原子力基盤技術データベースのメインページへ

作成: 1999/11/09 斉藤 淳一

データ番号   :110051
2元系Nb基およびMo基合金の液体リチウム中での腐食挙動
目的      :液体リチウム耐食性に優れた超耐熱合金の開発のための基盤的試験
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構、大洗工学センター、機器・構造安全工学グループ
応用分野    :液体金属用構造材料、耐食性材料、耐熱材料

概要      :
 高温液体リチウムの過酷な環境下で使用可能なNb基およびMo基合金の研究開発を実施した。そのために本研究では2元系Nb基およびMo基合金の液体リチウム中での腐食試験を行い、それぞれの合金の腐食挙動と合金効果を明らかにすることを目的とした。その結果、Mo基合金のリチウム耐食性はNb基合金のそれにくらべ10倍程度優れていたこと、両合金ともHf添加により耐食性が著しく向上したことが明らかになった。
 

詳細説明    :
 高温アルカリ金属のフロンティア領域を開拓するために、高温液体リチウムの過酷な環境下で使用できる構造材料の研究開発を実施してきた。高温(1200℃)と液体リチウム耐食性の環境条件から、高融点金属を基とするNb基およびMo基合金を候補合金として選択した。しかしながら、Nb基およびMo基合金の液体リチウムに対する耐食性は十分に知られていない。特に合金開発で重要となる合金効果については系統的に実験調査された例はない。そこで、本研究では2元系Nb基およびMo基合金の液体リチウム中での腐食試験を行い、それぞれの合金の腐食挙動と合金効果を明らかにすることを目的とした。


図1 Capsule and specimen-holder used for corrosion test. (原論文1より引用。 Copyright 1999, with permission from Elsevier Science.)

 腐食試験にはアルゴンアーク溶解したNb-5at%M(M:Mo, Ru, Hf, Ta, W, Re), Mo-5at%X(X: Nb, Ru, Hf, Ta, W, Re)を試験片として用いた。試験片サイズは10mm角で厚さ2mmとした。試験条件は1200℃、1回の試験を100時間とし、試験は合計3回の300時間まで実施した。試験に使用したカプセルおよび試験片ホルダーを図1に示す。これらは市販の耐熱合金のNb-1wt%Zrで製作した。1回の腐食試験には約16gのリチウムを用いた。100時間ごとの腐食試験前後で試験片重量を測定し、試験後には走査型電子顕微鏡で表面観察を実施した。試験片の取扱はグローブボックス内で行い液体リチウム中に不純物が混入するのを可能な限り防止した。


図2 Weight change of Nb-based alloys with corrosion time. (原論文1より引用。 Copyright 1999, with permission from Elsevier Science.)

 図2には2元系Nb基合金の腐食試験後の重量変化を示す。横軸は腐食試験時間、縦軸は重量変化量を示す。マイナスは腐食試験後に重量減少、プラスは重量増加を示したことをそれぞれ意味する。この図から周期表の6A族であるMo, Wを添加した合金はいずれも重量増加を示していることがわかった。Reを添加した合金は著しい重量減少を示したが、これは腐食試験後に試験片の角が腐食によりクラックが入り割れたことが原因であった。また、Hfを添加した合金の重量減少は試験をした合金の中で最も小さいことがわかった。電子顕微鏡および分析による表面解析の結果、Hfを添加した合金を除く、すべての合金で表面にクラックが生じていることがわかった。
 
 また、表面には腐食生成物が付着しており、その成分はZrNとNb2Cであることが表面解析によりわかった。生成の原因は以下のように予測される。ZrNはカプセルやホルダーのNb-1wt%Zrから溶出したZrとリチウム中の不純物元素の窒素が反応しリチウム中で生成し、試験片に付着したと思われる。また、Nb2CはNb-1wt%Zrおよび試験片から溶出したNbとNb-1wt%Zr中の炭素が溶出し、リチウム中で反応し試験片に付着したと思われる。いずれの生成物とも生成自由エネルギーが低く、生成しやすい。Hfを添加した合金はクラックも少なく、腐食生成物もほとんど観察されなかった。以上の結果より、Hf添加はNb基合金のリチウム耐食性を大きく改善させることがわかった。


図3 Weight change of Mo-based alloys with corrosion time. (原論文1より引用。 Copyright 1999, with permission from Elsevier Science.)

 図3には2元系Mo基合金の腐食試験後の重量変化を示す。この図からMo基合金のリチウム腐食による重量変化はNb基合金のそれのに比べ1/10程度で、Mo基合金の耐食性はNb基合金よりも優れていることがわかった。これは液体リチウム中へのMoの溶解度がNbのそれに比べて小さいことに起因していると思われる。Ruを添加した合金を除く、すべての合金で腐食試験後に重量増加を示していることがわかった。また、Nb基合金と同様にHfを添加した合金の重量変化量は試験した合金の中で最も小さく、Hf添加により耐食性が向上したことがわかる。電子顕微鏡による腐食試験後の試験片表面の観察結果ではNb基合金のようなクラックは全く観察されず、微細な腐食生成物が観察されるだけで、ほぼ均一腐食であることがわかった。腐食試験後の表面状態からもMo基合金のリチウム耐食性はNb基合金よりも優れていることがわかった。
 
 以上の結果より、Mo基合金のリチウム耐食性はNb基合金のそれにくらべ10倍程度優れていること、いずれの合金でもHf添加により耐食性が著しく向上したことが明らかになった。
 

コメント    :
 
 

原論文1 Data source 1:
Alloying effects on the corrosion behavior of binary Nb-based and Mo-based alloys in liquid Li
J. Saito, S. Inoue, S. Kano, T. Yuzawa, M. Furui and M. Morinaga
Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation
Journal of Nuclear Materials 264 (1999) 216-227.

参考資料1 Reference 1:
Corrosion behavior of Mo-Re based alloys in liquid Li
J. Saito, M. Morinaga, S. Kano, M. Furui and K. Noda
Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation
Journal of Nuclear Materials 264 (1999) 206.

参考資料2 Reference 2:
Nb基およびMo基超耐熱合金のLi腐食挙動
斉藤 淳一、森永 正彦、加納 茂機、谷 賢
動力炉・核燃料開発事業団
動力炉・核燃料開発事業団 公開資料 PNC TN9410 98-072

キーワード:超耐熱合金、ニオブ基合金、モリブデン基合金、液体金属腐食、液体リチウム、合金効果
Super heat-resisting alloys, Nb-based alloys, Mo-based alloys, Liquid metal corrosion, Liquid Li, Alloying effect
分類コード:110201, 110502

原子力基盤技術データベースのメインページへ