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作成: 1999/01/14 舘 義昭

データ番号   :110023
セラミックスのナトリウム腐食挙動
目的      :セラミックスの高温ナトリウムによる腐食挙動の解明
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構 大洗工学センター ナトリウム・安全工学試験部 機器・構造安全工学グループ
応用分野    :耐熱材料,耐食材料,耐摩擦・摩耗材

概要      :
 多くのセラミックス焼結体は、高速炉の冷却材に使用されている高温ナトリウムにより腐食を受ける。一般的な腐食形態は粒界腐食であり、特にセラミックス中に含まれるSiO2等の不純物が大きな原因であることが知られている。Al2O3,SiC,Si3N4等の代表的なエンジニアリングセラミックスのナトリウム中腐食試験を実施し、外観観察,重量測定,元素分析などからそれらの腐食挙動を調査した。
 

詳細説明    :
 近年、その発展が著しいエンジニアリングセラミックスは、耐熱性や高温強度等において、金属材料には無い優れた特性を有している。このような特性を持つセラミックスを原子力施設の機器・構造物へ適用することを目的として、代表的な原子力環境の一つである高温ナトリウムによる腐食挙動を調査した。主な対象材料として、酸化物系セラミックスとしてAl2O3,ZrO2に、非酸化物系セラミックスとしてSi3N4,SiC,Sialon,AlNに注目した。腐食試験にはループ型のナトリウム試験装置を使用し、セラミックス試験片を高温ナトリウム中へ一定時間浸漬し、その後、試験片の外観,微細組織等の観察、重量,元素分布の測定を実施した。ここで、腐食試験時のナトリウム温度は650℃であり、浸漬時間は最長4000時間である。
 
(1)酸化物系セラミックス
 ナトリウム浸漬により白色のAl2O3は灰色へ、灰色のZrO2は褐色へ変色した。この変色はナトリウム温度や浸漬時間に依存し、ナトリウム温度が高くなるほど、また、浸漬時間が長くなるほど、さらに黒色へ変化した。重量変化はAl2O3が減少を、ZrO2は増加を示した。それぞれの重量変化はナトリウム温度が高いほど、または、浸漬時間が長いほど大きくなる傾向を示した。Al2O3の重量変化はその純度に顕著に依存しており、図1に示すように純度が高い(99.9%以上)ものほど減少量は小さい。Al2O3に含まれる主な不純物は、Si,Mg,Ca等であり、これらは酸化物の形態でAl2O3中に存在している。特に、Al2O3の純度が低下すると、これらの不純物の中でもSi量が指数的に増加する。一方、ZrO2の重量増加は腐食生成物の材料表面への付着とZrO2内部へ浸入したナトリウムによるものであることが明らかとなった。低純度Al2O3(99.0%以下)の腐食形態やZrO2内部へのナトリウム浸入は粒界で起こっており、いずれのナトリウム腐食も粒界腐食であるといえる。
 
(2)非酸化物系セラミックス
 ナトリウム浸漬により灰色のSi3N4,Sialonの外観は褐色から黒色へ変化し、白色のAlNは灰色へ変化する。一方、黒色のSiCはあまり大きな色の変化は認められなかった。Si3N4,Sialon,SiCの重量変化はいずれも減少を示し、その減少量はナトリウム温度が高いほど、また、浸漬時間が長いほど大きい(図1)。一方、AlNは4000時間までのナトリウム浸漬による重量変化は非常に小さかった。Si3N4,Sialon,SiCではナトリウムは材料内部へ浸入し、特にSialonでは図2に示すように表面近傍の母材元素の溶出およびナトリウムとの反応が起こっていると考えられる。ナトリウムの浸入は粒界を通じて起こっており、材料内部においてもナトリウムは粒界相に存在している。また、SiCでは図3に示すようにナトリウム腐食により表面近傍の粒界相が消失し、多くの空隙が観察された。一方、AlNは材料内部へのナトリウムの浸入や表面近傍の組織変化は観察されなかった。


図1 Weight Change of Ceramics after Sodium Corrosion Test.(a) Oxide Ceramics, (b) Non Oxide Ceramics



図2 Elemental Variation of Sodium Exposed Sialon



図3 Microstructure of SiC after Sodium Exposure

 上述のように、Al2O3,AlNは高温ナトリウムに対して比較的良好な耐食性を示しているが、この耐食性はSiO2等の不純物の含有が非常に少ないことが条件であると考えられる。一方、ZrO2,Si3N4,Sialon,SiCでは材料内部へのナトリウムの浸入が活発であり、このナトリウム浸入によって、材料の表面近傍では腐食生成物の形成や母材元素の溶出、粒界相の消失などのナトリウム腐食が生じている。
 

コメント    :
 
 

原論文1 Data source 1:
Compatibility of Ceramics with Liquid Sodium
Y. Tachi, Y Hirakawa, E. Yoshida and S. Kano
核燃料サイクル開発機構、東茨城郡大洗町成田町4002
Proc. of 28th Inter. SAMPE Tech. Conf. (1996) p. 711

参考資料1 Reference 1:
高温液体ナトリウムによる各種セラミックスの腐食特性
舘 義昭、加納 茂機、平川 康、吉田 英一
核燃料サイクル開発機構、東茨城郡大洗町成田町4002
PNC TN9410 93-106 (1993)

参考資料2 Reference 2:
高温ナトリウム中での腐食
舘 義昭
核燃料サイクル開発機構、東茨城郡大洗町成田町4002
セラミックス Vol. 30, No.11 (1995) pp. 989-991

キーワード:セラミックス、ナトリウム、腐食、粒界、不純物
ceramics, sodium, corrosion, grain boundary, impurity
分類コード:110202

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