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作成: 1999/01/19 舘 義昭

データ番号   :110024
セラミックスのNa腐食メカニズムの解明
目的      :エンジニアリングセラミックスの高温ナトリウム中での腐食機構の解明
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構 大洗工学センター ナトリウム・安全工学試験部 機器・構造安全工学グループ
応用分野    :耐熱材料、耐食材料、耐摩擦・摩耗材料

概要      :
 Al2O3, Si3N4, SiCなどのエンジニアリングセラミックスは、代表的な高速炉環境である高温ナトリウムにより腐食を受ける。これらのセラミックスが受ける腐食形態は、主に粒界腐食であることが知られており、粒界部の組織・構造や不純物がナトリウム腐食に大きな影響を及ぼしている。数種のセラミックスのナトリウム腐食試験とその解析および熱力学的な検討を通して、セラミックスのナトリウム腐食のメカニズムを明らかにした。
 

詳細説明    :
 Al2O3,Si3N4,SiCなどのエンジニアリングセラミックスは、代表的な高速炉環境である高温ナトリウムにより腐食を受ける。その腐食形態は主に粒界から選択的に腐食が進行する粒界腐食であることが知られており、粒界部の組織・構造や不純物が大きな影響を及ぼしている。
 
 数種のセラミックスに対してナトリウム腐食試験を実施し、その解析と熱力学的な考察からそれぞれのセラミックスにおける腐食メカニズムを検討した。試験に供したセラミックスは、Al2O3,Si3N4,Sialon,SiCおよびAlNの5種類であり、それぞれの試験片(寸法:10×20×2t mm)を650℃のナトリウム中に最長4000時間まで浸漬する腐食試験を実施した。腐食試験後、各試験片の外観および微細組織の観察、重量変化や元素分布の測定を実施した。これらのセラミックスにおけるナトリウム腐食のメカニズムは大きく3つの型に分類することができる。Al2O3やAlNにおける不純物主導型の腐食、Si3N4,Sialonにおける母材-ナトリウム間の相互作用型の腐食、SiCにおける粒界消失型の腐食である。
 
(1)不純物主導型の腐食
 この腐食は、材料中の不純物によりナトリウム腐食が進行するものであり、純度の異なるAl2O3に顕著に見られるように不純物の少ない高純度のものは非常に重量変化が小さく耐食性に優れる。しかし、不純物量が多いと拡散浸入したナトリウムとの相互作用により粒界部から腐食が起こり、腐食された粒界部の脆弱化により結晶粒の脱落などが起こる。比較的耐食性に優れるAlNにおいても、不純物が多くなるとナトリウムによる腐食は激しくなると予想される。特に、ナトリウム腐食に大きな影響を及ぼす不純物はSiO2等のSi-O化合物であり、材料中に含まれるSi-O化合物はナトリウムとの反応により複合酸化物を生成することがそれぞれの生成自由エネルギーの大きさからも推測できる。


図1 Sodium Corrosion Mechanism in Al2O3 and AlN


(2)母材-ナトリウム間の相互作用型の腐食
 Si3N4,Sialonにおけるナトリウム腐食は、ナトリウムと母材元素との直接的な相互作用によるものであると考えられ、Si-NとAl-Oの固溶体であるSialonにおいてその現象が顕著に観察される。Sialonの表面近傍では粒界から拡散浸入したナトリウムにより珪素(Si),窒素(N)の溶出やナトリウムとアルミニウム(Al)との反応などが起こり、表面近傍の組成に大きな変化が現れる。この現象にともなう粒界相の消失などの材料組織の変化は観察されておらず、ナトリウムと母材元素との相互作用は材料表面全体で進行していると考えられる。粒界部の結晶化や粒界部体積の低減などの処理をしたSi3N4やSialonでは、ナトリウムの拡散浸入が抑制され重量減少量が低減することがわかっており、粒界部を通じて浸入するナトリウムがこれらのセラミックスの腐食に大きな影響を及ぼしている。


図2 Sodium Corrosion Mechanism in Si3N4 and Sialon

 
(3)粒界部消失型の腐食
 SiCの場合、ナトリウム浸漬後の表面近傍で粒界相の消失により生じたと考えられる空隙が多数観察される。通常、SiCの粒界部はSi3N4やSialon等に比べ非常に幅が狭いため、これらの空隙は粒界部を起点とした結晶粒成分の溶出によって生じていると予想され、材料内部へ浸入したナトリウムが大きな影響を及ぼしていると考えられる。このようなナトリウム腐食はその進行とともに表面近傍の空隙が増加し、材料表面で層状の剥離が起こる場合がある。


図3 Sodium Corrosion Mechanism in SiC

 

コメント    :
 Al2O3,Si3N4(Sialon),SiCなどの代表的なエンジニアリングセラミックスの高温ナトリウムによる腐食メカニズムの概要が明らかにされた。これまでの、いずれも粒界から選択的に腐食を受ける粒界腐食であるという漠然としていた知見よりも個々の材料にわたる詳しい知見が得られた。これは、耐食性向上のための改良などの手法探究に対して有益な指針を与えるものであると考えられる。
 

原論文1 Data source 1:
Researchi on Creation of Advanced Ceramics
Y. Tachi, Y. Hirakawa, E. Yoshida and S. Kano
核燃料サイクル開発機構、東茨城郡大洗町成田町4002
Proc. of Inter. Sympo. on Material Chemistry in Nuclear Environment (Tsukuba, Ibaraki, 1996) p. 901.

原論文2 Data source 2:
Compatibility of Ceramics with Liquid Sodium
Y. Tachi, Y. Hirakawa, E. Yoshida and S. Kano
核燃料サイクル開発機構、東茨城郡大洗町成田町4002
Proc. of 28th Inter. SAMPE Tech. Conf. (1996) p. 711.

キーワード:セラミックス,ナトリウム,腐食,粒界,生成自由エネルギー
ceramics, sodium, corrosion, grain boundary, formation free energy
分類コード:110202

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