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作成: 1998/11/30 斉藤 淳一

データ番号   :110019
表面改質による耐食性セラミックスの開発
目的      :イオン注入技術を利用したナトリウム耐食性に優れたセラミックスの開発
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構 大洗工学センター ナトリウム・安全工学試験部 機器・構造安全工学グループ
応用分野    :耐食材料、耐熱材料、耐摩耗性材料

概要      :
 ナトリウム耐食性に優れたセラミックスを開発することを目的として、イオン注入によりセラミックスの表面改質を行い、耐食性向上を狙った。基材にはSiC, SiAlONを、注入元素にはFe, Mo, Hfを選択した。注入後のナトリウム腐食試験の結果、SiAlONの長時間試験でイオン注入表面改質による耐食性向上の効果が顕著にみられた。
 

詳細説明    :
 セラミックスは高温強度に優れており、金属系材料に代わる高温構造材料として有望視されている。高速炉の構造材料は高温、ナトリウムおよび中性子照射と非常に厳しい環境下に曝されている。本研究では、高速炉環境下として特有の液体ナトリウム環境下に注目し耐食性に優れたセラミックスを開発することを目的とした。耐食性向上の方法として、イオン注入による表面改質を選択した。イオン注入による表面改質は極表面層だけの特性を向上される方法として有効である。
 
 イオン注入の基材は高温強度に優れ構造材料として有望視されているSi系セラミックスのSiCとSiAlONを用いた。さらに、注入イオンにはFe, Mo, Hfと純金属でナトリウムに対して優れた耐食性を示す元素を選択した。注入量はFeが1E17、 3E17および1E18、Moが3E16、2E17および1E18の3種類で、Hfが1E17の1種類とした。注入した試験片は、ナトリウム腐食試験により耐食性を評価した。試験条件は550℃または650℃で1000時間および4000時間とした。試験片のナトリウム腐食挙動に大きく影響を与えるナトリウム中の酸素濃度は1ppm以下とした。耐食性の評価方法として、試験前後の重量を測定するとともに表面解析により注入元素の効果やイオン注入による表面改質の有効性も調べた。
 
 腐食試験前の表面解析の結果から、SiC、SiAlONとも注入したMo, Fe, Hfの深さ方向の濃度分布は表面近傍でピークを示していた。また、表面分布では場所による濃度変化はなく均一に分布していた。透過型電子顕微鏡によるミクロ組織観察ではほとんどの試験片でハローリングが観察されイオン注入により注入層は非晶質化していることがわかった。以上のことから、注入元素は基材に均一に注入され非晶質化していることがわかった。
 
 図1には550℃、図2には650℃の各試験片の重量変化を示す。図中の破線はイオン注入していない未注入材の重量変化である。ほとんどの試験片で重量変化がマイナスを示しており、これは重量減少であることを意味する。図1のSiCの結果ではFe注入は未注入よりも1000時間、4000時間とも重量減少が大きく、耐食性向上に効果がないことがわかった。それに対して、Mo, Hf注入材の重量減少は未注入材のそれに比べて小さく、耐食性向上の効果がみられた。いずれの注入元素でも低注入量の方が重量減少が小さいのが特徴である。SiAlONの結果では1000時間後、Fe, Mo注入とも低注入量材でのみ耐食性の向上がみられたが、それ以外の注入量材では効果がみられなかった。しかしながら、4000時間の長時間試験では未注入材の重量変化の1/3以下で優れた耐食性を示していた。SiC, SiAlONとも注入元素としてはFeよりも Mo, Hfの方が良好な耐食性を示すことがわかった。


図1 Weight Change of SiC and SiAlON in liquid Na at 550℃ for 1000hr and 4000hr.

 図2の650℃ではSiCの1000時間、4000時間とも未注入材の重量減少と同程度かそれ以下で耐食性向上の効果は一応みられた。注入元素ではMoが最も効果が大きいといえる。また、SiAlONではほとんどの試験片で1000時間、4000時間ともに未注入材の重量減少に比べて1/2以下と小さく、イオン注入による耐食性向上の効果が大きく現われていた。注入元素ではSiCと異なり、Fe, Hfが優れた効果を表わしていた。


図2 Weight Change of SiC and SiAlON in liquid Na at 650℃ for 1000hr and 4000hr.

 腐食試験後の表面観察ではセラミックス特有の粒界腐食ではなく、均一腐食に近い腐食形態に変化していることがわかった。特にその傾向はSiCで顕著であった。さらに、深さ方向の注入元素の分布を調べた結果、Mo注入したSiCとFe注入したSiAlONではナトリウムと注入元素の分布がほぼ同一であった。これは注入元素によりナトリウムの侵入が抑制されたと考えられ、重量減少が小さくなり耐食性が向上した結果と一致していた。
 

コメント    :
 セラミックス系材料は高温構造材料として、有望視されているが解決するべき問題も少なくない。本研究では特にナトリウム耐食性に注目し、イオン注入による表面改質を利用して開発しているが、機械的特性の改良にもイオン注入は有望な手法であると考えられる。
 

原論文1 Data source 1:
イオンビームによる新しい表面改質材料の研究開発
林 和範、斉藤 淳一、舘 義昭、加納 茂機、平川 康、吉田 英一、瀬口 忠男、笠井 昇
核燃料サイクル開発機構、茨城県東茨城郡大洗町成田町4002
PNC TY9500 96-003.

キーワード:セラミックス、イオン注入、表面改質材料、ナトリウム腐食
Ceramics, Ion implantation, Surface modified materials, Sodium corrosion
分類コード:110104, 110202, 110503

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