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作成: 1999/11/19 朝岡 秀人

データ番号   :110038
酸化物超伝導体YBCOの単結晶育成
目的      :酸化物超伝導体の高品質大型単結晶の育成
研究実施機関名 :日本原子力研究所物質科学研究部極限物性研究グループ
応用分野    :物質創製研究、超伝導研究、電力貯蔵材料、電力輸送材料、医療材料

概要      :
 一般に均一な溶液から酸化物超伝導YBa2Cu3Ox(YBCO)結晶を合成した場合、多くはアスペクト比(厚さ/直径)の小さな板状晶しか得られず、厚さ方向(c軸方向)の物性測定が極めて困難な状況にある。我々は等温に近い状態で固体と液体を共存させ、包晶反応を用いることによって大形YBCO単結晶の育成に成功した。
 

詳細説明    :
 酸化物超伝導YBa2Cu3Ox(YBCO)結晶は、液体窒素温度77Kを越える高い超伝導転移温度(Tc)を示し、安定した結晶構造を持つ物質として注目されている。大形で高品質な単結晶による研究は超伝導特性の解明に不可欠であると共に、応用分野への発展が期待されている。一般に、均一な溶液からYBCO結晶を合成した場合、多くはアスペクト比(厚さ/直径)の小さな板状晶しか得られず、厚さ方向(c軸方向)の物性測定が極めて困難な状況にある。
 
 そこで、我々はDembinskiらのYBCO-7BaCuO2・11CuOの相図に示される等温に近い状態(図1(a)の123+211+Lの領域)で固体と液体を共存させ、次に示すような包晶反応を用いて大型単結晶の育成を試みた。
 
   Y2BaCuO5(固相) + 液相 → YBa2Cu3Ox(固相) (1)
 


図1 (a)A pseudo-binary phase diagram of YBa2Cu3Ox being joined to 7BaCuO2・11CuO. The phases are labeled as follows: 123: YBa2Cu3Ox, 011: BaCuO2, 001: CuO, 211: Y2BaCuO5, 200: Y2O3. (b)Correspondence of the spot number to the position for a temperature measurement in the crucible. (c)Optimum temperature gradient in the crucible under various soaking temperatures for crystal growth.(原論文1より引用)

 固相反応法を用いて合成したYBCO粉末と、BaCuO2-CuOの共晶点を示す7BaCuO2-11CuOとの比率を系統的に変化させて混合し、イットリアるつぼに充填した。イットリアるつぼの使用により、るつぼ材からのYBCO相への不純物の混入を防ぎ、高純度単結晶の育成が可能となる。
 
 出発混合物質をY2BaCuO5と液相の2相共存状態が得られる1050℃まで昇温・保持した後(電気炉内のるつぼの位置、るつぼ内の温度分布についてはそれぞれ図1(b)、(c)参照)、徐冷法による結晶成長を行い、970℃においてYBCO単結晶と残留溶液を分離した。
 
 YBCO単結晶を残留溶液から分離するために、三つの方法を試みた。結晶成長後、残留溶液が固化しない前にるつぼに開けた穴から流して単結晶を分離する方法、ポーラスなセラミックを挿入してを吸収させす方法などがあるが、最も簡単な方法としては、残留溶液のみを流し出してしまうことである(図2参照)。その際、結晶に熱衝撃が与えられないように、温度を保ったままで炉内で操作することが必要である。CuO-BaO系のフラックスは融点が高く、また高温での化学反応性も高いので、育成に用いるるつぼ材には特に注意が必要である。そのうえ、残留溶液はYBCOと化学的性質が似ているので育成後に単結晶と化学処理で分離することは難しい。


図2 Three methods for separation of growth crystals from the residual solution.(原論文1より引用)

 残留固化溶液は分析の結果、BaCuO2とCuOでYが殆ど見いだせなかったことから、(1)式に示される包晶反応はほぼ完全に進行したと考えられる。1/6(123)と1/25(7BaCuO2-11CuO)との比率を3:7に混合した出発組成について、最大7x7x7mm3(axbxc軸)程に成長し光沢のあるフラットな面{100}、{001}で囲まれた立方状結晶が得られた(図3参照)。


図3 A SEM photograph of a large isometric YBa2Cu3Ox single crystal which has a thickness of 3.6 mm along the c-axis. The longitudinal direction is along the c-axis.(原論文1より引用)

 EPMAによる分析の結果、Y、Ba、Cu各元素が結晶断面全域に均一に分布していることが確認された。不定比酸素を持つYBCO結晶に対して、さまざまな温度、酸素分圧下で酸素アニールを行い、92.5Kにシャープな超伝導転移を示す酸素量x=7.0の均一なYBCO結晶を得ることができた。各方位に対する抵抗率-温度特性に関して、a(b)軸、c軸方向いずれもT > Tcにおいて金属的振舞いがみられ、c軸方向の抵抗率はa(b)軸方向のおよそ100倍程高い値を示した。また各方位に対して超伝導転移幅(ΔTc)の外部磁場依存性を測定した結果、測定電流方向によらずc軸方向に磁場を印加した場合にΔTcの低温側へのシフトが観測された。
 

コメント    :
 YBCO単結晶育成については、Y系の超伝導が発見されて以来研究が続けられているが、TSFZ法による安定して十分な大きさ・特性を持つ結晶が得られているLa系結晶と比較して困難な技術を要する。その理由としては、熱的に不安定で分解温度が約1000℃と低いこと、高温領域における相関係が複雑で液相と安定に接する部分が極めて少ないこと、高温において化学的に活性で、多くの物質と反応すること、等があげられる。そこで本研究においては、1000℃以下の低温域でのフラックスによる溶液法を用い、使用する溶媒や高温溶液を入れるるつぼの開発を行った。これらの成果は、他の酸化物超伝導体結晶の育成に応用されている。
 

原論文1 Data source 1:
Growth of Large Isometric YBa2Cu3Ox Single Crystals from Coexisting Region of Solid with Melt in Y2O3 Crucibles
Hidehito Asaoka, Humihiko Takei, Yasuhiro Iye, Masafumi Tamura, Minoru Kinoshita, Hiroyuki Takeya
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai-mura, Naka-gun, Ibaraki 319-1195.
Jpn. J. Appl. Phys. 32 (1993) 1091.

参考資料1 Reference 1:
A non polluting single crystal growth process for YBaCuO and phase diagram studies
K. Dembinski, M. Gervais, P. Odier and J. P. Coutures
Centre de reches sur la physique des hautes temperatures, C.N.R.S., 45071 Orleans cedex 2, France.
J. Less-Common Met. 164/165 (1990) 177

キーワード:酸化物超伝導体、単結晶、結晶成長、YBCO
oxide superconductors, single crystals, crystal growth, YBCO
分類コード:110501, 110503, 110303

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