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作成: 1998/10/30 斉藤 淳一

データ番号   :110021
傾斜機能材料の研究開発
目的      :傾斜機能材料の熱応力解析と熱応力緩和に優れた傾斜機能材料の開発
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構 大洗工学センター 機器・構造安全工学グループ
応用分野    :原子力用材料、航空・宇宙用材料、エネルギー関連産業用材料

概要      :
 材料の厚さ方向に徐々に成分が変化する傾斜機能材料は、熱応力緩和型の新しい構造材料として期待されている。本研究では原子力環境下で発生する熱応力を緩和するための構造材料としての応用を試みた。そのために汎用構造解析プログラムの改良を行い、傾斜機能材料の熱応力解析を行い、熱応力を緩和する最適な傾斜成分を得るための設計手法を確立した。
 

詳細説明    :
 傾斜機能材料(Functionally Graded Material: FGM)は板厚方向への積極的な成分傾斜の導入により、内部に発生する熱応力の緩和機能を材料自身に具備させた材料で、原子力における極限環境下のみならず、航空・宇宙等の巾広い分野での応用が期待される材料である。最近では熱電変換素子のような機能性材料としての応用も試みられている。原子力(高速炉)環境下では、液体ナトリウムにより発生しやすい熱応力を緩和するサーマルライナーや耐熱性、耐食性に優れた超長寿命燃料被覆管としての適用が期待される。FGMの適用に際しては、使用環境に応じた最適傾斜組成分布を決定する必要がある。本研究では最初にFGM構造体において熱応力が最小となる傾斜組成とその分布の最適化を図る設計手法の確立を行った。これにはサイクル機構がこれまでに開発した汎用構造解析プログラムFINASを改良し、3次元FGM構造体の熱応力解析を行い、発生熱応力に及ぼす組成傾斜の影響について評価を行った。ここでは、熱応力解析コードの改良点と高温度落差場における平板状FGMの解析結果について紹介する。
 
1)FINASコードの改良
 FINASを用いた従来の解析では均質材料を対象としているため、計算に利用する物性データは1種類である。しかしながら、本研究で対象としているFGMは材料の位置により成分比が変化するため、物性データも同様に変化する。このことから、物性データを材料の成分の関数または位置の関数として取り扱うことができるようにデータ入力部分を整備した。
 
2)高温度落差場での平板状FGMの解析
 解析モデルには縦100mm、横100mm、厚さ10および5mmの部分安定化ジルコニア(PSZ)/SUS304系FGM平板を対象とした。図1(a)にはモデルの1/4セクターの8節点6面体要素を示す。板厚方向の成分分布には図1(b)に示す相対位置座標の指数関数形を採用した。


図1 Geometry of 3D analysis for PSZ/SUS304 FGM and compositional distribution along thickness direction for PSZ/SUS304 FGM(原論文1より引用)

 計算に必要な熱伝導率、密度、比熱、熱膨張率、ヤング率、ポアソン比はこれまでに公開されている均質材料に関するデータを利用し、成分依存式を作成した。熱伝導率、熱膨張率、ヤング率については代表成分について温度依存性を持たせ、これらの中間成分については混合則を適用した。FGMの厚さおよび成分分布をパラメータとして、温度および内部応力の非定常弾性解析を行った。温度条件は加熱表面2000K、冷却面1000K、解析時間は0.002〜1.80秒きざみで10秒とした。
 
3)解析結果と考察
 図2に温度解析結果を示す。


図2 Change of temperature of FGM plate along thickness direction(原論文1より引用)

 この図から過渡時温度分布は成分分布に依存することがわかる。PSZ成分が多いFGM1-8は遮熱性能が優れているので、冷却面側の温度上昇が緩やかである反面、定常状態に近づくにつれてSUS304成分の多いFGM2-8に比べて高温領域が広くなることがわかる。図3には一例として板厚5mmの板厚内の過渡時に発生する最大応力値を示す。


図3 Maximum transient stress for each region for FGM 1-8 to 2-8 unfixed & fixed plate ( 5 and 10 mm)(原論文1より引用)

 曲げ拘束がない場合は、加熱面、冷却面に圧縮応力、板厚中央に引張応力が発生し、曲げ拘束のある場合に比べて大幅に応力レベルは低下する。一方、曲げ拘束がある場合は、加熱表面の圧縮応力はほぼ一定で、最大圧縮応力は加熱面直下に発生し、SUS304成分が多くなり、その成分分布が急勾配になるほど大きくなる。PSZ成分が多い側では圧縮応力の成分依存の差がなくなり、冷却面には引張応力が発生することが明らかになった。
 
 以上のように、改良されたFINASを利用することにより、傾斜機能材料の非定常熱応力解析が可能となった。解析の結果、FGMは熱応力緩和機能が2層材より優れているため、熱応力環境化での適用限界が広くなることがわかった。また、熱応力緩和のための最適傾斜成分分布は高温度落差場では遮熱性に優れるセラミックス成分が多い方が有利であることがわかった。
 

コメント    :
 傾斜機能材料はさまざまな分野への応用が期待できる材料である。そのため、構造材料のみならず、機能性材料への応用も考えられる。また、本研究で利用している汎用構造解析プログラムは、一般の構造材料や構造体のプログラムを改造している。そのため、一般の構造材料や構造体の応力解析に十分に適用可能である。
 

原論文1 Data source 1:
Research on Creation of Functionally Gradient Materials
J. Saito, T. Nishida, M. Harada, T. Maruyama and S. Kano
Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation, 4002 Oarai, Ibaragi, 311-1393 Japan
Proceedings of the Interantional Symposium on MATERIAL CHEMISTRY IN NUCLEAR ENVIRONMENT, 885 (1996).

原論文2 Data source 2:
Research on Creation of New Materials for Innovative Improvement of FBR Performance (III) Development of Functionally Gradient Materials
M. Harada, S. Ukai, S. Nomura, S. Shikakura, S. Kano, T. Maruyama and Y. Himeno
Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation, 4002 Oarai, Ibaragi, 311-1393 Japan
Proceedings of the Interantional Symposium on MATERIAL CHEMISTRY IN NUCLEAR ENVIRONMENT, 325 (1992)

原論文3 Data source 3:
原子力用新素材の創製に関する研究
加納 茂機、井上 賢紀、木村 好男、平川 康、原田 誠、西田 俊夫、舘 義昭、吉田 英一
動力炉・核燃料開発事業団 大洗工学センター、東茨城郡大洗町成田町4002、311-1393
動燃技報、No. 91, 39 (1994).

キーワード:傾斜機能材料、熱応力解析、構造材料
functionally graded materials, thermal stress analysis, strucutural materials
分類コード:110302, 110303, 110501

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