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作成: 1999/09/28 菱沼 章道

データ番号   :110026
Ti-47at.%Al金属間化合物の照射による引張特性及びミクロ組識変化
目的      :TiAl系金属間化合物の照射損傷機構の解明
研究実施機関名 :日本原子力研究所 物質科学部、材料照射解析研究グループ
応用分野    :原子炉材料、航空機材料、宇宙材料、タービン関連材料、エンジン関連材料

概要      :
 TiAl系金属間化合物は、軽量性、低放射化性などの観点から、次世代原子力や核融合炉の材料としても期待されている。しかし照射損傷に関する研究はこれまで非常に限られている。ここでは、Ti-47at.%Al金属間化合物の中性子照射及び電子線照射実験を通して、まだ照射量が少ない範囲ではあるが、TiAl系金属間化合物は優れた耐照射性を有していることを明らかにし、次世代の原子力材料として期待できることを実験的に示した。
 

詳細説明    :
 金属間化合物は次世代の一般工業材料の先進材料として精力的に研究開発が進められている。それらはまた原子力材料としても期待されているが照射挙動に関する研究はこれまで非常に少ない。ここでは、開発が進んでおり、原子力材料としても魅力のあるTi-47at.%Al金属間化合物について、中性子照射による引張特性の変化及び電子線照実験を通してスエリング挙動を調べた。


図1 中性子照射を受けた Ti-47at.%Al金属間化合物の引張応力-歪曲線。 試験条件 温度:873K 歪速度:8×10-4S-1、 照射条件 温度:873K 照射量:1×1024n/m2(E>1MeV). (原論文1より引用。 Copyright 1996, with permission from Elsevier Science.)

 Ti-47at.%Al金属間化合を JRR-2 で照射温度 600℃ で 1x1020n/m2 まで中性子照射した後、照射温度で真空引張試験をした。その結果を図1に示した。この照射量は約 0.5 dpa と非常に小さいが、照射によって伸びが増加するという特異な特性を示した。一般に金属材料では、照射によって硬くなりそれに伴って脆くなるのが一般的特徴で、すなわち、引張試験では、降伏応力が増加して伸びが減少する。しかし、この場合には、降伏応力がほとんど変化することなく伸びが増加するという金属材料の照射挙動からは予想できない新しい現象が見出された。ここのことは、TiAl系金属間化合物は優れた耐照射性を有していることまたは可能性を持っていることを示すものである。
 
 この現象の理由または機構については必ずしも明らかではないが、次のように考えられている。すなわち、中性子照射された金属材料では、弾き飛ばされた原子の一部が平面的に集合し転位ループを形成する。この集合体は、ステンレス鋼などの面心立方体構造を持つ材料の場合には、積層欠陥を持つ不完全ループである。これらのループは照射を続けると積層欠陥エネルギーを解消するため完全ループへ成長する。さらに照射を続けると、これらは大きく成長し且つお互いが相互作用して転位線となり、ついには転位網を構成するようになる。これが金属材料の一般的な照射による硬化機構である。いっぽう、面心立方体に近い L10 構造を有する TiAl金属間化合物では、金属材料と同じように照射によって積層欠陥を持つ格子欠陥集合体が生じる。しかし、その不完全転位ループは完全ループへ変化し難い。なぜなら、この変化は、積層欠陥エネルギーを解消するが、一方では、規則合金に起因するエネルギーの大きい異相境界を生じるため、結果としてより高いエネルギー状態をもたらすことになる。


図2 450℃で 0.5 dpa まで電子線照射を受けた Ti-47at.%Al金属間化合物(左)とオーステナイトステンレス鋼(右)のミクロ組識. (原論文2より引用。 Copyright 1996, with permission from Elsevier Science.)

 また、電子線照射によるミクロ組織の変化及びスエリング挙動を調べた。図2には、450℃で 0.5 dpa に相当するまで電子線照射した Ti-47at.%Al合金のミクロ組識を原子炉材料として使われているオーステナイトステンレス鋼と比較して示してある。ステンレス鋼では、5% 以上のスエリングに対応する多くのボイドが観察されるが、TiAl金属間化合物では明瞭な損傷組識の発達が観られなず、スエリングもほとんど生じていない。この現象は、前述の転位ループが発達し難いことから理解することができる。
 
 このように、Ti-47at.%Al金属間化合物は、照射による脆化及びスエリング現象に対して優れた抵抗性を有することを実験的に明らかにし、次世代の原子力材料として期待できることを示した。
 

コメント    :
 本研究はこれまで皆無に近かった金属間化合物の照射による特性変化を調べ、照射によって延性が増える、いわゆる照射誘起延性化現象を見出した。このような現象は通常の金属材料では見られなかった新しいものである。また、原子力材料への応用に際し重要な課題である耐スエリング性にも極めて優れていることも明かにされた。これらの結果は、今後照射に強い材料、さらには自己修復能力を持つ夢の原子力材料の開発の可能性を示している。
 

原論文1 Data source 1:
Ductilization of TiAl Intermetallic Alloys by Neutron-Irradiation
A. Hishinuma*, K. Fukai*, T. Sawai* and K. Nakata**
*Japan Atomic Energy Research Institute, **Hitach Ltd
Intermetallics 4 (1996) 179-184.

原論文2 Data source 2:
Radiation Damage of TiAl intermatallic Alloys
A. Hishinuma
Japan Atomic Energy Research Institute
J. Nucl. Mater. 239 (1996) 267-272.

キーワード:Ti-47at.%Al金属間化合物、恒温鍛造、中性子照射、引張特性、ミクロ組織、双晶変形、
格子欠陥集合体、照射誘起延性
Ti-47at.%Al intermetallic compound, forging, neutron irradiation, tensile property, microstructure, twin deformation, defect cluster, radiation induced ductilization
分類コード:110402

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