], respectively, with defocus from -100 to 40 nm. (e and f) Calculated images of γ-TiAl crystals in [110] and [011], respectively, with defocus of -95 nm. (原論文2より引用。 Reprinted with permission from Japanese Society of Electron Microscopy, Copyright 1999.)

 図2は照射した試料のHRTEM像,シミュレーション格子像とSADパターンである。電子ビームの入射方向は図1の場合と異なり、[110]である。そのため、SADパターンには[001]とその等しい位置に超格子反射スポットが観察されている。図2aには、ABCDでドメインなような構造を示した。その内側の部分は、その外側部分の像のコントラストと異なるように見える。外側は(001)に平行する超格子反射により(001)格子面が強調されている。
 
 一方、ABCDの内側にはそのような強調は顕著ではない。[110]と[011]方向入射する場合の格子像のシミュレーション像を図2cとdに示した。図に見えられるように、[110]方向入射の場合に、超格子反射による(001)格子フリンジの強調はどのdefocusでも観察される。それに対して、[011]方向入射する場合にはどのdefocusでも格子フリンジの強調が見えない。この結果により、ABCD外側は[110]方向入射で観察された像であり、ABCD内側は[011]方向入射で観察された像であると考えられる。図2eとfに示したdefocus -95 nmのシミュレーション像はそれぞれABCDの外側と内側に一致している。これらの分析により、ABCDの内側は外側のマトリクスの[110]方向に対して、[011]方向であることが分かる。これで、ABCDの内側部分は一つのRDであると判断できる。照射前の試料は単結晶であるため、このRDは照射によって生じたと考えられる。


図3  Defect clusters inγ-TiAl irradiated with 15 keV He ion to a dose of 8.6x1020 ions m-2 (4.4 dpa) at room temperature and then annealed at 673 K for 30 min. (a) A dark field image, super-lattice fringes are shown by arrows. (b) An HRTEM image, the enhancement of fringes are indicated by A. BC indicates a planar defect. (c) An SAD pattern. (原論文2より引用。 Reprinted with permission from Japanese Society of Electron Microscopy, Copyright 1999.)

 RDのアニーリングによる性質を調べるために、照射した試料を673 K 1800 sでアニーリングした。図3はその試料のDIFC像、HRTEM像とSADパターンを示している。試料は前に示したと同じく[011]方向で観察したが、前に述べた超格子反射スポットが図1cのよりはるかに鮮明に見えた。これは、RDのサイズが大きくなったか或いはその数が多くなったことを示唆している。すなわち、673 Kでの熱処理はRDの生成を促進した。この結果により、室温で照射による生じた損傷の回復は室温では十分できなっかたため、673 Kでその回復は続いていた事がわかった。
 
 図3aは図3cの[200]と超格子反射スポットの[001](電子の[110]方向入射に対する)で撮られた暗視野(DF)像である。矢印で示したように(200)面に平行しているフリンジが見える。これらのフリンジの間隔は(100)或いは(001)の面間距離と等しく、RD中の(001)面の格子面と考えられる。図3bのHRTEM像を見ると矢印で示したように、(200)に平行し、(001)の面間距離を有する強調した格子フリンジが見える。それらはDFで見えたフリンジと同じく、RDの超格子面の像であると考えられる。図2より見えたように、ドメイン構造ABCDとその内側にあるRDが一定の繋がりがあると考えられる。しかし、図1に見えたドメインのような欠陥はすべでRDとはまた認められない。ドメイン構造欠陥とRDは照射損傷による生成したと認められる。RDの生成と成長は、アニーリングの効果により考え、損傷の回復中点欠陥の移動に密接な関連があると考えられる。
 

コメント    :
 数百℃での電子ビームとHeイオンの照射による、γ-TiAl合金中にHeバーブルと転位ループが生成すると報告されたが、室温での照射による転向ドーメンの生成できることがこの研究で分かった。これらの欠陥生成と構造変化は照射損傷によるものと認められるが、照射温度が異なると、異なる結果ができ、照射損傷回復のマイクロプロセスが異なることが明らかになった。
 

原論文1 Data source 1:
High-resolution electron microscopy of γ-TiAl irradiated with 15 keV helium ions at room temperature
Minghui Song, Kazuo Furuya, Tatsuhiko Tanabe, Tetsuji Noda
National Research Institute for Metals, 3-13 Sakura, Tsukuba 305-0003, Japan
J. Nucl. Mater. 271 & 272 (1999) 200-204.

原論文2 Data source 2:
High-resolution electron microscopy study of defect structures in γ-TiAl irradiated with 15 keV He ions in a high-voltage transmission electron microscope
Minghui Song, Kazuo Furuya, Tatsuhiko Tanabe, Tetsuji Noda
National Research Institute for Metals, 3-13 Sakura, Tsukuba 305-0003, Japan
J. Electron Microscopy 48(4) (1999) 355-360.

キーワード:ヘリュウム、チタンーアルミ合金、照射損傷、照射欠陥、ドメイン、転向ドメイン、高分解能電子顕微鏡
Helium, TiAl, irradiation damage, irradiation defect, domain, rotated domain, HRTEM
分類コード:110401, 110402, 110501

原子力基盤技術データベースのメインページへ