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作成: 2000/01/10 菱沼 章道

データ番号   :110027
低温延性及び強度に富むTi-40Al-10V金属間化合物の開発
目的      :中低温延性と強度特性に優れたTiAl系金属間化合物の開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所
応用分野    :エンジン、タービン、航空機、自動車、原子力

概要      :
 室温の延性及び強度に優れたTi-40%Al-10%V金属間化合物の開発に成功した。これまでTiAl系合金は、比強度などの点で優れた特性を有するものの、とくに室温延性に乏しいことから、いまだ実用化には至っていない。本研究では、第3元素Vの添加と加工処理の工夫により結晶構造を変化させることで、強度と常温における高い延性を併せ持つ金属間化合物を開発した。
 

詳細説明    :
 TiAl系金属間化合物は、軽くて強い特性すなわち比強度に優れ、また耐熱性にも優れていることから、軽量耐熱材料、特にエンジン部材、航空機材料、宇宙材料、自動車関連の先進材料としてその開発研究が精力的に行われている。また、原子力材料としても、これまでの研究で耐照射性や低放射化性に優れた特性を持つことがわかっており、現在の代表的な原子力材料であるステンレス鋼に代わるものとして期待されている。しかし、低温延性に乏しく且つもろい性質が実用化への障害になっている。
 
 ここで、開発された合金は、Ti-Ai合金にVを添加したTi-40at%Al-10at%Vの3元合金で、V添加によって結晶構造とミクロ組織を改良したものである。そのミクロ組織は、従来の代表的な組織である2相(α2,γ)でラメラー相からなるものとは異なり、平均直径数μで且つ等軸結晶粒の3相(B2,γ,α2)を含むことが特徴である。それによって、従来のTiAl合金の欠点といわれている中低温(室温‐500℃)領域の引張延性を飛躍的に向上させ、併せて強度特性も向上させることに成功した。その特性は、従来材に比べて引張延性で約5倍、強度特性で約2倍の優れた特性を有する。
 
 本合金では、純度99.99%と99.3%の純AlとTi及び純度99.3%の15%Al-85%V(wt.%)の母合金を出発原料とし、それらを一般的な真空溶解法で溶解した後、消耗電極式真空アーク2重溶解(VAR)法で均質化を図った。得られたインゴットは、1150℃x1500atmx4hの条件で熱間静水圧加工(HIP)により整形し、最終的に950℃で1.1x10-4s-1の歪み速度で圧延率80%まで恒温鍛造した。得られたミクロ組織は、主にγとB2相を含む数μの細かな結晶粒から構成され、その間にさらに小さなα2相がわずかに存在する。
 
 得られた合金の応力‐歪曲線を図1に示す。図1(a)は、応力‐歪曲線の温度依存性を、また図1(b)には、典型的な室温におけるその拡大図を示す。この図から、室温での延性は約6%以上、また降伏応力は約800MPa以上あることがわかる。この室温での基本的な特徴は、500℃までほとんどは変化しない。すなわち、この温度領域においては、伸びが温度と共に若干大きくなる程度で、降伏応力及び加工硬化指数はほとんど変化しない。従って、見かけの応力‐歪曲線はほとんど同じ形状である。しかし600℃以上になると、この降伏応力が減少し始め、それに伴って引張伸びは急激に大きくなる。また、この高温領域では加工硬化指数も小さくなる。これらの変形挙動の温度依存性は、低温側では双晶変形が支配的な変形機構であるが、高温側では通常の金属材料に観られる転位変形が優先するようになるためと考えられる。


図1 (a)開発したTi-40at%Al-10at%V 金属間化合物の室温〜650℃における応力‐歪曲線. (b)開発したTi-40at%Al-10at%V 金属間化合物の室温における代表的な応力‐歪曲線. (原論文1より引用。 Copyright 1999, with permission from Elsevier Science.)

 これらの引張特性を従来のTiAl合金と比較したものが図2である。この図で、本開発合金の引張伸びと降伏応力の温度依存性を実線及び点線で、従来のTiAl金属間化合物の特性をバンドでそれぞれ表している。従来のTiAl合金では、低温領域とくに室温での典型的な伸びは2%以下の場合が多い。それに比べて本開発合金では、中低温(室温‐500℃)領域で10%以上と5倍以上の延性を示す。しかも、強度特性にも800MPa以上と極めて大きい。これらは、従来の材料に比べて4倍程度の室温延性と2倍程度の降伏応力を有することになる。この常温での延性の向上は、変形加工性の向上につながり、実用化に大きく近づくことになる。しかしTi-Al-V合金系の研究は緒についたところで、基本的な研究、例えば組成の最適化、ミクロ組織の最適化等の研究、さらに、微量添加元素の役割などの研究もほとんど手つかずのままであり、これらの研究開発を通してさらなる性能の向上が、とくに600℃以上での高温強度などの向上が見込まれる。


図2 開発したTi-40at%Al-10at%V金属間化合物と従来材Ti-Al金属間化合物の引張伸び及び降伏応力の温度依存性の比較. (原論文1より引用。 Copyright 1999, with permission from Elsevier Science.)

 

コメント    :
 本TiAlV金属間化合物は、これまで実用化を阻んでいた室温延性を飛躍的に向上させた点で、工業材料としての実用化への道を拓く第一歩となる。今後は、さらに微量元素の添加やミクロ組織の最適化を図ることによって、長年の夢である金属間化合物の実用化への道が拓かれるものと期待される。
 

原論文1 Data source 1:
Development and tensile properties of Ti-40Al-10V alloy
A. Hishinuma, M. Tabuchi, and T. Sawai
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai-mura, Ibaraki 319-1195
Intermetallics 7 N0.8 (1999) 875-879.

キーワード:Ti-Al-V合金、金属間化合物、引張特性、室温延性、恒温鍛造、等軸結晶粒、B2相
Ti-Al-V alloy, intermetallic compound, tensile property, room temperature ductility, forging, equiaxed grain, B2 phase
分類コード:110502

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