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作成: 1999/10/01 山本 春也

データ番号   :110040
Nb/Cu多層膜中の水素分布のイオンビーム分析
目的      :イオンビーム分析法による薄膜および多層膜中の水素分布測定
研究実施機関名 :日本原子力研究所高崎研究所材料開発部高機能材料第2研究室
応用分野    :核融合炉材料、多層膜光学素子材料、超伝導材料、水素吸蔵材料

概要      :
 15N共鳴核反応法による多層膜材料中の水素濃度分布に関して測定手法の高度化を図った。真空蒸着法によりα-Al2O3基板上に各層が数十nmから成るNb/Cu多層膜を作製し、多層膜中の水素濃度分布の測定を行った。測定結果とシミュレーション計算値との比較により、数nm厚さの領域における水素濃度分布の評価が可能となった。この結果、Nb層中の水素固溶濃度がNb層の膜厚の減少に伴ない減少することを見出した。
 

詳細説明    :
 多層膜の物性は水素を吸蔵することにより変化することが知られている。しかし、多層膜中の水素の存在状態に関しては、これまであまり明らかにされていなかった。水素はNb中に大量に固溶し水素化物を形成するが、Cuにはほとんど固溶しない。またNbとCuは相互にほとんど固溶しなため、Nbと多層膜にしたとき両原子の混合が生ぜずに、平坦且つ組成の変化が急峻な界面の形成する。このため、薄膜中の水素固溶濃度の厚さ依存性や界面効果について研究する目的でNb/Cu多層膜を研究材料とした。
 
 本研究では、NbとCuからなる多層膜を超高真空下で電子ビーム蒸着法によりMgOおよびα-Al2O3基板上に積層した。各層の膜厚は水晶振動子膜厚計により計測した。蒸着後、試料を水素導入チェンバーに真空搬送し、大気圧までAr/H2(3 %)ガスを導入し、150℃で30分間の熱処理を行い蒸着膜内へ水素を導入させた。
 
 また、本研究では、水素の分析手法として、最も良い深さ分解能が得られる核反応法と反跳粒子検出法を用いている。とくに、共鳴核反応法は局所的な水素分布を、反跳粒子検出法は水素同位体を含めた水素分布の全体像を調べるのに有効な分析法である。15Nの入射エネルギーが6.385 MeVで生じる共鳴核反応 1H(15N,αγ)12Cは、4.43 MeV のγ線を放出する。この共鳴核反応の共鳴幅は1.8 keVと非常に狭く、共鳴反応を外れると断面積は約4桁近く小さくなるため、共鳴エネルギー以外の入射粒子の反応は無視できる。さらに、40K(1.43MeV)などの自然放射線のエネルギー領域から外れているため、γ線のバックグラウンドの影響がない。よって、検出される4.43 MeV のγ線収量が、共鳴エネルギーの深さに対応した領域の水素濃度に比例する。
 
 図1に水素を含んだアモルファスシリコン膜に、共鳴エネルギー(6.385 MeV)以上の(a) 6.45 MeVとビームを照射していないときのγ線のエネルギースペクトルを示す。NaI(Tl)検出器による測定では、核反応で生じるγ線(4.43 MeV)エネルギースペクトルのうち、シングルおよびダブルエスケープの領域を含めてγ線収量とした。


図1 γ-ray spectra of hydrogenated amorphous Si induced by 1H(15N,αγ)12C resonant nuclear reactions at 6.45MeV. The spectrum with lower yield was taken without 15N3+ ion beam to estimate the background yield. (原論文1より引用。 Copyright 1995, with permission from Elsevier Science.)

 図2は水素導入処理を行なったCu(20 nm)/Nb(40 nm)/Cu(20 nm)/MgO試料中の水素分布の測定結果を示している。この測定では入射エネルギーを10 keV間隔で変化させてγ線収量の測定を行なった。図2から多層膜中の水素は表面側および基板側のCu(20 nm)層にはほとんど固溶せず、Nb(40 nm)層中に33 at.%の水素濃度で一様に固溶していることがわかる。これに対して、多層膜への水素導入処理を行なっていないNb層中の水素濃度は4 at.%以下であった。これより成膜後の水素雰囲気において水素が表面側のCu層(20 nm)を透過し、Nb(40 nm)層中に固溶したことがわかる。


図2 The result of 15N-NRA analysis of H-charged Nb/Cu multulayer composed of Cu 20 nm/Nb 40 nm/Cu 20 nm on MgO substrate.

 図3に表面側より10, 20, 40 nm 厚のNb層の間に20 nm 厚のCu層を挿入し、気相―固相反応により水素を添加した多層膜の水素濃度分布の測定結果とシミュレーション計算による濃度分布の比較を示す。また下図はシミュレーション計算より求めた水素濃度分布を示している。水素はNb層中にのみ存在しCu層中には殆ど固溶していないことがわかる。またNb層中の水素固溶濃度が、Nb層の膜厚の減少に伴ない減少していることがわかる。水素固溶濃度の低下は、格子のミスマッチに起因する内部応力が影響していると考えられる。この測定法ではシミュレーション計算との比較により、数nm厚さの領域における水素濃度分布の評価が可能であり、薄膜界面や材料中の水素濃度分布測定に有効である。


図3 Hydrogen depth distribution determined by 15N-NRA in a polycrystalline Nb/Cu multilayered samples. (原論文2より引用。 Copyright 1997, with permission from Elsevier Science.)

 

コメント    :
 15N共鳴核反応法を用いた水素分析は、数十nmの分解能で材料中の水素の深さ分布測定できる有効な分析手法である。しかし、測定にイオン加速器を利用するため、実験施設が限られるのが欠点である。
 

原論文1 Data source 1:
Analysis of hydrogen in Nb/Cu multilayer using ion beams
S. Yamamoto, P. Goppelt-Langer, H. Naramoto, Y. Aoki, H. Takeshita
Japan Atomic Energy Research Institute, 1233 Watanuki, Takasaki, Gunma, 370-1292 Japan
Journal of Alloys and Compounds 231 (1995) 310-314.

原論文2 Data source 2:
Analysis of hydrogen in Nb thin films and Nb/Cu multilayers, using ion beams
S. Yamamoto, H. Naramoto, Y. Aoki
Japan Atomic Energy Research Institute, 1233 Watanuki, Takasaki, Gunma, 370-1292 Japan
Journal of Alloys and Compounds 253-254 (1997) 66-69.

キーワード:共鳴核反応法、水素、多層膜
Resonant nuclear reaction, Hydrogen, Multilayer
分類コード:110502, 110501

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