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作成: 1997/10/29 小田 好博

データ番号   :110059
超電導磁気クロマトグラフィー法による超微粒子の分離
目的      :微粒子の高勾配磁場中によるクロマトグラフィー的分離法の開発とそのシミュレーション
研究実施機関名 :動力炉・核燃料開発事業団核燃料技術開発部先端技術開発室
応用分野    :分離・回収技術、清澄技術

概要      :
 高勾配磁気分離法では分離不可能な超微粒子の分離法として、超電導磁石によるクロマトグラフィー分離法を提唱し、分離可能性についてシミュレーションによる検証を行った結果、非常に弱い常磁性の微粒子分離について有望な結果を得た。これにより2次廃棄物を排出することなしに、大量の希薄懸濁系を高速で分離できる技術の可能性を示した。
 

詳細説明    :
 高勾配磁気分離法(High Gradient Magnetic Separation: HGMS)は化学反応を伴わない純粋に物理的な分離法であり、2次廃棄物を発生することなく大量の希薄懸濁液を高速に処理できるという利点を持つ。さらに外部印加磁場の制御により粒子に働く力を消去できるため、システムの繰返し利用が可能であるという利点を持つ。しかしながら粒子が小さくなると磁化が小さくなるために、ある粒径以下の粒子では粒子に働く拡散力の方が大きくなり分離は不可能となる。そこで、高勾配磁気分離法では分離不可能な微細粒子に対応可能な磁気クロマトグラフィー法を考案し、シミュレーションによる検証を行うこととした。図1は、横軸に磁化率、縦軸に粒子径を取り、溶媒を水としたときに、水の磁化率との競争及び粒子に働く拡散力のために、ある程度以下の粒子径では高勾配磁気分離法で粒子の回収ができないことを示している。また同時に、代表的な化合物の磁化率も示している。


図1 Calculation results for particle size limit in the case of HGMS.(原論文1より引用)



図2 The principle of proposed magnetic chromatography.(原論文1より引用)

 磁気クロマトグラフィー法の原理図を図2に示す。数百ミクロン程度の強磁性細線をチャンネルの上下に配置し、チャンネル内を被分離懸濁液で満たす。また、外部から磁場を磁性線に垂直に印加すると磁性線の周囲に大きな磁界勾配が発生する。磁界勾配は懸濁粒子に磁気力を及ぼし、磁化率の大きい粒子は磁性線(チャンネル壁面)の近傍で大きな濃度となり、チャンネル中央付近の濃度が低くなる。一方、磁化率の小さな粒子は、働く磁化率が小さいためにあまり大きな濃度分布を形成することはない。
 
 このとき、懸濁液を磁場印加方向に垂直で磁性線と同じ方向に層流を形成するように流すと、壁面付近で流速が遅く中央付近で速いという流速分布が形成される。この流速分布に従い、磁化率の小さな粒子(濃度分布に差がない)の大部分が磁化率の大きい粒子(壁面付近に高濃度)より先に排出される。つまり、磁化率の異なる微粒子がチャンネル内を通過する時間差によって分離される。
 
 微粒子の分離プロセスを、粒子に働く力が流れ方向には変化がなくチャンネルの厚み方向にのみ依存していることから、懸濁液がチャンネルの厚み方向にのみ拡散するものとした簡単なモデルを用意してシミュレーションによる検証を行った。チャンネル内を、流れ方向について微細なセルに分割し、ある微小時間経過後、流速の早い部分は次のセルへ、流速の遅い部分は現在のセルに残るものとし、またセル内での濃度分布の再形成は速やかに行われるものとした。計算に用いるパラメータとして核燃料再処理工程への適用を目的に、Ndと核燃料廃棄物から1つ選んで行うこととした。それぞれ磁化率は3.51×10-3と6.23×10-4である。粒径は100、150、180Åを想定(図1中で高勾配磁気分離による分離が不可能な領域に属する)し、TBP溶液(磁化率-8.88×10-6)中でチャンネル幅50μm、強磁性細線(半径10μm、磁化1.0T)、温度300K、外部印加磁場7.0Tにおける微粒子の分離を時間とともに計算した。その結果を図3に示す。


図3 Simulation results for magnetic chromatography process using nuclear fuel reprocessing as an example.(原論文1より引用)

 図3はある時間が経過した後、粒子がチャンネル内のどの位置に存在しているかを示している。この図から磁化率の大きいNd粒子が後から排出されることが分かる。また、粒径が大きいほど粒子に働く力が大きくなるために、より分離が速やかに行われることも分かる。粒径100Åではそれぞれの濃度のピーク位置にほとんど差が見られないが、チャンネルの長さを充分に大きくすることや外部印加磁場をさらに大きくすることで、充分に分離が可能であると考えられる。
 
 以上の結果から、高勾配磁気分離法にフィールド・フロー・フラクショネイションを折衷した手法である磁気クロマトグラフィー法が新たな分離技術として有望であることが示された。また、外部印加磁場強度を増大させることや、チャンネルを長くすることにより分離性能を容易に向上できることが示された。
 

コメント    :
 超電導磁気クロマトグラフィー法による分離技術は、通常の超電導高勾配磁気分離法よりも更に微細な粒子の分離に適用が可能になると考えられる。また分離が対象物質の磁性にのみ依存し、新たな廃棄物を発生することなしに高速に処理することが可能になると考えられる。
 
 本研究のような、クロマトグラフィー法のシミュレーションはあまり例がない。今回提唱した手法は純粋に物理的な手法であるため、数値解析の適用性が高いと考えられ、より有効な磁気クロマトグラフィーカラムの設計に役立つものと考えられる。
 

原論文1 Data source 1:
Feasibility of Magnetic Chromatography for Ultra-Fine Particle Separation
Takeshi Ohara, Sadao Mori*, Yoshihiro Oda**, Yukio Wada**, Osami Tsukamoto***
Electrotechnical Laboratory, *Mie University, **Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation, ***Yokohama National University
T. IEE Japan, vol. 116-B, No. 8 (電学誌B, 116巻8号) (1996) pp. 979-986.

キーワード:超微粒子、超電導、高勾配磁気分離、磁気クロマトグラフィー
fine particles, superconductivity, high gradient magnetic separation, magnetic chromatography
分類コード:110105, 190204

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